「渋めのダージリンはいかが」へようこそ

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「渋めのダージリンはいかが」へようこそ

・・・ここがメインルームです・・・

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メインルームの話題

サイエンス・都響(クラシック音楽)・JPOP・猫 etc.

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=アネックスのご案内=

生物学茶話(Science):こちら1

フィクション(Fiction):こちら2

JPOP名曲徒然草(Music):こちら3

生物学茶話PDF版 こちら4  こちら5
(PDF版には、はしがき、ページ付きもくじ、巻末索引がついています)

すべてフリーですので、ごゆっくりどうぞ 

「生物学茶話:@渋めのダージリンはいかが」の紙本は九州大学理系図書館、京都大学理学部図書館、島根大学附属図書館、東京大学理学図書館、東京工業大学大岡山図書館、北海道大学理学部図書室、杏林大学医学部図書館、電子書籍としては国立国会図書館に収蔵されています。

Hair follicle の本は Springer から出版したのでここには中身を掲載できませんが、アマゾンインターナショナルなどで販売しています。

入手が難しいかたは
http://morph.way-nifty.com/grey/2023/08/post-f37c78.html
の最下行に表示している連絡先にメールをしていただければご返事を差し上げます。

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2023年9月21日 (木)

最後の旅へ ノロジャーニー2024

Norojourney

うちのミーナやサラと相前後してNOROちゃんも逝ってしまい、愛用してきたノロジャーニーの日記帳もこの2024年版で最終になるそうです。ノロちゃんは18年間生きたそうで、私はその最後の数年間をいっしょに旅してきたことになります。

ノロちゃんは18年間世界各地を著者と旅しながら、素晴らしいショットをたくさん残してくれました。この最終号は総集編ということで、まずパラパラみていたのですが、サグラダファミリアの前の池でのショットなどは、その地に君臨している感じで圧倒されます。

日記帳なのでほぼ毎日ノロちゃんを見ながら私は生きてきました。そして2024年もそうして生きていこうと思っています。著者の平松謙三さんお疲れ様でした、そして有り難うございました。平松さんは岡山県出身の著述家・写真家ということで、これからもご活躍をお祈りしております。

 

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2023年9月19日 (火)

レネス・都響:プロコフィエフ ロメオとジュリエットより

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今月の都響は盛りだくさんですが、私はレネス指揮のコンサートに行くことにしました。タペア・ツィンマーマンというヴィオラの名人がソリストです。彼女はもうこれが最後の来日であることをほのめかしているので、23日のC定期が見納めになるかもしれません。東京に行くのは久しぶりですが、相変わらずの猛暑で体力を消耗します。都響も岩手からとんぼ返りで、月末には愛知と福井で演奏会というのはいかがなものか。そういうのはN響の役割ではなかろうかと思います。そのためにN響は団員を増やすべきです。

都響は名古屋や大阪や福岡などでも公演やってますが、そんなにあちこちで地方公演をやるのに、都内でも川向こう=足立・葛飾・江戸川・江東・墨田にはめったに来演しません。ちなみに千葉・埼玉・神奈川・茨城・栃木・群馬でもめったにやりません。都響は東京都の外郭団体ですよ。ただ今年はとても珍しいことに墨田区のトリフォニーで年末に第九をやります。来年は芸劇が改修なのでひょっとしたら川向こうで演奏する機会があるかもしれません。

ヴィオラという楽器はバロック時代からあまりにも軽視されていて名曲が少ないのが難点です。今回もモーツァルトのクラリネット協奏曲を編曲したもので、去年亀居さんのバセットクラリネットによる名演奏(1)を聴いてしまったので、非常に違和感がありました。ヴィオラの音は弦楽合奏に吸収されがちなのでイライラします。それでもヴィオラの柔らかなテイストでこの曲を表現したいという意図はわかりましたし、楽しめなかったという訳ではありません。タペアさんはアンコールのときに老眼鏡を忘れて取りに帰るようなお茶目な方でもあります。

藤岡さんはレネスさんの旧友ということで昨日聴きに来られてたようです。「X」でレネスには昔日本人の恋人がいたなどとばらしています(2)。日本語も少しはわかるってことかな? レネス氏は名指揮者で、どんな曲をやっても安心して聴けるような感じがします。今回のプロコフィエフも本当に素晴らしい演奏で、まるで都響がいつもよりレベルアップしたような印象を受けました。それにしても広田氏のネクタイは派手。まあこういうので演奏会をやる都響の自由な雰囲気は好きですけどね。

終演後三軒茶屋に立ち寄りました。茶沢通りも太子堂中央街も以前より賑やかになっていました。日本全体が寂れていくなかで、東京にはこういうところもあるんですね。人間は都市計画が行き届いた整然とした町より、下北沢や三軒茶屋のようなごちゃついた街の方が落ち着くという気持ちはよくわかります。私も千葉ニュータウンなどという街に住み着いたのは大きな間違いだったと思いますが、今更気がついてももうどうしようもないですね。

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2022/11/post-582e26.html

2)https://twitter.com/sacchiy0608?utm_source=yjrealtime&utm_medium=search

 

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2023年9月16日 (土)

西村朗氏の早逝を悼んで

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西村朗 作曲
大手拓次 歌詞
「まぼろしの薔薇」
1.まぼろしの薔薇
2.薔薇の誘惑
3.ばらのあしおと
4.孤独の薔薇
5.ひびきのなかに住む薔薇よ

個人的には 4.孤独の薔薇 が特に好きです

東京大学コーロ・ソーノ

1.まぼろしの薔薇
https://www.youtube.com/watch?v=2Lf1JuYBaiw

2.薔薇の誘惑
https://www.youtube.com/watch?v=uaYlkHYYRo0

3.ばらのあしおと
https://www.youtube.com/watch?v=-iPQhGVWqQI

4.孤独の薔薇
https://www.youtube.com/watch?v=IqRTFbp63iM

5.ひびきのなかに住む薔薇よ
https://www.youtube.com/watch?v=myut2ga-xUo

 

Chor June (女声合唱団) 女声合唱への編曲:甲田潤
https://www.youtube.com/watch?v=9jnEVNg9tjE

映像はありませんがプロ合唱団の演奏
孤独の薔薇
https://www.youtube.com/watch?v=RLaaDqEa6z0

慶應義塾 ワグネル・ソサエティー男声合唱団 (男声合唱に編曲)
孤独の薔薇
https://www.youtube.com/watch?v=uu88Q58mIfE

楽譜
https://www.youtube.com/watch?v=dVvezlvPdyU

リトルスピリッツ ばらのあしおと
https://www.youtube.com/watch?v=a4PR9Gkrvf0

ひびきのなかに住む薔薇よ 朗読
https://www.youtube.com/watch?v=fKEp7AJ2xPw


★ 写真はこのブログの守護神 ミーナ(左)とサラ(右)

 

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2023年9月15日 (金)

IWJの悲劇

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IWJ(Independent Web Journal) の岩上安身氏が官邸の記者会見から排除されたそうです。特に何のトラブルも起こしてないので、本人も狐につままれたような感じだと思いますが、そうだとすると日常の報道の内容が政府の気に入らなかったということでしょう。IWJの記事は福島第一原発事故の頃読んでいました。よく取材して書いている良心的な記事だと思っていました。望月衣塑子氏の排除もひどいものですが、ややしつこい感じもあったのでわからないでもありません。しかし岩上安身氏の排除は会場でのトラブルもなく突然ということで、より純粋に政府に批判的な記者の排除というあまりにも露骨な言論弾圧です。

彼の「X」(旧twitter)の内容を見てみると、最近はよくウクライナの右翼の悪行について書いているので、これが政府にとって好ましからざる報道だったと思われます。ウクライナは「善」、ロシアは「悪」というイメージを固定しなければならないというのは、NATOに媚びを売りたい政府にとっては絶対の政策なのでしょう。ウクライナの反政府勢力もそれなりに政権に反対する理由があるわけで、彼らの意見を一切黙殺するというというのは、言論の自由の根幹に触れると思います。

岩上安身氏のX
https://twitter.com/iwakamiyasumi

IWJの記事
https://iwj.co.jp/

(写真はウィキペディアより)

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2023年9月14日 (木)

阪神タイガース 祝優勝

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日本で最初のプロ野球チームはどんなチームだったのでしょう。これは1920年に設立された日本運動協会です。当時人気絶頂だった大学野球がチャラチャラしすぎだということで、その腐敗堕落をただすために設立されたようです。2番目は天勝(てんかつ)野球団。日本運動協会は関東大震災によって球場が接収され、1924年にいったん解散しましたが、後の阪急電鉄(現阪急阪神ホールディングズ)が同年に再建し、宝塚運動協会という名前で、宝塚球場を本拠地として1929年に解散するまで興行していました。宝塚球場は現在宝塚ファミリーランド(遊園地+動物園)となっており、そこには私も子供の頃何度か訪れたことがあります。甲子園球場は中等学校野球(現高校野球)を行うために、1924年に建造されました。

そしていよいよ1936年に、日本3番目のプロ野球球団として1934年設立の東京巨人軍、1935年暮れに発足した大阪タイガース(1940年に阪神軍に改名)の2球団に加えて、名古屋軍、東京セネタース、阪急軍、大東京軍、名古屋金鯱軍の7球団で日本職業野球連盟が設立され、4月に第1回のリーグ戦が開催されました(但し、東京巨人軍はアメリカ合衆国遠征中のため参加できず。)。同年7月には東京巨人軍も参加しての連盟結成記念のトーナメント戦がおこなわれ、9月-12月の秋季大会で初めて優勝チーム決定戦がおこなわれました。

1944年には太平洋戦争の戦局が悪化し、プロ野球公式戦は廃止されました。しかし戦争が終了した翌年の1946年には8球団でプロ野球が復活しました。つまり日本のプロ野球は1920年以来1944年、1945年の2年間をのぞいてずっと継続しているわけです。2023年セ・リーグのペナントは、われらの阪神タイガースが獲得しました。おめでとう。そして日本シリーズめざして突き進もう。Vamos!

現在の阪神タイガースのフランチャイズはもちろん甲子園球場で、この球場はスポーツ、芸術、学術の町兵庫県西宮市にあります。この町にはタイガース以外にも神戸女学院、兵庫芸術文化センター管弦楽団、関西学院大学、武庫川女子大学などがあります。

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2023年9月11日 (月)

続・生物学茶話220:多光子顕微鏡

続・生物学茶話193(1)で2光子顕微鏡についてすでに少し取り扱っています。しかし193は脳の老廃物廃棄システムという話題を主としていましたし、新たに3光子(多光子)顕微鏡などについても述べるためにここで別項を設けました。一部193の話題も引用しながら述べようと思います。

脳科学辞典によると多光子顕微鏡は「蛍光分子は光子を吸収して10~15秒程度で励起状態に遷移し、10-9~10-8秒程度の時間(蛍光寿命という)ののちに光子を放出して基底状態に戻る。自然界に一般的に見られる蛍光現象は1つの光子が1つの蛍光色素分子に吸収される1光子励起によるものである。ところが、特殊な条件下では2個以上の光子が一度に1つの蛍光色素分子に吸収される多光子励起とよばれる現象が発生する。この多光子励起による蛍光を利用して蛍光分子の分布を光学的に観察する顕微鏡を多光子顕微鏡と呼んでいる。」と説明されています(2)。

ここで言う特殊な条件下とはどういう条件なのでしょうか? 通常の蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡観察では蛍光分子を紫外光・可視光で励起して、基底状態に戻るときに発出する蛍光を観察します。この場合ひとつの光子が蛍光分子に当たって、蛍光分子が励起状態に遷移します。しかしエネルギーが低い(波長の長い)近赤外域の光を当てた場合も、低い確率ですが2つの光子によって同様に蛍光分子が励起状態に遷移する場合があります(2、3)。1つの光子で励起した場合と2つの光子で励起した場合でその励起状態の分子構造が違うというデータがありますが(4)、エネルギーレベルはほぼ同じなので結果的に同様な蛍光が観察され、顕微鏡を利用する立場としては気にしなくてもよいようです。

1光子励起と2光子励起(図220-1)には次のような違いがあります。

1.2光子で励起する場合、1光子励起の場合に比べてひとつの光子のエネルギ-は半分で良い。したがって波長が2倍の光子(赤外域)で励起できる。

2.2光子励起は1光子励起よりも非常に起こる確率が低く、実用的にするためには照射する光子の密度を高める必要がある。

2のため超短パルスレーザーという特殊な装置が必要ですが、光子密度の高い対物レンズの焦点付近の蛍光分子だけを励起できるという利点もあります。1については、波長の長い近赤外域の光を使えるので組織浸透性が高い(散乱が少ない)という利点があります。これらについてはまた後に述べます。

2光子励起の原理についてはマリア・ゲッパート=メイヤーが理論的予測を1931年に行っていましたが(5)、当時は超短パルスレーザーという装置がなかったので、現象を実験的に確認することはできませんでした。マリア・ゲッパート=メイヤーは原子核の安定性に関する研究で1963年にノーベル物理学賞を受賞しています。

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図220-1 1光子励起と2光子励起

共焦点顕微鏡も含めて通常の蛍光顕微鏡では、図220-2B-bのように集光点前後の鼓型の領域(ランプシェード)全体の蛍光分子が励起されバックグラウンドが増えてしまいますが、2光子顕微鏡の場合2光子による励起は非常に光子密度が高い状態だけで起こる現象なので、図220-2B-cのように集光点近傍でしか起きません。したがって集光点の深度を変えて撮影しコンピュータで処理すれば、バックグランドの低い鮮明な立体画像が得られます。

