肺炎とコレステロール
明後日から師走。いよいよ冬本番で、インフルエンザの流行が怖いですね。肺炎の併発も怖いです。肺炎というのはもちろん肺炎菌がひきおこす病気で、肺炎菌はふだんから喉や鼻の穴に平和的に住んでいますが、免疫抑制剤や抗ガン剤でホストの治療をおこなったり、インフルエンザに感染したときなどに増殖して病気をひこおこすとされています。ほかにもマイコプラズマなどが原因となるものなどがありますが、とりあえずここではおいておきましょう。
ニューモリシンという毒素を持たない肺炎菌は無害なことがわかっているので、ニューモリシンが悪者であることは確からしいのですが、その毒性発揮のメカニズムについては、いまいちわからないことも多いようです。現在わかっているのは、ニューモリシンは分子量が5万3千のタンパク質で、細胞膜のコレステロールと結合して溶血(すなわち赤血球の破壊)を引き起こすことと、補体系を直接活性化して炎症を引き起こすことです。
このことで逆に、細胞膜のコレステロールが細胞の構造維持に重要な役割をはたしていることが証明されたようなものですが(コレステロールは細胞膜で情報伝達に関与する因子が集結するラフトという構造に集まっているようです)、よくわからないのはニューモリシンはもともと細菌の細胞質にあるもので、細菌が死んで崩壊し、中身が細胞膜の外に出てこない限りわるさはしないということです。
これはもともとこの物質が、ひょっとするとホストを攻撃するために細菌がつくりだしたものではないのではないかと思わせます。肺炎菌はホストが健康でも、喉や鼻の穴でひっそり暮らすことができる細菌なので、ホストが死亡してしまったら元も子もないわけです。免疫系の一翼をになう補体系を活性化するというのも、ある意味ホストに手を貸しているとも考えられなくもありません。
もうひとつ不思議なのは、この細菌は増殖してコロニーをつくると、必ず多くの細胞が死んでしまうことです(ある意味、コロニーを作ること自体が自殺行為とも言えるでしょう)。危機(あるいは好機)を感知すると、こういう特殊なやり方で死んだ細胞に含まれる毒素をあたりにまき散らし、生き残りを図っているのでしょうか? そもそも毒素をまきちらすことに意味があるのでしょうか?
いずれにしても、ホストが弱って死にかかったときが、細菌にとっても大きな危機で、ここで生き残って他のホストに乗り移るために、一発勝負するのかもしれません。
参照: http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/books/rj_pdf/rj_no205.pdf (アクロバットリーダーが必要です)、Gilbert et al.: Structural basis of pore formation by cholesterol-binding toxins. Int. J. Med. Microbiol. 290 pp.389-394 (2000)
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