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2006年9月 4日 (月)

ハリネズミの毒耐性

Hedgehogen 仁科幸子さんの著書「ハリネズミ・トントが教えてくれたこと」(KKベストセラーズ刊)は私の愛読書のひとつです。私はハリネズミを飼ったことがなかったので、ペットの読み物としても、生物学の読み物としても、なかなかこの動物の行動は特異で、興味深い書物でした。その中に「(ハリネズミは)サソリにハチに毒ヘビ 毒グモに刺されたって、全然平気」という記述があり、以前からかなり気になっていました。キツネの百計、ハリネズミの一計ということわざがありますが、確かに危険がせまると丸くなって誰も手をだせない、という技で数千万年も生き残ってきた動物ではあるのでしょうが、それ以外にも秘密がありそうだと思われます。

調べてみると、ありました ありました。ヘビ毒への耐性についてはもう20年くらい研究が行われていて、これはハリネズミがエリナシンという、ヘビ毒に含まれる溶血因子の活性を阻害する毒耐性因子を持っているからということが分かってきました。もう少し詳しく言うと、ヘビ毒が含むタンパク質分解酵素(メタロプロテアーゼの一種)の活性を阻害する因子を、ハリネズミが持っていたのです。さらに、この因子はレクチン(糖類と結合するタンパク質)と非常に似た構造であることがわかってきました(1)。

ハリネズミはネズミの仲間ではなく、モグラの仲間であるとされています。ややこしいことに、やはり体に針様構造をもつハリモグラは、モグラの仲間ではなくカモノハシ目に属し、ヤマアラシはネズミ目です。最近の研究によれば、6千万年くらい前のハリネズミに近縁らしき生物の化石に、はっきりと毒牙が認められたそうです(2)。現在のハリネズミは、というより哺乳動物には毒牙を持ったものはいないわけですが、昔はすごい奴がいたものですね。

参照 1) Omori-Satoh et al, Toxicon 38, 1561-1580 (2000), 2) Fox and Scott: Nature 435, 1091-1093 (2005)

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