また励起光が赤外線領域の光なので試料を透過しやすく、標本の深部まで観察することができます。したがって切片を作成しなくても、スライスや生きたままの生物試料を観察できます。この特徴は1光子顕微鏡より2光子顕微鏡、2光子顕微鏡より3光子顕微鏡を用いればより深い場所まで観察できることを意味します。

2光子顕微鏡が実用上すぐれているのは、ランプシェード領域にある自家蛍光の影響も軽減できるという点で、しばしば致命的な悪影響を与える自家蛍光のバックグラウンドを軽減できるというのは革命的です。

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図220-2 2光子顕微鏡のしくみ

1光子励起による蛍光顕微鏡では既述のような理由で切片のような薄いシートを作らないと検鏡できませんが、2光子顕微鏡では数百マイクロメートル程度の深度までは検鏡できます(6、図220-3B)。それより深い部分を見るには3光子顕微鏡を用いる必要があります。このためには1300nmの赤外線を用いる必要があります。図220-3Aに示してあるように、1光子励起の場合、励起が起こる確率は光子数に比例しますが(S∝I、線形)、3光子励起の場合光子数の3乗に比例します(S∝Iの3乗、非線形)。

したがって十分な励起分子を得ようとすると、大量の光子が必要になります。赤外線を照射すると熱が発生することも考慮しなければならないので、現在実用的なのは3光子顕微鏡までということになります。3光子顕微鏡を用いれば900μmの深度でもコントラストが良好な画像を得ることができます(図220-3B)。アクバリらによれば1200μmの深度でも良好なコントラストの画像が得られることが示されています(7)。マウスの大脳皮質の厚みは800μm程度であり、この深度はそれをはるかに超えているので、マウスの頭蓋骨をはがしてガラスに変えればほとんどの脳の活動を生きたまま観察できるということになります。

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図220-3 2光子励起と3光子励起

図220-4は実際に生きているマウスの海馬錐体細胞の活動を記録したデータです(8、9)。近い未来に記憶という行為を実行しつつある海馬細胞およびそのネットワークの活動を、リアルタイムで観察した論文が出版されるに違いありません。これはかなりエキサイティングですが、最近の論文の出方をみるとどうもこの分野の主戦場は中国になりそうです。

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図220-4 3光子顕微鏡によるマウス脳の観察

参照

1)続・生物学茶話193: 脳の老廃物廃棄システム
http://morph.way-nifty.com/grey/2022/11/post-dc75c3.html

2)脳科学辞典 2光子顕微鏡(多光子顕微鏡)とは
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/2%E5%85%89%E5%AD%90%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1

3)藤崎久雄 ビデオレート2光子顕微鏡 生物物理 vol.40. no.3, pp.195-198 (2000)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/40/3/40_3_195/_pdf/-char/ja

4)細井晴子、山口祥一、水野秀昭、宮脇敦史、田原太平  理研研究紹介 蛍光タンパク質の隠れた電子励起状態
http://www2.riken.jp/ExtremePhotonics/ultrafast/No.13.pdf

5)Über Elementarakte mit zwei Quantensprüngen. Annal Physik vol.9, pp.273-294 (1931)
https://bsd.neuroinf.jp/w/images/9/99/Goeppert-Mayer_1931.pdf

6)本谷友作 3 光子顕微鏡による生体深部のイメージング 生物工学会誌 第 100 巻 第 7 号 pp.371–374 (2022)  DOI: 10.34565/seibutsukogaku.100.7_371
file:///C:/Users/Owner/Desktop/220/%E2%97%8B3%20%E5%85%89%E5%AD%90%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E7%94%9F%E4%BD%93%E6%B7%B1%E9%83%A8%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%B0.pdf

7)Najva Akbari, Mihailo R Rebec, Fei Xia, and Chris Xu, Imaging deeper than the transport mean free path with multiphoton microscopy., Biomedical Optics Express Vol. 13, Issue 1, pp. 452-463 (2022) https://doi.org/10.1364/BOE.444696
https://opg.optica.org/boe/fulltext.cfm?uri=boe-13-1-452&id=466263

8)Yujie Xiao, Peng Deng, Yaoguang Zhao, Shasha Yang and Bo Li, Three-photon excited fluorescence imaging in neuroscience: From principles to applications., Frontiers in Neuroscience 17, 1085682 doi: 10.3389/fnins.2023.1085682
file:///C:/Users/Owner/Desktop/3%20photon%20microscopy%20mouse%20brain.pdf

9)Ouzounov, D. G., Wang, T., Wang, M., Feng, D. D., Horton, N. G., Cruz-Hernández,
J. C., et al. (2017). In vivo three-photon imaging of activity of GcamP6-labeled neurons
deep in intact mouse brain. Nat. Methods 14, 388–390. doi: 10.1038/nmeth.4183
https://www.nature.com/articles/nmeth.4183

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2023年9月 9日 (土)

生き物のいない部屋

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私がPCのスイッチをつけると、いつの間にかディスプレイに小バエが飛んできてひらひらと飛び回り迷惑していました。それでも数日観察したりしていたのですが、煩わしくなってナイス蚊っちで殺してしまいました。そうすると部屋の中に全く生き物がいなくなって、あまりにもさみしい世界になってしまいました。少し後悔しました。

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2023年9月 7日 (木)

My favorites 22: 三ツ橋敬子-京響の「新世界から」

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ロームシアター京都で開催された「ローム ミュージック フェスティバル2017 オーケストラ コンサートⅠ」
三ツ橋敬子 京都市交響楽団
曲目:ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界から」 ~ Antonin Dvorak : Symphony No.9 in E minor, "From the New World", Op.95 ~

https://www.youtube.com/watch?v=Ak6SugzsoE4

冒頭から音の柔らかさが感じられます。特に第2楽章は日没直後薄暮のマジカルな雰囲気が感じられ、コーラングレもノスタルジ-にあふれた抑制された美しい世界に浸らせてくれます。全体的に音量が小さい部分の細部の美しさにこだわったユニークな演奏だと思います。

都響アーカイブで調べると、2011年調布グリーンホールで一度三ツ橋さんは都響を指揮した演奏会をやっていて、このとき私も聴いたことを覚えています。アルビノーニのオーボエ協奏曲 op.9-2は大好きな曲ですが、「これはノリが重たいな」とあまり感心しなかったことまで覚えていました。ソリストのせいかもしれませんが・・・。

今回の京響の演奏を聴くと、三ツ橋さんには是非都響でブラームスを聴かせてもらいたいと思いました。各地で引っ張りだこの割にはどこのオケの常任もやっていないのが不思議です。まあその方が気楽なのかもしれませんが。

 

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2023年9月 4日 (月)

続・生物学茶話219:fMRI

読者の皆様のなかにはMRIを経験された方もいらっしゃるかもしれません。私はあの工事現場のような騒音にさらされる検査を経験したことがあります。現在は多分もう少し静かな検査になっているかもしれません。本来は核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance=NMR)という名前なのですが、医療の場合「核」という言葉がマイナスイメージなので忌避されることを恐れて MRI(magnetic resonance imaging) としているそうです。

MRIの原理については一応大学の教育用資料(1)を読みましたが、わかったようなわからないような気分です。ヘモグロビンは図219-1のように酸化ヘモグロビンの状態と還元ヘモグロビンの状態があり、酸素が必要とされるような環境では酸素分子を解離して還元ヘモグロビンとなります(2)。還元ヘモグロビンは常磁性なのでMRIの信号は小さくなります。

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図219-1 ヘモグロビン分子のリボンモデル

ニューロンが刺激を与えられ活発に活動すると、図219-1の原理で言えば酸素を消費するので周囲の血流内の還元ヘモグロビンが増加しMRIの信号が小さくなるということになりますが、実際にはそうはならず、ニューロンが活発に活動するとその部域にむしろ顕著な動脈血の流入増加がみられ、その影響の方が大きいため酸素ヘモグロビンが増加してMRIの信号は大きくなります(3、図219-2)。ただその流入が収まった頃には還元ヘモグロビンの増加の影響がみられます(図219-2)。信号の増加は典型的には神経活動から5~6秒ほどでピークに達し、約 20秒ほどで元に戻ります。

このようなMRIの信号の変動を利用してニューロンの活動を研究する場合、fMRI(functional MRI)法を用いた研究ということになります。脳科学辞典の正式な定義では「機能的磁気共鳴画像(fMRI)とは、磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging; MRI)を用いて生体の脳や脊髄を一定時間連続的に撮像し、脳活動(神経活動とシナプス活動等の総和)と相関するMRI信号の変動を非侵襲的に計測する技術である」となっています。

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図219-2 短時間の感覚刺激後に生じるMRIの信号(BOLD信号)

核磁気共鳴の原理はなかなか難解ですが、その原理を示して測定機器を開発したフェリックス・ブロックとエドワード・パーセルは1952年のノーベル物理学賞を受賞しています。そして核磁気共鳴の装置を使って水と重水を識別することに成功したポール・ラウターバーと、その画像化に貢献したピーター・マンスフィールドは2003年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。マンスフィールドが開発したEPI法(Echo Planar Imaging Method)は現在も使われているようです。MRIのイメージングについて解説した日本語の総説もありますが(4)、畑違いは恐ろしく私には全く理解できません。医師や医学研究者も原理を理解できないまま画像を撮影しているのではないかと思われます。

脳科学辞典にも「fMRIの撮影には、BOLD信号のコントラスト源であるT2*減衰を鋭敏にとらえ、かつ時間分解能も高いエコープラナー画像(EPI)法を用いることがほとんどである。」とさらっと書いてあります。ただ実施上の注意点や統計解析などについては割と詳しく書いてあります(3)。

開発者たちは生理学・医学とは無縁の分野の研究者ですが、彼らの研究結果は脳梗塞などの診断に汎用される機器として結実しました。基礎科学が臨床に応用された典型例でしょう。

平野好幸らは咀嚼することによって脳の一部が活性化され、作業記憶が活性化されることをfMRIを使って証明しました(5、6、図219-3)。図の黄色い部分が活性化された場所です。堀田晴美らはマイネルト基底核が刺激されることによって、この部分の血管が拡張されたことを示しました(7、8)。MRIが臨床には汎用されているにもかかわらず、ニューロンの活性化と血流の増加の関連が曖昧であったことは研究者にとっては隔靴掻痒でしたが、しだいにそのメカニズムも解明されつつあるようです。

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図219-3 噛むことによって刺激される脳の領域をfMRI法で検出

fMRIは統合失調症の研究にも使われています。被験者を健常群と患者群にわけて安静時のMRI信号を測定し。その脳の各部分での波形に基づき信号が似ている場合同じ色にするという方法で、健常群と患者群のネットワークを比較するという実験があります。この色の分布を比較すると患者群と正常群ではそれぞれ独特な色分けになることが判明しました(9、10、図219-4)。これは患者群と正常群でネットワークのシステムが違うことを意味しています。非常に興味深い研究だと思います。今後の発展が期待されます。

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図219-4 統合失調症患者の脳内ネットワークの異常をfMRIで検出

 

参照

1)新潟大学教育用資料 MRIとは。 15分で分かる(?)MRI
https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~nisiyama/MRI-15-min.pdf

2)Wikipedia: Hemoglobin
https://en.wikipedia.org/wiki/Hemoglobin

3)脳科学辞典 機能的磁気共鳴画像法
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%A9%9F%E8%83%BD%E7%9A%84%E7%A3%81%E6%B0%97%E5%85%B1%E9%B3%B4%E7%94%BB%E5%83%8F%E6%B3%95

4)町田好男、森一生 MRI 高速撮像の進展 ~画像化の原理から圧縮センシングまで~
医用画像情報学会雑誌 vol.31 no.1 pp.7-11 (2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mii/30/1/30_7/_pdf/-char/ja

5)平野好幸 ロッテ 噛むこと研究室 噛むことインタビュー No.28
https://www.lotte.co.jp/kamukoto/brain/1055

6)Yoshiyuki Hirano et al., Effects of chewing in working memory processing., Neuroscience Letters, vol.436, Issue 2, pp.189-192 (2008)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304394008003169

7)東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース 「咀嚼にともなう脳血流増加の神経メカニズムを解明」
https://www.tmghig.jp/research/release/2019/1225.html

8)Harumi Hotta et al., Involvement of the basal nucleus of Meynert on regional cerebral cortical vasodilation associated with masticatory muscle activity in rats.
Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism, vol.40, Issue 12, 2019
https://doi.org/10.1177/0271678X19895244
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0271678X19895244

9)国立研究開発法人 情報通信研究機構 プレスリリース
ネットワーク理論に基づいた新しい統合失調症の解析手法を開発〜脳全体の相互関係に着目したモジュール解析による特徴付け〜 (2015)
https://www.nict.go.jp/press/2015/07/28-1.html

10)Ferdinand Peper, Tetsuya Shimokawa, Kenji Leibnitz, and Ben Seymour, From Networks of the Brain to Information Networks Inspired by the Brain., 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1, pp.51-58(2018)

 

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2023年9月 1日 (金)

Akira Miyoshi : Requiem

Requiema

https://www.youtube.com/watch?v=QLWW8tIfs8I

This music is not the western style requiem. It constitutes of the words of japanese poets, letters of dead soldiers, and the music of Miyosi as a grave keeper. I think that Miyosi rebukes japanese people on behalf of the persons killed in the war. It is filled with blood, grudge, bones and love.

