ヒラリー・ハーンとの出会い
私が初めてヒラリー・ハーンというバイオリニストを知ったのは、あるレコードショップの外盤売り場でした。当時宇宿さんのオーケストラでバーバーの「弦楽のためのアダージョ」を聴いたばかりだったので、バーバーの他の曲も聴きたい気持ちがあって、このバイオリン協奏曲のCDを選んだのです。ただその際にジャケットのとっても地味な、しかしちょっと怖い感じもする(宇宙人のような)不思議な少女に惹かれたことも事実です。
購入してみるとこれが大正解で、演奏も曲も素晴らしいものでした。曲はとてもロマンチックで、秋から冬の絵画館周辺の雰囲気で、自分に死期が近づいたときはこういう曲を聴いていたいなという感じ。演奏はとても繊細だけれども、決して脆弱ではなくどっしりとした落ち着きがあるという、瞠目すべきものでした。当時ヒラリー・ハーンの国内盤は一枚も出版されていなかったので、とんでもない宝物を発掘した気分でした。後で知ったのですが、アメリカでは天才少女として知られていて、メジャーなオーケストラとも数多く共演して、忙しい毎日だったそうです。
で、2006年6月8日のコンサートなんですが、会場は東京オペラシティーコンサートホール。もう26歳ですっかり大人になっていましたが、清楚で控えめなのに、そこはかとなくオーラがたちのぼる感じは、少女時代のジャケットと同じでした。驚いたのは、やたらに楽器を持った人が会場に多いことでした。平日なので、お稽古の帰りに直行した人が多かったのでしょうか。プロの卵達にも受けのいい人なんだと言うことがよく分かりました。
最初のイザイの無伴奏ソナタ第1番ト短調は、私には理解できない音楽なのですが、それでも演奏がすごいことは分かりました。決して技巧をひけらかすことなく、いわば高級車で高速道路を70kmくらいで走っている感じでしょうか。ひとふかしすると、あっという間に200kmくらい出ます。ひとふかしするときは、右足を軽く一歩前に踏み出します。
2曲目のエネスクのソナタ第3番イ短調は、高雅で繊細なジプシー音楽とでもいいましょうか(矛盾するみたいですが、実際には矛盾しない)、非常にわかりやすく楽しい音楽でした。ピアノのイム・ヒョスンとの掛け合いが、特にスリリングで面白かったです。世界中を同じプログラムで二人で演奏して回るということなので、親しい友人だとさぞかし楽しいことだと思います。日本では6回も演奏会をやるようです。もちろん本日も満員でした。
休憩後、ミルシテインのパガニーニアーナ。おなじみのメロディーで親しみやすく、彼女の演奏も自家薬籠中のようです。モーツアルトのソナタ第25番ト長調は、最初の1音から、ふくよかかつ繊細な音にノックアウトされました。ベートーベンのソナタ第3番変ホ長調は若い頃の作品で、曲自体がちょっと物足りなかったかな。
最高だったのは、アンコールの「アルベニスのタンゴ」。言葉ではいいあらわせない素敵なノリで、脳を踊らせくれました。締めはプロコフィエフの「3つのオレンジの恋」からマーチでした。はやくもまた2008年に来日して、シベリウスのコンチェルトをやることが決まっているそうです。
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