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2006年6月25日 (日)

コウモリと犬猫

すでに新聞でご覧になったむきも多いかと思いますが、Proc.N.A.S.USA June 27 (2006) に、コウモリはネズミよりも犬猫に近いという論文が発表されて話題となっています。
生物のDNAは私たちのパソコンのハードディスクのように、例えば10年前に書いたメールの下書きのような、古い時代のがらくたのような記録を無数に含んでいます。このような領域は必要なファイル(遺伝子)が占める部分より広大です。

この論文を発表した岡田典弘教授らのグループは、このようなDNAのがらくた領域に含まれるレトロトランスポゾンに注目し、生物進化の解析に利用しました。がらくた領域といっても、まったくでたらめな配列ではなく、一定の規則性を持つ部分があることがわかっています。通常生物はDNA→RNA→タンパク質という流れで、遺伝子の情報をタンパク質という実体に伝えるわけですが、何かの拍子に、生体内に本来ある、または感染したウィルスのRNAの配列が、逆転写酵素の作用によってDNAの配列(すなわちレトロトランスポゾン)として残されることがあります。いったんできた配列は、長い年月のうちに突然変異によって細かい変化がおきますが、識別できる程度の全体の構造は保持されます、

ここで似たような生物が4種類いたとして、ある1種だけがあるレトロトランスポゾンをもっていないとすると、その種はもっとも古いものと予想されます。すなわちある時代にこの生物群にレトロトランスポゾンがはいってきて、残りの3種類はレトロトランスポゾンがはいってから後に分かれたものと考えられます。次に別のレトロトランスポゾンについて調べることにより、残りの3種についても古い順がわかるかもしれません。

このような方法で、いろいろな哺乳類のDNAを調べることにより、今までの形態学的解析結果によらない、新しい系統樹を作ることができます。この結果によると、コウモリは馬や犬・猫と近縁で、次に牛・鯨のグループと近縁、ネズミやウサギとははるかに遠縁だということがわかりました。

私が最も関心をもったのは、センザンコウがコウモリ・犬・猫・馬のグループに含まれるということでした。センザンコウは毛のない哺乳動物で、かわりに体はウロコで被われています。上野動物園の夜の森舎で実物をみることができます。形はアリクイに似ているのですが、上記の解析ではアリクイとは全くの遠縁らしいのです。アリクイもウロコを持っているのですが、毛も結構あります。このあたりをいつの日か自分でも皮膚の標本をつくって、解析してみたいですね。

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