 

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2023年8月31日 (木)

出産年齢の高齢化は社会の崩壊を招く

日本では初婚年齢が年々高くなっていて(図1)、厚生労働省によると2022年度には女性の初婚年齢が29.5才となり30才最目前まで上昇してきました。1970年には24才だったのですから、ここ50年で5.5才も上昇しました。

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図1

これは決して放置しておいて良いことではありません。ダウン症の発生率はひとつの指標ですが、図2をみると30才を超えると顕著に上昇していることがわかります。年齢上昇にともなって卵の遺伝子にさまざまな異常が発生することは間違いありません。これは高齢なほど多くの放射性物質、突然変異誘起物質、宇宙放射線に長時間さらされているので当然です。たとえばハムやベーコンその他の加工肉類に含まれているアゾ色素は凶悪な食品添加物で、それを使ってマウスの発がん実験などがよく行われていました。無塩せきと書いてある製品には含まれていません。

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図2

年齢の上昇に伴って精子にも異常が発生することも知られています(1)。図3では特に精子DNA断片化指数(DFI= DNA fragmentation Index)に注目すべきです。精子・卵子の遺伝子が劣化すれば、当然子どもの質も劣化し、病気も増えるでしょう。

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図3

男女ともに高齢でできた子どもは異常な遺伝子を持つことになる可能性が高く、いったんそうなると子々孫々に損傷したDNAが伝承され、日本の状況が変わらなければますます日本人のDNAは劣化していくでしょう。

これを防ぐため緊急にできることとしては。若いうちに結婚出産すれば得になるような税制が必要だと思います。親が10代の場合、子どもは社会が面倒を見るような制度も歓迎されるべきでしょう。損傷のないDNAを持つ子どもはそのくらい貴重です。

長い目で見れば社会が若年者の結婚を歓迎するようなシステムをつくっていくことが重要です。個人的には20代男性社員の収入をふやす、20代女性社員の仕事を減らすことが必要だと思います。男女平等の理念に反するかもしれませんが、ヒトも哺乳類なのでその生物学的なメスの役割は定められています。母乳の必要性も再認識されています(2)。

また意味もなく大卒が高卒より厚遇されることがないようなシステムを作ることが重要です。まず公務員から高卒を多く採用するようにしてはどうでしょう。意味のない大学は減らすこともあり得ます。そのくらい結婚・出産の高齢化は社会にとって危険だと思います。

1)クローズアップ現代 男にもタイムリミットが!?~精子“老化”の新事実~
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4097/

2)Babysmile 赤ちゃんの健康情報
https://www.babysmile-info.jp/community/mothersmilk-2/



 

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2023年8月30日 (水)

Hair follicle Differentiation under the electron microscope

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2023年8月28日 (月)

ラミネ・ヤマル 16才の衝撃

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昨シーズン15才で衝撃のトップチームデビューを果たしたラミネ・ヤマルは、6才からバルサのカンテラに所属している生粋のバルサチルドレンです。彼は今シーズン退団したデンベレの後を引き継いで、右サイドのフォワード(エストレーモ)でレギュラーとなっていますが、なにせベテランのような落ち着いたプレーで驚かされます。

デンベレのように派手な切り返しでDFをぶち抜いていくというスタイルではなく、ヤマルは瞬間瞬間でベストのプレイを選択するそのクールなスタイルが持ち味です。まわりをいつもきちんと見ていますし、自分で突破しようと思えばその能力は高いし、シュート力もあります。いやはやとんでもない選手がでてきたものです。

ただ今シーズンのバルサが安泰かというとそうではありません。ビジャレアル戦でも3点もとられてしまいました(4点とって勝ちましたが)。セルジ・ロベルト、クンデ、クリステンセン、マルコス・アロンソのDFでアロンソは前目ですから、残りの3人では心許ない感じで、攻撃力が強いチームと当たるとスカスカ突破されます(泣)。アラウホの負傷が癒えるまでなんとか頑張らないと。

(写真はウィキペディアより)

 

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2023年8月27日 (日)

日本は詰んでしまうのか?

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%A2%E9%A4%93#

このウィキペディアのグラフはちょっと古いので、今では日本人のカロリー摂取はインドやエチオピア以下になっているおそれがあります。それにしても2009年にすでに世界平均以下だったとは!

食料とは離れますが、千葉ニュータウンからもっとも最寄りのみずほ銀行だった鎌ケ谷店が閉店となり、船橋店に統合されました。また三井住友銀行の千葉ニュータウン店が閉店となり、一時的にイオンモールに移転していましたが、なんとその店も船橋に統合されるようです。船橋まで往復するのは半日じゃすまないかもしれません。結局銀行との付き合いはCDだけとなり、銀行員の顔を見る機会はほぼなくなるでしょう。私はみずほ銀行の通帳を更新するため東京まで行きました。重要なインフラが衰退するのは困ります。銀行がスポンサーの名古屋のしらかわホールも閉館となるようです。
https://www.asahi.com/articles/ASQ1L4H2CQ1LOIPE00C.html

もっと深刻なのは、その銀行の元締めである日銀が金利を上げないことです。これが原因で円安になり物価が上昇を続けると、まず生活保護利用者や年金生活者が食べていけなくなります。現在すでに慈善団体による配給で生きている人がかなり増えてきているようです。国民健康保険料の滞納も245万世帯に達しているようです。配給がなくなると餓死者が増えることになります。
https://tanakaryusaku.jp/2023/08/00029370

 

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2023年8月24日 (木)

報道ステーションのバイアス

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今報道ステーションを見ています。福島の原発からの汚染水放出問題を取り扱っていましたが、中国の日本からの水産物輸入禁止は報道しましたが、韓国で日本大使館が襲撃された事件は報道しませんでした。これはバイアスがかかっていると思います(韓国の反日は報道をひかえる)。ちなみに韓国では福島などの水産物は前から輸入禁止です。しかもこの措置はWTOが正当と認めています。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/16582.html

テレ朝ウェブサイトにはちゃんと大使館事件の顛末が出ています。社員の多くはフェアな報道をしようと思っているのに、圧力がかかっていると想像されます。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000312944.html

汚染水放出にはいくつか問題があります
1)トリチウム濃度は薄くても、政府が言うように30年で終わる可能性は低い。
2)総量は30年だけ流すとしても20兆ベクレル以上でそこそこ。
3)トリチウム以外の核種も実は漏れている
4)放射線に関心がある方なら誰でも知っていることですが、放射性物質の危険性は量が多くなればそれだけ危険というもので、どこから上が危険でどこから下が安全という閾値はありません などなど

本当にやばいのは六ヶ所村の再処理工場で、ここから出る放射性物質の危険性は今回の放出とは比べものにならないくらい大きいので、もし稼働をはじめたら特段の注意が必要です。
https://cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho

今回の放出で、私は水産物を食べることをやめはしません。むしろ価格が下がって歓迎したいくらいです。

(写真はウィキペディアより、原著は資源エネルギー庁のウェブサイト)

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2023年8月23日 (水)

U-NEXTでラ・リーガにたどり着くには

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すぐに改善されるとは思いますが、今夏はじまったばかりなのでたどり着くのに難儀しました。

1.U-NEXT  https://video.unext.jp/

2.左端にメニューが出ていれば「サッカー」をクリック 出ていなければ検索窓にサッカーと入力してリターン 左端にメニューが表示されるようにして「サッカー」をクリック

3.「一覧から探す」をクリック

4.「すべての作品」をクリック

5.検索窓をクリック(何も入力しなくてよい)

6.ライブ配信の「サッカー一覧」をクリック

7.ラ・リーガをクリック

上の方はライブ配信の予定
下にスクロールすると見逃し配信が出てくる



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2023年8月22日 (火)

続・生物学茶話218:記憶3 馴化の解消

217では馴化について書きましたが(1)、同じ刺激が繰り返される場合それが無害であれば馴化は生物にとって好ましいまたは必要不可欠な反応ですが、同時に別の刺激を受ければ馴化は解消されなければなりません。「別の」というのは別の部域への刺激、別の種類の刺激、同じ種類だがより強烈な刺激などを含みます。

アメフラシで言えば、水管を波が揺らした刺激には馴化していても、魚につつかれたり、尾をつかまれたり、嵐が来て荒波になったりした場合は、水管や鰓を仕舞って逃げるのが正解でしょう。アメフラシでは神経ネットワークを取り出して培養しながら研究することも可能だそうで、とても便利な実験系です。

尻尾に対する刺激によって馴化が解消される場合、それは修飾性介在ニューロンによって行われます(2)。スクワイアとカンデルの図をみると修飾性介在ニューロンのシナプスは感覚ニューロン、介在ニューロン、運動ニューロンのすべてに影響を与えているようです(図182-1)。

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図182-1 アメフラシにおける馴化の解消 水管を刺激することによって鰓を収納するという反応は馴化によって行わなくなりますが、尻尾を同時に刺激することによって馴化は解消され、収納は再開されます。

この修飾性介在ニューロンの神経伝達物質はセロトニン(5-HT)で、これを受容したGPCR(Gタンパク質共役受容体)はGタンパク質Gαを解離し、これがアデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPが合成され、cAMPはプロテインキナーゼA(PKA)を図182-2のような形で、不活性な4量体を解体して活性化します(3)。活性化されたPKAはAKAPによってカリウムチャネルにリクルートされ、カリウムチャネルをリン酸化して閉鎖します(図182-3)。これによって脱分極の阻害が解かれ馴化は解消します(4)。

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図182-2 修飾性介在ニューロンの作用によるcAMP合成の促進とその結果活性化されるPKA

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図182-3 カリウムチャネルの閉鎖

この他にフォスフォリパーゼCの活性化から、IP3(イノシトールトリスリン酸)をセカンドメッセンジャ-として、小胞体からのカルシウムイオンの放出、ジアシルグリセロールによるプロテインキナーゼC(PKC)の活性化などを介する径路も考えられます。PKCは陽イオンチャネルを活性化します(5)。

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図182-4 PLCを介する径路

カルシウムを光学的に検出するGCaMP法は中井らが開発した方法ですが、基本的にはカルシウムがカルモジュリンに結合すると、カルモジュリンと一体化させた蛍光タンパク質が活性化されて光るというものです(6、7、図184-5)。タンパク質なのでその遺伝子をゲノムに組み込んでおけば、カルシウムを光学的に検出することができます。

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図182-5 GCaMP法によるカルシウムの光学的検出と検出用タンパク質の遺伝子構成

マルキンソンとスピラはGCaMP法を用いて、細胞に電極を差し込むより精細に、各神経末端がつくるシナプスごとにその周辺のカルシウムを検出しました(8)。この結果、シナプスには 1)馴化の過程で次第にカルシウム濃度が低くなり、馴化の解消と共に回復するもの 2)馴化・脱馴化の過程であまり変化の無いもの 3)もともとは明瞭に観察されていてカルシウムが馴化の初期段階から全く検出されなくなり、馴化の解消とともに再び明瞭に観察されるも の3種類があることがわかりました(図182-6)。このことは各シナプスはヘテロであり、馴化もその解消もそれらを総合した結果であると考えられます。

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図182-6 アメフラシ培養神経系における馴化とその解消時のシナプス後領域のカルシウム濃度(ひとつの細胞に30ヶ所くらいのシナプスがある) 中央2列が馴化した状態。最右列が馴化を解除したときの状態。マルキンソンとスピラの論文(8)の図1B。


参照

1)続・生物学茶話217: 記憶2 HMとアメフラシ
http://morph.way-nifty.com/grey/2023/07/post-c879b9.html

2)ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル著 小西史朗・桐野豊監修 「記憶のしくみ」上 講談社ブルーバックス (2009) p.136

3)コロラド州立大学の教育資料: VIVO Pathophysiology Protein Kinase A
http://www.vivo.colostate.edu/hbooks/pathphys/topics/pka.html

4)van der Horst J, Greenwood IA and Jepps TA (2020)
Cyclic AMP-Dependent Regulation of Kv7 Voltage-Gated Potassium Channels.
Front. Physiol. vol.11: article 727 (2020) doi: 10.3389/fphys.2020.00727
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2020.00727/full

5)Kirin D. Gada, D.E. Logothetis, PKC regulation of ion channels: The involvement of PIP2., J. Biol. Chem., vol.298, issue 6, (2022)
https://doi.org/10.1016/j.jbc.2022.102035
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021925822004756

6)Nakai J, Ohkura M, Imoto K., A high signal-to-noise Ca2+ probe composed of a single green fluorescent protein., Nat Biotechnol vol.19: pp.137-141 (2001)
https://www.nature.com/articles/nbt0201_137

7)東京大学理学部飯野研究室HP
http://molecular-ethology.bs.s.u-tokyo.ac.jp/labHP/J/JResearch/JResearch09_imaging.html

8)Guy Malkinson and Micha E. Spira, Release properties of individual presynaptic boutons expressed during homosynaptic depression and heterosynaptic facilitation of the Aplysia sensorimotor synapse., Frontiers in Cellular Neuroscience., vol.7, article 165 (2013)
doi: 10.3389/fncel.2013.00165

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2023年8月20日 (日)

サラとミーナ:供養の準備

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色即是空 空即是色

 

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2023年8月18日 (金)

小旅行(revised, 今は亡き私の飼い猫 サラとミーナに捧げる)

午前中の診断と検査が終了した。4人の相部屋だがカーテンはきちんと閉じられ、他の患者の方に医師と看護師は移動した。狭小な空間で私は天井のシミをみつめる。まだ1週間だが、もう病院にはすっかり飽きた。天井のシミの形もなじんで見飽きてしまった。隣のベッドでは誰かがせきこんでいる。その音がしだいに遠ざかり、シミの形もぼんやりとして、まだ午前11時頃だというのに私は眠りにおちた。

目が覚めると、もう夕闇がせまっていた。薄暗い船着き場には数人の客がベンチに座って待っていた。誰も何も話してはいなかった。知り合いは誰もいなかった。私は誰かに話しかけてみようとしたが、声を出すことができなかった。硬膜下血腫になったときのことを思い出した。あのときも声が出なくなったが、みんなそうなのだろうか? まあいいか、そのうち船が来てどこかに連れて行ってくれるんだろう。

それにしてもここは何処なんだ!?

しばらくすると、遠くに小さな明かりが見え、しだいに近づいてきた。遠くからグスタフ・マーラー作曲交響曲第9番第1楽章冒頭の音楽がきこえてきた。
https://www.youtube.com/watch?v=aAKMD2wowtM

カローンのような風貌の男がたくみに船を漕いで、静かに接岸した。男はゆっくりと船を降り、係留用ロープを杭に結んで、私たちに船に乗るように手招きした。全員が乗り込むとカローンはロープをはずして、ギイギイとまた船を漕ぎだした。誰も声を発せず、ただ櫂をさばく音と、カローンのかすかな息づかいが聞こえるだけだった。私はふとこれは三途の川で、これから私たちは冥途に送られるのではないだろうかと思った。

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しばらくすると薄暗がりのなかで中州のような砂地が見えてきて、数人の男女が何か叫んでいた。ひとつだけある小さな岩の上で、セイレーンのような姿の女が狂ったように歌っていた。私にはその顔が岡田有希子のように見えた。

カローンが突然漕ぐのをやめて話し始めた。
「あの者達は川を渡るのにふさわしくないので、中州に下ろした。心が穏やかになるまで向こう岸に渡らせることはできない」
カローンは中州を一瞥すると、私たちの方に向き直り告げた。
「この中州を過ぎると、お前達は別の姿になる。どのような姿になっても心配はいらない。それは神が決めることだ」
そう言うと、彼はまた漕ぎ始めた。

私があらためて自分の姿を見ると、カローンが言ったように、手足がなくなり幽霊のような状態になっていた。これでよいのだろうか?

船が向こう岸に接近すると、濃い霧が漂ってきて、視界が数メートルくらいになってしまった。向こう岸には船着き場はなく、岸に接近すると、カローンがひとりづつ背中を押して、霧の中に送り出してくれた。私たちはもはや自分の意思で移動することはできず、かすかに吹いている風にゆられて漂うだけになっていた。声も失って誰とも話すことはできない。ただ視覚だけはしっかり残っていた。霧が晴れてくれれば、どんなところかわかるかもしれない。しかし、いくら時間が経っても霧が晴れることはなかった。

かなり長い間霧の中を漂っていると、向こうから亡父がやってくるのが見えた。すれ違ったときに視線が合ったような気がした。そうか、ここでは死者と会うことができるのか。 と言ってもすれ違うだけだが.....。それでもこんな何もない場所にもわずかな楽しみがあることがわかって、私は少し落ち着いた気分になった。

霧はいつまで経っても晴れなかった。きっとここはそういう場所なのだろう。またしばらく漂っていると坂井泉水と出会った。むこうはこちらに気がつかないようだった。そりゃそうだ、知り合いじゃないんだから。それにしても坂井泉水は川を渡ることができたんだ!

そのうちグスタフ・マーラーにも会えるのかと思って漂っていると、目の前を昔飼っていた猫のクロパン号がサーッと通り過ぎて行った。ここでフラフラと漂いながらずっと待っていると、そのうちサラとミーナにも会えるのかなと思うと、この場所もそんなに悪くはないかもしれない。ただすれ違うだけで、話をすることができないばかりか、相手が気づいているかどうかもわからないというのは不満だ。

ずいぶん長い間漂っているうちに、サラやミーナともすれ違ったし、そのほか大勢の人たちとすれ違った。そこで気がついたのは、知らない人とはすれ違わないということだった。そりゃそうだ。これは私の脳内の風景なので、知らない人とすれ違うわけはないのだ。

そして私はカローンと再会した。カローンはこの世界で唯一言葉を発する人物だった。

「どうだ、この世界は楽しいか?」

私は首を横に振った(ほんとに振れていたかどうかはわからない)。

「ひとつ相談だが、私と船頭を代わってくれないか? 船頭になれば話せるようになるし、知らない大勢の人とも会える。この世界では唯一の特権階級だ。ただ代わってくれる者をみつけないと、ずっとこの仕事をやり続けることになるが どうだ」

カローンは私の目を覗き込んでそう申し出たが、私は乗り気にはなれなかった。カローンの申し出を引き受けると、逆に知らない人にしか会えないような気がした。だって川を行ったり来たりするだけなんだろう? 

私は強く首を横に振った(ほんとに振れていたかどうかはわからない)。

突然、私はまた病室の中に放り出された。見覚えのある天井のシミが見える。すっかり顔見知りとなった小太りの看護師が午後の採血の準備をしていた。「お目覚めですか」と看護師は皮肉っぽく言うと、私の腕をゴム管で縛って、注射針をブスリと突き刺した。看護師がカーテンを閉めないで去ったので、けやきの緑が窓いっぱいに広がっているのが見えた。

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(ウィキペディアより)

カローン:カローンは、ギリシア神話に登場する冥界の河ステュクス(憎悪)あるいはその支流アケローン川(悲嘆)の渡し守。櫂を持ちボロを着た光る眼を持つ長い髭の無愛想な老人で、死者の霊を獣皮で縫い合わせた小舟で彼岸へと運んでいる。画像はウィキペディアより

岡田有希子:日本のアイドル歌手。1986年4月8日、自宅マンションでリストカットを行いガス自殺未遂。2階上のマンション住民がガス臭に気付き、管理人が110番と東京ガスに通報した。レスキュー隊が駆けつけたとき、岡田は押入れの下段でうずくまり泣いていたという。北青山病院で治療を受け、東京都新宿区四谷のサンミュージック本社に戻った直後、12時15分に本社が入居しているビルの8階屋上から飛び降り自殺した。満18歳没。

坂井泉水:日本の女性歌手、作詞家。音楽ユニット・ZARDのボーカリスト。2007年5月26日、入院先の慶應義塾大学病院内のスロープ状になっている高さ約3メートルの地点から転落し、駐車場で仰向けに倒れているところを通行人に発見される。その後集中治療室で緊急処置を受けたが、後頭部強打による脳挫傷のため、5月27日午後3時10分に死去した。40歳没。

サラとミーナ:死去した私の飼い猫。

 

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2023年8月11日 (金)

サラよ・・・

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目覚めるとまずエサをやって、水を替えて、トイレの掃除をして、食事が終わると少しお話ししてというのは一昨日まで。今日は空しくセミが鳴くだけの朝です。

サラが昨日の朝ミーナのところに逝ってしまいました。18才でした。

最後まで不屈の意志で生きようとしていたサラ。
小室の船橋ペット斎場でお骨にしてきました。
残念無念・・・

読者の皆様にも可愛がっていただいて有り難うございました。

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2023年8月 9日 (水)

記憶研究???

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Frederic Leighton: Memories (public domain)

もう少し記憶について何か書くつもりでかなり論文を読んでみましたが、どの研究もプロブレマティックで疑問が膨らむばかりでした。そういうわけで何も書けそうにありません。これは真夏で頭がボケているせいだけではないのでしょう。少しお休みして体勢を立て直します。

リーガ・エスパニョーラがWOWOWからU-NEXTに移るというので、WOWOWを解約し、U-NEXTと契約しました。こういうのも昔なら電話2本でさっさと担当者とお話して即できたのが、番号を選んで(違っているとたらい回しになる)何十桁の番号を入力しエラーだと最初からやりなおすとかとても時間がかかります。これを進化とは言いたくありません。スカパーに電話したら、「今日のプロ野球番組の予定を聞きたい人は1、そうでない人は2を押してください」というのが最初の挨拶でした。昨今はすべてが会社の都合と利便でシステムが決まり、コンシューマーは面倒ばかり増えます。マイナカードはその最たる例です。

ここ@二フティーでも、質問を受け付けてくれる「人」につながるまでの手続きは非常に大変です。それもこれも人が足りないからで、ともかく難民でもなんでもいいから日本語教育をしてどんどん人口を増やして働いてほしいと思います。英語だけでもできれば、コンピュータ相手に話をするよりよほどマシです。日本語が片言しかできなくてもできる仕事はたくさんあるはずです。

 

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2023年8月 8日 (火)

原爆投下の季節に思う

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地球は無数の生物種が共存する太陽系では唯一の惑星であり、宇宙の数知れぬ星の中でもレアな環境を保持しています。

しかし人類は次の3点でこの環境に有害です。

1.大量破壊兵器を保有し、それを使用する。

2.人権を主張し、適者生存の生物基本原則を拒否する。

3.環境破壊物質を放出する。

1.2.については改善する兆しは全くありません。むしろ逆行しています。私自身核保有には反対ですが、人権については是としたい。

3については改善しようとする試みは一部具体化していますが、シベリアやアラスカからメタンが噴出し始めたのを止められなければ、すべて無駄に終わるでしょう。

結局のところ人類はバーチャルの世界でしか生存すべきではないのかもしれません。そのような世界は20世紀のうちから、「マトリックス」などの映画で示され、今ではメタバースとして次第に社会に浸透してきました。実はとっくに人類はメタバースの世界でしか生存できないことがわかっていて、そのための準備を進めているのかもしれません。私はそれで結構だと思います。

ただしその場合、解決しなければいけない問題が二つあります。

1.仮想現実社会を誰が管理するのかを決めなければいけない。(私はAIが管理するのには強く反対しますが、かといって頭の悪い政治家に管理されるのも気に入らない)

2.仮想現実社会を維持できないほど環境破壊を進行させてはならない。(そのためには科学はもちろん必要ですが、それだけでは足りないかもしれません。国家を超えた政治組織が必要になると思います)

最後に付け加えるならば、メタバースの世界に人類が住むようになっても科学や芸術の進化を止めるようなことにはならないようにしてほしいと思います。地球の生物にとって人類は最も邪悪な存在ですが、この2点については美点として認めたいのです。

(写真はウィキメディアコモンズより)

 

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2023年8月 6日 (日)

My favorites 21: 石上真由子さんについて

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ミューザ川崎ではじめて体験した石上真由子氏の演奏でしたが、非常にショックをうけました。その後Youtubeで聴いてみて、本当に聴く者に普通の演奏家とはちょっと違う届き方をする方だということを確信しました。

そこで経歴をしらべてみると、なんと京都府立医大卒ということで、本来は胃がんの切除なんぞをやっていたはずのところ、医師と音楽家は両立しないということでやむなく音楽家の道を選んだそうです。
https://classical-music.fun/ishigami-mayuko/

こうしてみると音大に入ると、気づかないうちに何かある種の演奏スタイルに封じ込められるのではないかという疑念がわいてきます。石上氏はそのわなに触れなかったので、音大卒の人には入ることができない独自な場所に到達することができたのではないかと思いました。

ヒント:https://www.youtube.com/watch?v=pEC6Do1YK7c

ラヴェル:ツィガーヌ
深い情念に心揺さぶられます。
https://www.youtube.com/watch?v=1zrhYxFgTgE

モーツァルト:Vn協奏曲 第1楽章
モーツァルトがほんとに楽しい音楽を書いていることがわかります
(ベートーヴェンが書いたカデンツァを演奏しています)
https://www.youtube.com/watch?v=-215RukYzFc

ハイドン:ヴァイオリン協奏曲 第1番
なんと優雅で柔らかい
https://www.youtube.com/watch?v=IppsEG89pQU

アーティストに聞いてみたムービーvol.9 石上真由子さん
https://www.youtube.com/watch?v=OQVRYN1DX8A

 

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2023年8月 2日 (水)

サラの夏

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1週間くらい前からサラがようやくエアコンの部屋で過ごしてくれるようになりました。これで一安心とはいえ、5月の段階より目に見えて痩せてきたのが心配。といっても食が細いわけではなく、むしろ1時間おきに食べるくらい食欲は旺盛なのですが、さっぱり身になりません。

人間も動物も死亡する2~3日前からは苦痛がともなう場合が多いと思いますが、それまでは幸福感のある毎日を過ごさせてあげたいと思います。永年ミーナと共用で使っていたトイレを廃棄し、小さな1匹用のトイレを新調しました。なにしろ大腿の筋肉ががた落ちしたので、トイレに上がるのもしんどくなってくると予想されるので。

ミーナがいたときは、サラはどちらかというとミーナの陰に隠れて動いていたような場合が多かったのですが、ミーナがいなくなって、より親密に私とコミュニケーションをとらなくてはならなくなりました。そのせいか私との距離は接近したと思います。

なんとか夏バテでがっくりこないで、この猛暑を乗り切って欲しい。

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2023年7月31日 (月)

メインの前にぶっ飛んだ演奏会の巻 山形交響楽団@サマーミューザ2023

長年コンサートに通っていても、有名曲のなかで抜け落ちている曲目はあります。それが私の場合シューベルトのザ・グレイト。今回はそういうわけで山響を聴きにミューザ川崎まで遠征しました。JR川崎駅のコンコースは暑いです。でも日曜日の午後、37℃程度ではそれを理由にステイホームする人はほとんどいないと思われ大変な混雑です。下に降りてトモズに寄った後、「つばめグリル」でほたてガーリックをいただいてサマーミューザ2023の会場へ突入。

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本日のプログラム

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川崎市はクラシック音楽を町おこしの基盤のひとつに据えて成功しています。山形県も同様です。山響は50年以上の歴史をもち、地元で大切に育てられているようです。

指揮者の鈴木秀美氏のプレトークがありましたが、どうやら口下手らしく、楽団の理事さんが出てきて司会役でサポート。古楽器で演奏するのでその説明や、リピートを省略しない理由とかを説明しました。後者はこれでこの曲を生で聴くのが最後になる人もいるだろうから、リピートしなくちゃもったいないとか話されてました。ホルンやトランペットには確かにバルブがありません。

前半のベートーヴェンのヴァイオリン・コンチェルトはノーケアだったのですが、これがびっくり仰天。ソリストの石上真由子って何者なのでしょうか。ヴァイオリニストなら誰でも自分の楽器から美しい音を引き出したいと思うでしょう。でも彼女は自分の楽器に詩を語らせようとするのです。聞き慣れたこの曲が全く別の世界の曲に聞こえました。まあ彼女の演奏を聴いた人じゃないとわからないでしょう。

呆然として休憩時間を過ごし、後半が始まる直前音がしたのでそちらの方を向くと、人が倒れていて係員が救助していました。その最中に指揮者が入場し曲がはじまってしまいました。なんとか曲の途中で会場外に助け出したようです。

驚いたのはバストロンボーンです。スライドが長すぎて手で操作できないので、ロッドのようなもので操作しています。第2楽章になるといったん外に連れ出された件の客が席に戻ってきて、血圧を測りながら聴いています。そこまでして聴くべき音楽だったのでしょう。わかります。

このオケは木管が本当に素晴らしい。ノリノリの演奏でオーケストラを猛然と牽引します。ザ・グレイトがチーターやインパラが失踪するサバンナの音楽のようです。演奏が超絶困難と思われる金管もついていきます。弦は極小ビブラートで音を整理していきます。まるでサバンナの灌木やそよぐ草の背景のようです(1Vn:2Vn:Va:Vc:Cb=8:7:5:5:3)。対向配置でCbは向かって左側。古いタイプのティンパニも良い味出してます。

終演後はブラボーと拍手の嵐でした。空席がかなりあったのはもったいない。

ソリストアンコールとオーケストラアンコールがありました ↓

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2023年7月29日 (土)

「恩人」 newly written nonfiction

恩人

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H先生の医院は割と歴史が新しいわが街の医院のなかでは草分けで、開業当時はドアの前に何十人も行列ができるほど繁盛していたそうです。私が通っていた数年前でも待合室にはいつも大勢の患者さんが座っていました。

私は血管が細くてしかも見えにくく採血が難航する場合が多いのですが、医院の技師さんや看護師さんはとてもお上手で、一度も失敗したことがありませんでした。それがその医院を選んだ理由でもあります。

当時私の病気は本当に危機的な段階に来ていて入院寸前だったのですが、おそらくH先生の選んだ薬が適切でなんとか通院で治療できるという状況にありました。どうしてそんな状況になったかというと、私の著書「生物学茶話:@渋めのダージリンはいかが」(リンクはこのブログのトップにあり)が脱稿間近のラストスパートの段階になっていて、熱中のあまりに健康に留意することを怠っていたからだと思います。

ところがあるとき2週間くらいの間に、採血を担当していたスタッフが二人とも次々と退職してしまったのです。H先生は「きちんと仕事をしてもらえないのでやめてもらいました」と言っていましたが、私はとても信じられませんでした。何かあったに違いありません。

その後はH先生が直々に採血することになったのですが、これがなんとも・・・。まず左腕でトライして何度も刺しますが失敗、次に右腕に変えても出血したりして失敗、また左腕に変えてようやくなんとか成功という情けない採血。私はきっとダメだろうと諦めていたので、最後に成功したときは万歳を叫びたくなりました。

しかし何度行っても上達しないで腕変えてやり直しを繰り返すので、本当に通院が憂鬱になりました。そんなある日私は見てしまいました。H先生がまだ退職せずに残っていた若いスタッフの一人(多分看護師)のお尻をなでていたのです。ああこれだなと合点がいきました。スタッフはまだ事務員も含めて3~4人残っていましたが、こんなことをやっていると、そのうち医院が立ち行かなくなるのではないかと不安になりました。

H先生の医院は10年くらい前から開業していました。もしその頃からこういう状態では経営が成り立つはずもないので、最近はじまった出来事としか思えません。調べてみると脳の病気でクリューバ―・ビューシー症候群をはじめとして性的な異常性を示す精神障害はいろいろあるということがわかりました。H先生の場合、普段は心優しく丁寧に患者と接するもの静かな方なので、まさか精神障害とは想像できません。でもそうかもしれません。それともただの不倫だったのでしょうか? それならやめた2人はそれが不快でやめたということになりますが、それは多分ないでしょう。

終末の兆候はありました。隣にあった薬局がなぜか店を閉めたのです。そしてそれからしばらくしたある日、突然入り口に当院は○月○日をもって閉院しましたという紙が貼ってあって、中をのぞくと薄暗くて誰も居ないようでした。ドアの前に数人の患者が集まって話していたので私も加わりましたが、H先生の消息を知る人は誰もいませんでした。そのうちホームページにもメッセージは掲載されましたが、どこに移転するとかの情報はなく、患者へのメッセージはお詫びだけでした。

患者は困りました。検査したまま結果がわからないという人も居たようです。私も困りました。別の医院に通うことになりましたが、状況を説明してなんとか看てもらうことになりました。後で聞いた話では、私だけでなく複数の患者が同じ事情で押し寄せてきたそうです。次のハードルは私が服用していた薬が特殊なものだったということでした。医師はそんな薬は聞いたことがないと怪訝な顔をするので、私が知っている限りの知識で縷々説明して、ようやく処方箋を出してもらうことになりました。処方箋は出してもらったのですが、肝心の薬が隣の薬局にはなく、イオンの薬局にも置いてなくて、新橋まででかけて何軒か薬局回りをしたのですがどこにもなく、結局私が通う医院の隣の薬局に薬が到着するまで待つことにしました。

その薬はその後1年くらい服用していたのですが、非常勤で勤務している別の先生に当たったときに、「今使っている薬は少し強すぎるかもしれません。病状が落ち着いているので薬を変えましょう」ということになって、一般的な薬に変更して現在に至っています。

もとH医院があった場所はときどき前を通るのでわかりますが、閉院後何年もそのままで誰かが借りた形跡はありません。一方同じビルの2Fはずっと予備校が営業しています。なので医院が貸主の都合で追い出されたという訳ではないようでした。

3年くらい経過してそんな騒ぎもすっかり忘れた頃、ふと思いついてH先生の名前をグーグルに入力してみると、なんと東京湾岸に近い街でH医院が再開されているではありませんか! 割と珍しい名前なので同姓同名ではないと思います。HPをみると写真が首から下だけで顔は隠していました。それから2年くらい経っても閉院していないので、どうやら病気であれば治癒したようです(それともスタッフを男性だけにしたのか)。女性問題であれば解決したのでしょう。ともあれなにしろ私の命の恩人なので、本当に良かったと思いました。ご活躍を心からお祈りしております。

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2023年7月27日 (木)

続・生物学茶話217: 記憶2 HMとアメフラシ

ウィキペディアでHM(患者)という項目をみると(HMだけでなくカッコをつけて患者と入力する)、脳に関心がある人にとってはとても興味深い記述があります(1)。HMはイニシャルですが、生前はプライバシーに配慮して名前=ヘンリー・グスタフ・モレゾン(図217-1)は明かされていませんでした。

HMはおそらく子供の頃の頭部損傷が原因でてんかんを発症したとされています。時を経るにつれてだんだん症状がひどくなり、20台後半には日常生活が不可能なくらいひどくなったので、神経外科医であるウィリアム・スコヴィル(図217-1)は当時(1953年)すでに多数の手術例があった前部側頭葉切除術を行いました。この手術によっててんかんが完治する可能性は高く、現在でも行われています(2)。

手術の結果は良好でてんかんは完治しましたが、大変困ったことが起きました。HMは昔の記憶はありましたし、IQもむしろ術後の方が向上していたのですが、病院のトイレの場所も覚えられないほどひどい健忘症になり、介護が必要になってしまいました。その状況を打開するために心理学者のミルナーが派遣されてきました(3)。

スコヴィルとブレンダ・ミルナー、ミルナーの弟子スザンヌ・コーキン(図217-1)は、その後の患者の経過を詳細に観察しました。その結果患者は短期記憶は普通にできますが、それを長期記憶として定着させることができないことがわかりました。ところが手続き記憶(4)に関してだけは短期・長期にかかわらず正常で、運動の学習は可能でした。ただし学習したということはすぐに忘れてしまいます。スコヴィルとミルナーはHMともう一人の患者の術後経過を観察して1957年に論文を発表しました(5)。この論文は手続き記憶以外の長期記憶は海馬および周辺組織が関与するということを示唆しており、記憶に必要な脳の部位がはじめて特定できたということで大きな注目を集めました。短期記憶に海馬および周辺組織が必要ないということも重要な知見です。

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図217-1 HMと彼を見守った人々(画像はウィキペディア、故コーキン博士の写真はHPより)

HMが素晴らしいのは、自分が研究者の観察対象になることを受け入れたことです。スザンヌ・コーキンは生涯、彼の経過観察を行いました。彼は長期記憶を失う代わりに、脳科学に大きな貢献をすることになりました。彼の脳は永久保存されているそうです(3)。

HMの貢献は(1)に詳しく記載してありますが、なかでも興味を引くのは・・・以下(1)から引用:「彼は幼少期のことを思い出せるが、手術の前の数年間のことを思い出すのはたいへん困難であった。彼の古い記憶は障害されず、手術に近い時点での記憶は障害された。このことは、昔の幼少期の記憶は内側側頭葉に依存しないが、最近の長期記憶は依存することの証拠とされる」ということです。

このことは年月が経過すると記憶の場所が移動するということを意味します。内側側頭葉とは手術で切除した海馬および周辺の組織のことです。スミスとコスリンは「内側側頭葉とさまざまな外側皮質領域との相互作用が内側側頭葉の外で記憶を貯蔵すると考えられ、これは皮質での経験の表象のあいだで直接の結合が生じることで実現される」としています(6)。そう言われてもなかなかイメージしずらいメカニズムだと思います。

HMについで記憶研究のエポックとなったのは、エリック・カンデルのアメフラシを使った研究です。カンデルはユダヤ系だったので、ナチスによる迫害を逃れて、両親と共に第二次世界大戦勃発直前に欧州から米国に逃れました。戦後ニューヨークの大学を出てNIHで脳の研究をしていましたが、記憶のメカニズムを研究するにはヒトは複雑すぎるのでもっと単純な無脊椎動物を材料とすべきだと考え、フランスに留学してアメフラシを材料とする研究を始めました(7、図217-2)。

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図217-2 エリック・カンデルとジャンボアメフラシ(画像はウィキペディアより)

アメフラシは軟体動物門・腹足綱なのでいわゆる貝類なのですが、貝殻が退化している生物です。危険を感じると紫汁腺から粘液を出して逃げます(8、図217-2)。アメフラシは水管から海水や老廃物を排出し、大きく露出した鰓筋で鰓呼吸をしていますが、水管をさわるとこれらを引っ込めてしまいます。しかし波打ち際で波に打たれても引っ込めずのんびり休んでいます。これは「慣れ」が生じると学習してひっこめなくなるからです(9、図217-3)。「慣れ」も記憶と言えば記憶です。イソップ物語の狼少年のようなもので、波による同じ刺激に対しては危険がないので水管をひっこめる必要はないわけです。

このような馴化の要因は図217-3の水管から鰓につながる神経系(単純化してある)全体のレスポンスが鈍化することによりますが、その原因は定かではありません。アメフラシの馴化については高校の教科書にも書いてあります。確かにシナプスは化学的なプロセスでもあり、伝達物質などを使い切れば次に合成されるまでお休みになるわけですが、馴化はそのような単純なメカニズムではなくさまざまな要因が絡んでいます(10)。文献9では一応「刺激によって感覚ニューロンは興奮する。それが繰り返されると、このニューロンの中のカリウムチャネルが活性化し、ニューロンの脱分極持続時間の短縮→カルシウムチャネルを通って流入するカルシウム量の減少→神経伝達物質放出量の減少、という現象が起こる。カリウムチャネルはニューロンが興奮して脱分極したとき、膜電位を元に戻すために細胞内のカリウム(K+)を放出するチャネルである。」と説明しています。

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図217-3 アメフラシの水管を触ったときの反応 アメフラシは水管を触られると鰓を体の中に隠してしまいますが、10回続けて触ると神経は反応せず、鰓を出したままになります。2時間触るのをやめるとその記憶は失われ、また鰓を引っ込めるようになります。

エリック・カンデルらはアメフラシを使って、神経は刺激されることによってcAMPの濃度を上昇させ、これが記憶形成につながることを示しました。それまでは電気生理学的な研究が主たるもので、記憶の物質的基盤を示したことは画期的であり、カンデルは2000年のノーベル生理学医学賞を受賞しました(図217-4)。

図217-4の説明を要約すると「弱い刺激すなわち少量の伝達物質が細胞Aの神経末端から細胞Bの受容体に届くと、細胞B内のcAMPの濃度が高まりタンパク質キナーゼが活性化されてイオンチャネルがリン酸化されて活性化し、シナプス後細胞(C)を脱分極させやすくなるという短期記憶を形成しうる。一方より強い刺激がくると細胞BのcAMPの濃度がより高まり、Bの細胞核の転写に影響を与えて新規のタンパク質が合成され、シナプスの構造に変化を与える。それによって長期記憶が形成される。」ということになります。上記の新規のタンパク質である転写因子CREBが重要な役割を果たすこともカンデルが見いだしました(11、12)。

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図217-4 エリック・カンデルが提唱した記憶のメカニズム

テリエ・レモは電気生理学の実験で長期増強を発見しましたが、同時期にカンデルらはそれにかかわる分子を調査し、生化学的なメカニズムの解明に手をつけました。またそれまでHMのようにてんかんの手術を受けた患者や交通事故などで脳を損傷した患者からの情報がメインだった記憶の研究を、アメフラシを使った実験によって進展させるという新しい道を拓きました。

最近の実験によると、散在神経系しか持たないイソギンチャクでも古典的条件づけ学習が可能だそうです(13)。図217-4では3つの細胞だけで記憶が成立するわけですが、カンデルの方向性は間違っていなかったのでしょう。もちろん私たち脳を持つ動物はもっと複雑な記憶の仕組みも持っているのは当然ではありますが。

HMについてより詳しく知りたい方は、私は未読ですがスザンヌ・コーキンの本が出版されています(14)。

参照

1)ウィキペディア:HM(患者)
https://ja.wikipedia.org/wiki/HM_(%E6%82%A3%E8%80%85)

2)てんかん情報センター てんかんの手術
https://shizuokamind.hosp.go.jp/epilepsy-info/news/n4-5/

3)海野聡子 忘れがたい健忘の症例H.M.とその後 高次脳機能研究 第37巻 第3号, pp.260-266 (2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/37/3/37_260/_article/-char/ja/

4)続・生物学茶話216 記憶1 長期増強と長期抑制
http://morph.way-nifty.com/grey/2023/07/post-73111d.html

5)Scoville, W. B.; Milner, B., Loss of Recent Memory After Bilateral Hippocampal Lesions., Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry., vol.20 (1): pp.11–21., (1957) doi:10.1136/jnnp.20.1.11
https://jnnp.bmj.com/content/20/1/11

6) Edward E. Smith and Stephen M. Kosslyn, Cognitive Psychology: Mind and Brain, 2006 Prentice Hall
https://www.amazon.co.jp/Cognitive-Psychology-Brain-Edward-Smith/dp/0131825089?asin=B00IZ0L83K&revisionId=&format=4&depth=1

7)Wikipedia: Eric Kandel
https://en.wikipedia.org/wiki/Eric_Kandel

8)ウィキペディア:アメフラシ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%B7

9)動物の生きるしくみ事典 学習:とくにアメフラシの場合
https://cns.neuroinf.jp/jscpb/wiki/%E5%AD%A6%E7%BF%92%EF%BC%9A%E3%81%A8%E3%81%8F%E3%81%AB%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%81%AE%E5%A0%B4%E5%90%88

10)Wikipedia: Habituation
https://en.wikipedia.org/wiki/Habituation

11)MLA style: Press release. NobelPrize.org. Nobel Prize Outreach AB 2023. Wed. 26 Jul 2023
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2000/press-release/

12)続・生物学茶話142: アメフラシとセロトニン
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/05/post-625abf.html

13)Gaelle Botton-Amiot, Pedro Martinez and Simon G. Sprecher, Associative learning in the cnidarian Nematostella vectensis., Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol.120,No. 13, (2023) https://doi.org/10.1073/pnas.2220685120
https://www.pnas.org/doi/epdf/10.1073/pnas.2220685120

14)Suzanne Corkin, Permanent Present Tense: The Unforgettable Life of the Amnesic Patient, H. M., Basic Books (2013)
https://www.amazon.co.jp/s?k=Permanent+Present+Tense&i=english-books&__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=GI3SUESPOS3S&sprefix=permanent+present+tense%2Cenglish-books%2C160&ref=nb_sb_noss

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2023年7月25日 (火)

未来型のおでこ=頭蓋骨

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サラはようやくエアコンの部屋で眠るようになりました。18才で筋肉がすっかり落ちてガレガレですが食欲は旺盛です。まあいくら食べてもタンパク質の合成能力が落ちてしまったのでしょう。

ところでサラの頭蓋骨はおでこの部分が他のネコより出ているような気がします。人類の頭蓋骨は進化するにつれて前に出てきた(おでこの角度が地面と垂直になってきた)ことはわかっているので、ネコもゆっくりとそのように進化しているのでしょうか? だったらサラは未来型のネコですね。

以前にN響の指揮をしていたマエストロ ホルスト・シュタインさんも未来型の頭蓋骨かもしれません。

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バンベルク交響楽団を指揮するマエストロ=ホルスト・シュタイン
(ウィキペディアより)

 

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2023年7月23日 (日)

YO-ENは昔の歌を聴かせてくれる

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昭和の街(ウィキペディアより)

たまにミュージックステーションなどで、現在流行の音楽を聴いたりしますがやはり全くついて行けません。そんな音楽を聴きに何万人も集まるんだから、やはり私は取り残されているということを実感します。でも私も現代の若いミュージシャンの音楽を全く理解できないかというと、なかには絶賛したくなるような音楽をやっている人もいます。

たとえば まきちゃんぐのハレルヤ(作詞・作曲 つるうち・はな ピアノを弾いてる人) 
https://www.youtube.com/watch?v=BGcAnyruops

 

YO-ENさんのような昔の歌ばかり歌っている人もそれなりの人気があるようで、一安心というところでしょうか。

サヨナラの鐘 (山崎ハコ) Covered by YO-EN
https://www.youtube.com/watch?v=DBRLtMTzXJk

想い出の赤いヤッケ(高石ともや) Coverd by YO-EN
https://www.youtube.com/watch?v=fgZy4noghGY

サルビアの花(早川義夫) Covered by YO-EN
https://www.youtube.com/watch?v=EXtt1SIxQ_E

ホームにて (中島みゆき) Covered by YO-EN
https://www.youtube.com/watch?v=UY87XmwggsA

夕凪のとき (浅川マキ) Coverd by YO-EN
https://www.youtube.com/watch?v=7UBXvsWeywU

浅川マキさん以外は皆さんお元気で活躍されているようでなによりです。


YO-EN 公式ホームページ
https://www.facebook.com/profile.php?id=100048470806724




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2023年7月21日 (金)

アラン・ギルバート-都響: アルプス交響曲@上野東京文化会館2023/7/20

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猛暑の中サラを残していくのは一寸心配で、よほどエアコンをつけっぱなしで出かけようかとも思っていましたが、幸い気温が下がってきたので、これならということで普通に文化会館にでかけることにしました。今日はホルンの王シュテファン・ドール氏がソリストの上にアルプス交響曲にもトップ奏者として加わるということでドールまつりです。指揮者はアラン・ギルバート、コンマスはボス矢部、サイドはゆづきです。入場するとマキロンが足先の柔軟体操をやりながら弾いていてびっくり。彼女が開幕前にステージに出てくるのはめずらしいことです。

前回は前席者の強烈な体臭でお休みしたも同然でしたが、今回はそれもなくほっと安堵しました。ウェーベルンの曲はベルティーニ-ケルン放送交響楽団のCDを聴いていたので、なかなかの名曲だということは知っていたのですが、アラン-都響の演奏はピンとこなかったですね。なぜかはわかりません。モーツァルトの曲は、そんな昔にもこんなに技巧的な曲をサラサラ吹ける人がよくいたものだと思いました。

アルプス交響曲はアランがNDRを振ったYoutubeで予習しましたが、日の出までの雰囲気(好きです)は残念ながらNDR>都響でした。しかしそこからはドールの先導もあって都響も本領発揮、圧倒的な演奏を繰り広げました。やっぱり都響のホルンに足りないのはノリとオーケストラを先導する力ですね。謹厳実直はダメです。ドールの演奏を聴いてそれがよくわかりました。トランペットとトロンボーンにはそれがあります。

あのウィンドマシンは楽器に問題ありますね。西川さんがあんなに筋トレみたいなのをやらないといけないのはおかしい。サンダーシートはたたいた途端にひん曲がってしまいましたし(下の写真)。ヘッケルフォーンがどんな音か注意して聴いていたのですが、ソロがなくてわかりませんでした。バンダが倍管ということでしたが、終了後全員ステージに1列で登場して壮観でした(下の写真)。大人数なのに整然とした演奏でバンダ素晴らしかったと思います。

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2023年7月19日 (水)

続・生物学茶話216 記憶1 長期増強と長期抑制

記憶という脳にとって本質的な機能にまで科学のメスが入れられるようになったのは素晴らしいことでもあり、様々な危険を内包することでもあります。脳科学者は自分の専門領域以外のことにも関心を持つ責任があると思いますがそれはさておき、ともかく記憶という秘密の殿堂のドアを開けてはいってみましょう。

記憶の分類の方法はいろいろあるようですが、ここではまず陳述記憶と手続き記憶にわけます。陳述記憶とは言葉や文字などで表現できる記憶、手続き記憶とは体で覚える記憶です。それぞれはさらに短期記憶と長期記憶に分けられます(1、2、図216-1)。電話番号は聞けばすぐに覚えられますが、すぐに忘れます。しかし自分や家族の電話番号は脳の病気にでもかからない限り生涯忘れないでしょう。前者が短期記憶、後者が長期記憶です。体で覚える記憶も反復によって、自転車の運転のように長期記憶を行うことが可能です(図216-1)。陳述記憶は主に大脳側頭葉内側部、手続き記憶は主に小脳で行なわれています(図216-1)。ただ普通に私たちが考える記憶は部位的に限局されているわけではなく、時間・年月によって移動するニューロンのネットワークが担うと考えられています。

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図216-1 記憶の分類

テリエ・レモはノルウェー海軍の軍医を退職し、仕事を探してオスロの道を歩いているとき、全く偶然に(本人の記述によれば by pure chance)ペール・アンデルセンに会ったそうです。レモは軍医になる前にイタリアで神経の研究をやっていたことがあり、アンデルセンとは面識があったようです。アンデルセンはその時オーストラリアのジョン・エックルスのところから帰国したばかりで、偶然にもスタッフを探していたところでした。このジャストタイミングな偶然の邂逅がなければ、記憶という巨大なテーマを解明するための最初の扉を開く栄誉は彼らにはもたらされなかったでしょう(3、4)。

もし記憶が増えるごとに神経細胞が増えるのだったら、いくら神経細胞があっても足りないだろうということは19世紀の科学者であるラモン・イ・カハールも考えていて、記憶の本質は神経細胞自身とその結合の強さにあることを予測していました(5)。レモとブリスはウサギ海馬歯状回の顆粒細胞を使って、長期増強という現象があることを突き止めました(6、7、図216-2)。すなわち顆粒細胞を一定の時間間隔で刺激すると、次第にスパイクの振幅が大きくなるのです(図216-2)。このような長期増強 (long-term potentiation=LTP) のメカニズムを神経細胞自身が持っているなら、それが長期記憶の基盤になっていることは容易に想像できます。

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図216-2 テリエ・レモと長期増強の発見

長期増強の分子的メカニズムについてはいろいろとわかってきたようですが、それは別稿でアップしたいと思います。ところで自転車を運転するというような運動は、反射や長期増強だけで行なうことはできません。ある筋肉が収縮すると別の筋肉は弛緩するという複雑な組み合わせを時間軸で変化させるという一連のプロセスを実行し記憶することが必要です。その基盤となるのはLTPに拮抗するLTD(長期抑圧= long-term depression) です。

LTPの発見は1966年ですが、伊藤・狩野によるLTDの発見は1982年ですから16年の歳月が経過しています(8)。どうしてそのような長い年月を要したのかは、当時の技術では長期抑圧の本丸である小脳での実験が非常に難しかったことにあるようです(9)。それにしても狩野氏は当時学部学生だったはずで、このような困難な実験によく付き合ったものだと驚きます。

伊藤研ではその後も精力的にLTDの研究を続け、多くの他の研究室も参入して現在ではいろいろなことがわかってきました。ここでは脳科学辞典の「長期抑圧」の項目を引用しますが:「小脳の長期抑圧は小脳皮質の平行線維とプルキンエ細胞間のシナプスの伝達効率が長期(単離した急性小脳切片の場合でも最低数十分以上)に渡って低下する現象である。プルキンエ細胞への2つの興奮性の入力である平行線維と登上線維を同時に刺激することで引き起こされる。この際、平行線維と登上繊維の活性化のタイミングが重要であることが知られている」(最後の登上線維が途上線維となっていたので管理人が修正しました) となっています(10)。

小脳のニューロンとネットワークをまとめると図216-3のようになります(11)。なおLTDといっても小脳皮質(プルキンエ細胞など)による記憶はそれほど長続きせず、髄質のニューロン群に情報が移転してはじめて長期記憶として定着するようです(12、図216-1)。

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図216-3 小脳のニューロンとネットワーク

図216-3で小脳のおおまかなニューロンネットワークを説明できます。

1.下オリーブ核(延髄と小脳の間にあるニューロンの集積体)に起源をもつ登上線維は分子層に向かって上行し、プルキンエ細胞の近位樹状突起とグルタミン酸を伝達物質とする多数の興奮性シナプス結合をする(13、14)。

2.橋核その他多様な場所に起源を持つ苔状線維は顆粒層で顆粒細胞の樹状突起とグルタミン酸を伝達物質とする興奮性シナプス結合をする(14-16)。

3.顆粒細胞は樹状突起を分子層に向かって垂直方向に伸ばし、この樹状突起は分子層でT字型に分岐して平行線維を形成する。平行線維はプルキンエ細胞の樹状突起とグルタミン酸を伝達物質とする興奮性シナプス結合を形成する(13)。

4.星状細胞は分子層の表層に近い部分に存在し、プルキンエ細胞の樹状突起にGABA作動性の抑制性シナプスを形成する(17)。

5.バスケット細胞は分子層のなかでもプルキンエ細胞の細胞体に近い部分に存在し、プルキンエ細胞の細胞体にGABA作動性の抑制性シナプスを形成する(17)。

6.ゴルジ細胞は顆粒層に存在し、顆粒細胞と苔状線維から興奮性入力(グルタミン酸型)を受け、顆粒細胞を抑制する(GABA型)(13)。

7.単極ブラシ細胞は顆粒層に存在し、苔状線維からの興奮性入力を受けて、顆粒細胞あるいは単極ブラシ細胞にグルタミン酸作動性の興奮性入力を行なう(18)。

8.ルガロ細胞(図では細胞体のみ記す)は顆粒細胞層のプルキンエ細胞層寄りに細胞体を持ち、プルキンエ細胞の軸索側枝から抑制性入力、苔状線維からは興奮性入力を受け、軸索を平行線維と平行の方向に出し、他の抑制性ニューロンとGABAまたはグリシン作動性の抑制性のシナプス結合をする(13)。

小脳の皮質は非常に美しい構造をとっており、構成する細胞も限られていることから研究が進んでいますが、長期記憶には髄質のニューロンネットワークが重要な役割を果たしているようで、特に髄質そして大脳への出力メカニズムについてのさらなる研究が必要でしょう(19、20)。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のピアノパートの音符数は3万254個あるそうです(21)。プロのピアニストはこれをすべて暗譜して演奏します。将棋はAIの方が強いことは事実ですが、人間の脳も馬鹿にしたものではありません。

参照

1)ウィキペディア:記憶
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%98%E6%86%B6

2)朝田隆 もの忘れの教室
https://monowasure.eisai.jp/mechanism/04.html

3)Terje Lømo, The discovery of long-term potentiation., Philosophical Transactions Royal Soc. Lond. B, vol.358, pp.617–620 (2003), DOI 10.1098/rstb.2002.1226
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2002.1226

4)Anders Jahres medisinske priser 2003 
https://tidsskriftet.no/2003/09/oss-imellom/anders-jahres-medisinske-priser-2003

5)ウィキペディア:長期増強
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E6%9C%9F%E5%A2%97%E5%BC%B7

6)Lømo, T. 1966 Frequency potentiation of excitatory synaptic activity in the dentate area of the hippocampal formation. Acta Physiol. Scand.,68, Suppl. 277, 128 (1966).

7)T.V.P. Bliss and T. Lømo., Long-lasting potentiation of synaptic transmission in the dentate area of the anaesthetized rabbit following stimulation of the perforant path., J Physiol. vol.232(2): pp.331–356. (1973)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1350458/

8)M Itoa nd M Kano, Long-lasting depression of parallel fiber-Purkinje cell transmission induced by conjunctive stimulation of parallel fibers and climbing fibers in the cerebellar cortex., Neurosci Lett., vol.33(3): pp.253-258.(1982) doi: 10.1016/0304-3940(82)90380-9.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0304394082903809

9)宮下保司 酒井邦嘉 現代神経科学の源流 伊藤正男(後編)
BRAIN and NERVE vol.71 (12):pp.1403-1408,(2019)
https://www.sakai-lab.jp/media/20200424-161516-618.pdf

10)脳科学辞典:長期抑圧
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%95%B7%E6%9C%9F%E6%8A%91%E5%9C%A7

11)Max J. van Essen, Samuel Nayler, Esther B. E. Becker, John Jacob, Deconstructing cerebellar development cell by cell, oS Genet 16(4): e1008630. (2020)
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1008630

12)永雄総一 理化学研究所プレスリリース 運動学習の記憶を長持ちさせるには適度な休憩が必要―休憩の間に運動学習の記憶が神経回路に沿って移動し固定化する-集中学習の記憶は小脳皮質の神経細胞であるプルキンエ細胞に、分散学習の記憶はプルキンエ細胞の出力先である小脳核の神経細胞に、それぞれ保持されていることを突き止めました。
https://www.riken.jp/press/2011/20110615/

13)脳科学辞典:小脳
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%84%B3

14)渡辺雅彦 グルタミン酸受容体 GluD2 と小脳シナプス回路の発達・維持・再生 顕微鏡 Vol. 51, No. 3, pp.159-164(2016)
https://microscopy.or.jp/jsm2022/wp-content/uploads/publication/kenbikyo/51_3/pdf/51-3-159.pdf

15)理化学研究所ニュース 神経細胞もふさわしい相手を選別する -小脳顆粒細胞は培養下でも生体内と同様に苔状線維とだけ正しいシナプスを形成する-
http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/09/090714_Selectiveneural.html

16)Stephen F. Traynelis, R. Angus Silver, Stuart G. Cull-Candy, Estimated conductance of glutamate receptor channels activated during EPSCs at the cerebellar mossy fiber-granule cell synapse., Neuron vol.11, issue 2, pp.279-289, (1993) DOI:https://doi.org/10.1016/0896-6273(93)90184-S
https://www.cell.com/neuron/pdf/0896-6273(93)90184-S.pdf#articleInformation

17)T.Watanabe, H.Suzuki, M.Kano, 小脳神経回路の生後発達、Brain and Nerve, vo.71, no.12, pp.1373-1383 (2019)

18)Wikipedia: Unipolar brush cell
https://en.wikipedia.org/wiki/Unipolar_brush_cell

19)Takahiro Ishikawa, Saeka Tomatsu, Yoshiaki Tsunoda, Jongho Lee, Donna S. Hoffman, Shinji Kakei, Releasing Dentate Nucleus Cells from Purkinje Cell Inhibition Generates Output from the Cerebrocerebellum., PLoS ONE 9(10): e108774. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0108774
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0108774

20)東京都医学総合研究所 Topics 2014
https://www.igakuken.or.jp/topics/2014/1004.html

21)クラリネット記 ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番
http://blog.livedoor.jp/hslit123/archives/51917926.html

 

 

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2023年7月17日 (月)

リニア中央新幹線は不必要

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リニア中央新幹線 各党の姿勢

自由民主党 推進
公明党 推進
維新 推進(推定 参照1)
国民民主党  推進(推定 参照2)
立憲民主党 推進
共産党 反対
れいわ 見直し
社会民主党 見直し

(中日新聞 参照3)

以前にTVをみていて、東京の若い実業家で暇なときはヘリコプターで志摩のホテルに遊びに来るという人がいました。真っ暗な地下を延々と通って、車窓の楽しみが全くないレジャー・旅行というのはいかにもそぐわない気がします。

ビジネスもいまやビデオ会議が当たり前の時代で、マイクロソフトがウィンドウズ標準のチームスというソフトを販売しているくらいです(4)。リニア新幹線なんて全く必要ありません。どうしても人に会う必要があれば空路を利用すれば良いだけのことです。

ではなぜ主要政党がすべて推進派なのかといえば、土建屋にお金をばらまきたいという目的に尽きます。JR東海と国はこのプロジェクトに現時点での試算でも10兆円を投じようとしています(5)。日本は今急速な人口減少のさなかです。これで採算がとれるわけがありません。外国に技術を売ろうとしても、現新幹線ですら売れたのは台湾だけですから、はるかに高価なリニアが売れるわけがありません。唯一可能性があったのはロシアだと思いますが、昨今の状況では売れるわけがありません。JR東海は投資が回収できず、高価な運賃で営業せざるを得なくなるでしょうし、国も増税するしかありません。いい加減にしてほしい。

特に批判勢力の中心であるべき立憲民主党が推進派であるのは大きな問題です。考え直すべきでしょう(5)。土建屋にお金をばらまくなら、高速道路の修理、豪雨で破壊された道路の修復、老朽化した水道・下水道・ガス管などの修理、低所得者のための住宅の整備などいくらでもあるでしょう。どうしてリニアをやろうとしているかというと、実際に現場で事業をやる会社に支払うお金は微々たるもので、大勢の人が中抜きするためとしか思えません。

ここからは余談となりますが、私的には悪沢岳・赤石岳・聖岳・塩見岳とつらなる南アルプス核心部は山を愛する者にとって、そして八百万の神々にとっての聖地であり、懐かしい椹島登山小屋や二軒小屋の周辺が工事現場になっているというのは心痛む話です(6)。掘削によって排出される土や石を運ぶためにこのあたりはいずれ無茶苦茶に破壊されるのでしょう。神罰が下るのではないかと思います。

参照

1)NetIB-News 【一問一答】吉村洋文大阪府知事に聞く「リニア中央新幹線問題」、「憲法改正」(前)
https://www.data-max.co.jp/article/44688

2)【談話】山梨県知事選挙結果を受けて
https://www.dpfp.or.jp/article/201066

3)リニア推進か中止・見直しか 各党の主張、違い鮮明 
https://www.chunichi.co.jp/article_photo/list?article_id=503177&pid=2430955

4)Microsoft Teams でさらに多くを達成しましょう
https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software

5)リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会
http://web-asao.jp/hp/linear/2018/08/post-86.htmly

6)リニア中央新幹線静岡工区の現状
https://www.nacsj.or.jp/2022/03/29400/

(写真はウィキペディアより)

 

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2023年7月15日 (土)

アラン・ギルバート-都響 ラフマニノフピアノ協奏曲第3番@サントリーホール

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アラン・ギルバートは素晴らしい指揮者だと思います。アランの時は都響の演奏がワンランク上がるように思うのは私だけでしょうか?

なのになぜか都響は集客に苦労します。今日も学生の招待客を多く見かけました。ところで今日はあまり記憶に無い客演コンマス(水谷晃氏)で、サイドはマキロン。隣が若い男でごきげんかも。

ニールセンの序曲ヘリオスははじめて聴きましたがなかなかの名曲で、ちょっとニールセンを見直した感じ。それはよかったのですが、私は臭覚は鈍い方なのですが、前の席に座った男の体臭が異常に強くて(悶絶クラス)、とても音楽を楽しむ気分にはなれませんでした。

アポクリン腺は手術でとるか、レーザーで破壊するかで治療できますから、できれば治療してから演奏会に来て欲しいと思います。ただ保険は適用されない可能性が高いので、そこが問題ですが。

というわけで、ニールセンの交響曲第5番が結構名曲だということや、キリル・ゲルシュタインがすごいピアニストであることはわかりましたが、ともかく楽しめる状況でなかったのはとても残念。人生こんなこともままあるのでしょう。オルガ・シェプスの2番はとても楽しめたのでまあよしとしましょう。

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2023年7月12日 (水)

「退院」 - newly written

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ジャクリーヌ・デュプレ


退院

いかにも自信家らしい脳外科医が言った。

「人の顔が識別できなくなったということですが、専門的には相貌失認といいます。この病気は最新の技術で治療できるようになりました。AIのマイクロチップを脳に埋め込めば直ります。保険も適用できますから大丈夫ですよ。手術しますか」

私は妻に先立たれ子供も居ないので、もう勤めは辞めたし人の顔が識別できなくても特に不都合は無い・・・と思うのは早計だ。私の家はいわゆる団地なんだが、週に一度市と契約している見回り人が来て私の状態を確認することになっている。いわゆる孤独死のまま放置されるのを防ぐためだ。もちろん本人のためではなく、市や管理者の便宜のためだ。実際身寄りのない老人が孤独死したまま放置されると、市や管理人は大量の余計な仕事を抱え込むことになる。また週に2回家事手伝いの人を頼んでいるので、やはり人の顔を記憶できない識別できないということは、頼んでいる人の代わりに泥棒が来てもわからない ということなので致命的だ。

医師には「手術します」と答えるほかない。外科医は満面の笑みをうかべ「それはよい決断です。ただし病気になってから手術の前までに会った人の顔を思い出すことはできませんよ。手術後に見た人の顔を覚えることができるという手術だということをご理解ください。ただまだ例数がそれほど多くない手術なので、予想しないことが起こる確率はゼロではありません」と説明してくれた。私は了解した。

私は手続きをすませ、2週間くらい経った頃K病院に入院して手術した。以前にこの病院の近傍で仕事をしていたことがあるので土地勘はあった。だから退院して帰宅するときも当然ひとりで帰宅できると思っていた。手術はとりあえず成功した。開頭したのでしばらく病院生活を送らなければならない。その間友人がひとりだけ見舞いに来てくれた。昔勤めていた会社の同僚だ。彼の顔を覚えていて本当に良かったと思う。

入院している間、担当の看護師とはいろいろな話をした。彼女はまだ仕事をはじめて2年目だったがなんでも手際よくやっていた。それに私と同じFCバルセロナのファンだったのでつい盛り上がってしまって、同室の患者の顰蹙を買ったこともあった。考えてみるとFCバルセロナのファンと親しくお話しするのははじめてだったし、今後の私の人生でもありそうになかった。

ある意味自宅にいるより楽しい入院生活だったがそれも終わる時が来た。朝のさわやかな空気の中で、担当看護師が私を送り出してくれた。「長い間有り難うございました」と言って、私はドアを開けた。ドアのそばの花壇には夏のバラが咲いていた。看護師に手を振って、私はバス停に向かって歩き出した。両側に高く鬱蒼と成長した木々が並ぶ真っ直ぐな並木道だ。昔来たときよりも樹木は明らかに生長していた。セミがうるさく鳴いていた。

退院の開放感に浸りながら私はゆっくりとバス停まで歩いた。ちょうどバスがやってきたので何の疑問もなく乗り込んだ。駅は確か5つめの停留所のすぐ近くだ。ちょっと考え事をして、そろそろだなと窓からあたりの景色をみると、おやっ、知らない景色だ。私はあわてて電光掲示板を見た。全く記憶にない名前の停留所が並んでいた。

私は慌てて次で降りて、病院までもどらなくてはと道路を横断して道路の反対側にあるはずの停留所を探したが、どこにも停留所は見当たらなかった。どうも循環型のコミュニティーバスだったらしい。昔はそんなのはなかった。時刻表を見ると次のバスは3時間後だ。今日の午後には見回り人が自宅に来る手はずになっていて退院の報告をしなければならないので、それでは間に合わない。

仕方がないのでスマホを取り出して、タクシーを呼ぼうとした。ところがなんとしたことかスマホをうまく操作できない。病気のせいか手術のせいかわからないのだが、指の動きが不安定でなかなか思い通りにいかなくなっていた。全身から血が引いていくような感覚の中で、私は道路に座りこんだ。

私の病んだ脳はそれでも私を叱咤激励する機能は保持していた。私は立ち上がった。そう、頑張って道でタクシーを捕まえよう。タクシーを捕まえて駅に行かなければならない。しかし見知らぬ街でどこにいればタクシーを捕まえられるかわからない。10分くらい待ったが空タクシーは1台も通らなかった。少し周辺をうろうろして大通りがどこにあるか探したが、交通量の多い道はみつからなかった。

タクシー会社の電話番号を誰かに訊くしかないかもしれない。うろついているうちにようやくカフェ併設の洋菓子屋をみつけて一休みすることにした。窓際に席を取ると年配の婦人がすぐにやってきて「いらっしゃいませ。うちはモーニングはやってないけど、今の時間だとケーキをつけるとコーヒー半額になります」というので、私はチーズケーキとコーヒーを注文してやっと落ち着いた気分になった。

勘定をすませてから、ようやく私の本題を切り出した。「ところでこのあたりのタクシー会社の電話番号をご存じありませんか」と尋ねると、婦人は「タクシーはあまり使わないからわからないけど、調べてあげましょうか」と言ったので、私は渡りに舟でスマホを取り出し、「手が不自由でうまくつかえないので、お願いします」と彼女にスマホを手渡した。婦人は首尾良くタクシー会社と連絡ができたようだ。「5~6分で来るらしいから、席で待っててください」と元の席を指さした。有難い・・・助かった。

タクシーに乗り込んでほっとしたが、運転手に「どちらまで」と訊かれて、私はまた奈落の底に突き落とされた。駅の名前を思い出せないのだ。仕方なく「ここから一番近い電車の駅までお願いします」と言った。運転手は無言で5分くらい走って見知らぬ駅の前で私を降ろした。

幸いにして自宅の近傍の駅の名前は覚えていたので、駅員にその駅までどうやって行ったらいいかを訊いた。駅員は事務室にいた別の駅員を呼んで、私はその別の駅員に事務室で説明してもらった。結局紙に書いてもらってそれを渡してもらうことになった。有難い。看護師、ケーキ屋、駅員、生身の人間は少なくとも仕事にかかわることには親切なのだ。電車のなかで私はそんな人々の顔を思い出し、手術は成功したんだと確信した。

付記ジャクリーヌ・デュ・プレ(Jacqueline du Pré) は英国の名チェリスト。指が動かなくなる病気のため12年間しか活動できなかった。早逝した彼女を偲んで、その名のバラの品種がつくられた。

ジャクリーヌ・デュプレの演奏
https://www.youtube.com/watch?v=5jgIglWnPUI

 

 

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2023年7月10日 (月)

西村朗 まぼろしの薔薇

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西村朗と言えば、最近では新国立劇場で新作オペラが上演されたのが話題になりました。

紫苑物語
https://www.youtube.com/watch?v=GEr0fYTJqW0
https://www.youtube.com/watch?v=dT5eZOnT0ig

私はYoutubeでしか聴いていませんが、まあ興味はわきませんね。
オペラ好きにも評価はされていないようです↓。

オペラに行って参りました-2019年
http://tc5810.fc2web.com/operago20191.htm#%E9%91%91%E8%B3%9E%E6%97%A5%EF%BC%9A2019%E5%B9%B42%E6%9C%8820%E6%97%A5

引用「西村朗の音楽、かなり多彩であると思いました。速いパッセージの音楽、ケチャのリズム、そういうものもあれば落ち着いた部分もある、さまざまな音楽がモザイクのように組み合わされ、それが面白くもありましたが、落ち着かない感じもしました。またただ綺麗な旋律はほぼなく、滑稽な部分はあるのですが、オペラ的に歌い上げる部分はなく、正直に言ってしまえば、今一つピンとこなかった、と思っています。」

まあ最高のキャストを揃えた割には、楽しめない作品だったというのが正直なところでしょう。

ところが彼は若い頃には素晴らしい作品を作っていました。

Chor June/女声合唱組曲「まぼろしの薔薇」 全曲(I~V)
(作詞:大手拓次 作曲:西村朗 編曲:甲田潤)
https://www.youtube.com/watch?v=9jnEVNg9tjE

IV.孤独の薔薇 東京大学コーロ・ソーノ
https://www.youtube.com/watch?v=IqRTFbp63iM

III.ばらのあしおと 東京レディースシンガーズ
https://www.youtube.com/watch?v=LL-hMs61htc

V.ひびきのなかに住む薔薇よ 合唱団ユートライ
https://www.youtube.com/watch?v=VLOIJ39uy_4

 

楽譜は受注生産だそうです
https://www.panamusica.co.jp/ja/product/4120/

大手拓次の原著歌詞は下記のサイトで閲覧できます
http://www.nextftp.com/y_misa/ote/ote045.html

 

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2023年7月 6日 (木)

続・生物学茶話215:肺魚と両生類の脳

硬骨と顎を持つ魚類には大きく分けて2群あり、ひとつは条鰭類(じょうきるい)でいまひとつは肉鰭類(にくきるい)です。私たちも含めて四足動物をすべて肉鰭類としてよいという分類学上の見方もあります(1)。図215-1は Yamamoto らの文献(2)をもとに作成しました。赤枠内が肉鰭類、青枠内が条鰭類ということになります。脊椎動物はその共通祖先が2回の全ゲノム重複を行っており、条鰭類のなかで真骨魚類だけがさらにもう1回の全ゲノム重複(赤い星印)を経ていることが知られています(3)。

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図215-1 脊椎動物の系統図 肉鰭類と条鰭類

デボン紀は6千万年ほど続きますが大規模な河川ができて森林も広がり、そのおかげで動物が海から陸地の方向に活動範囲を広げた時期といえます(4)。ただし移住するには多くの問題を解決しなければなりませんでした。池や沼の水は温度が上がり易いので、そうなると溶存酸素濃度が低下し動物にとっては苦しい環境です。そのために肺を持つ魚類がうまれ、彼らは大発展しました。その大発展した魚類が肺魚だけかというとそうではありません。実は図215-1には現存の生物しか記載してなくて、絶滅した生物群は割愛しています。もちろん肺を持つこと以外にも、細胞内のイオン濃度を保持するために浸透圧の調節を行わなければならないとか、淡水には金属イオンが非常に少ないので体内に保持しなければならないなど様々な適応が必要です。

デボン紀の海の支配者は棘魚類や板皮類やサメなどで、現存の硬骨魚類の祖先はマイナーな存在であり、河川などの辺境で生きていくしかありませんでした。中でも肺を獲得したグループが淡水環境に適応して繁栄したと考えられています(5)。当時肉鰭類だけではなく多くの硬骨魚類が肺をもっていたのですが、肉鰭類は特に淡水環境によく適応していました。「革命的進化は辺境から生まれる」ことの好例です。

生物にとって良好な環境だったデボン紀ですが、後期に至って大規模な火山噴火が起こってその良好な環境は大崩壊し生物大絶滅が起こります(6)。大規模な火山噴火はまず塵埃による寒冷化、その後二酸化炭素による温暖化、さらに植物の減少による酸素濃度の低下など環境の激変を招き、棘魚類や板皮類は絶滅しました。肺を持つなどのアドバンテージによって生き残った硬骨魚類の多くは海洋にもどり、もとのニッチを取り戻しました。その代わりに肺を失いました。証拠は多くの硬骨魚類が鰾(うきぶくろ)を持っていることです。鰾はもともと肺だったことがわかっています(7)。ポリプテルスなどは肺を捨てず残したために生きた化石と呼ばれています。一方淡水環境によく適応していた肉鰭類は、肺を有効に活用して淡水環境にとどまり、デボン紀の間に独自の進化を進めてきました(4、図215-2)。

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図215-2 デボン紀の肉鰭類と両生類

淡水環境に良く適応したデボン紀の肺魚類には鰭を足に変える途上の構造が認められるパンデリクティス(8)やユーステノプテロン(9)があり(図215-2)、彼らは体長が1メートル以上にもなる大型動物で、当時の浅瀬、池、沼地、潟湖、汽水域では生態系の頂点に君臨していたと思われます。ユーステノプテロンはよい化石がみつかっていて、見た目はまだ魚なのですが、前から大脳(終脳)・間脳・中脳・小脳・橋・延髄という分節した脳が順に並び、12種の脳神経は私たちと同じ数と順序で並んでいるそうです(10)。幸田によれば「脊椎動物の脳や脳神経は、ユーステノプテロンという魚類の進化段階ですでに確立していたことを示している。 脳神経を1本たりとも増やしも減らしもせずに、連綿と引き継いできたのが我々の脳なのだ。」ということになります。 文献10の図を見る限り、私的には分節が明確とは言えないように思いますがどうでしょう。デボン紀後期になると肺魚と両生類の中間生物アカントステガや、ほぼ両生類のイクチオステガが出現します。このあたりの事情については過去記事があります(11)。

肺魚が両生類(四肢動物)の祖先に近縁であること、両者の分岐がデボン紀であることは、2013年の大規模な研究によってほぼ確定しています(12、図215-3)。この図をみると四肢動物が硬骨魚類の1グループであることは明らかで、現在の分類が便宜的であることがわかります。

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図215-3 Betancur-R らによる硬骨魚類の系統樹から その基幹部分

現存する肺魚はどんな脳を持っているのでしょうか。現存する肺魚はネオケラトドゥス属1種、レピドシレン属1種、プロトプテルス属4種の計6種が知られています。昔はすべての属の生物を東京タワー水族館で見ることができたのですが(13)、残念ながら2018年に閉館になりました。

肺魚は4億年前から存在し、現在まで類似した形態の子孫が生き延びているという希有な生物なのですが、どのくらい昔の特徴を維持しているのかはわかりません。もちろん4億年の間にはそれなりの進化を遂げているでしょう。彼らが何度も起きた生物大絶滅の時代を生き延びた要因の一つは夏眠できるということでしょう。彼らは乾期には水が枯渇するような環境で生きていたので、ペルム紀にはすでに夏眠する能力を獲得できていたようです(14)。これによって半年間エサがなくても彼らは生存することができます。ただしネオケラトドゥスは水が枯渇するとすぐ死んでしまうそうです(15)。

ここではネオケラトドゥスの脳の解剖図を貼っておきます(16、図215-4)。他の現存肺魚の脳の解剖図も別の論文に記載してあります(17)。これらはフリーに閲覧できます。いずれもユーステノプテロンとは違って、脳の分節化が非常に明確です。それぞれの種を比較すると、似ていると言えば似ている、違っていると言えば違っていますが、ヒトとマウスのような大きな違いはありません。終脳(telencephalon) が大きいこと(もちろんヒトのような異常な大きさではありません)、小脳が小さいことは共通していて、その特徴は四肢動物にも受け継がれています。臭葉が大きいように思われますが、マウスなども結構大きいのでそれほど違和感はありません。頭頂部に松果体がみられることはひとつの特徴でしょう。

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図215-4 ネオケラトドゥスとその脳

bol: bulbus olfactorius (臭球)
tel: telencephalon (終脳)
dienc: diencephalon (間脳)
Ep: epiphysis (松果体)
nII: nervous opticus (視神経) 
nIII: nervus oculomotorius (動眼神経)
nIV: nervus trochlearis (滑車神経)
tect: tectum mesencephali (中脳蓋)
ccb: corpus cerebelli (小脳体)
aurcb: auricula cerebelli  (小脳耳介)
nVs: nervus trigeminus, pars sensoria (感覚系三叉神経)
nllad: nervus lineae lateralis (側方神経線) anterior, pars dorsalis tsc torus semicircularis
nllav: nervus lineae lateralis, pars ventralis
nllp: nervus lineae lateralis posterior
nVII: nervus facialis (顔面神経)
nVIII: nervus octavus (第8神経)
hypoth: hypothalamus (視床下部)
rhomb: rhombencephalon (菱脳)
nIX: nervus glossopharyngeus (舌咽神経)
nX: nervous vegus (迷走神経)
nnspoc: nervi spino-occipitales (脊髄後頭神経)
msp: medulla spinalis (脊髄)

両生類はデボン紀から石炭紀にかけて繁栄しましたが、石炭紀にはもう完全に陸上で生活できる有羊膜類が出現し、ペルム紀の地上は有羊膜類が支配するようになりました。そんな中でも両生類は生き延び、ペルム紀末の大絶滅時代も乗り越えて現在まで子孫を残しました。現存するカエルの中にも肺魚のように繭をつくってその中で夏眠し、水なしで長く生きられる者がいるそうです(18)。カエルの脳の解剖標本を図215-5に示します(19)。

図215-6はリチャーズらが発表した研究結果です(20)。図215-6Aのように明確な分節が見られます。図215-5も参照してください。ただし小脳がきわめて貧弱なところは肺魚と同じです。BはAの赤点線の位置で切断した切片を染色したものですが、さまざまなタイプの細胞が9層の構造をつくっていると著者は述べています(20)。Cのようにカエルの脳は変態の少し前に大きく構造を変えて分節が明確化します。「個体発生は系統発生を繰り返す」の好例なのでしょう。Dはオタマジャクシ時代の視蓋で、Bと比べると非常に単純な構造であることがわかります。

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図215-5 アフリカツメガエルの脳

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図215-6 変態前および後のアフリカツメガエル視蓋  Aの赤点線部分の切片染色標本がB Cは発生ステージによる脳の発達(最下段は変態直前) Dはオタマジャクシの視蓋切片染色標本  この図についての詳細を知りたい方は参照文献20をご覧ください

魚類・両生類は耳がないので内耳で音を聴くという点が私たちと大きく違います。カエルの鼓膜は脳に張り付いていて、音の周波数によって振動する細胞が異なるので音を聞きわけることができます(21)。

参照

1)ウィキペディア:肉鰭類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%89%E9%B0%AD%E9%A1%9E

2)Kei Yamamoto, Solal Bloch and Philippe Vernier  Develop. Growth Differ. (2017) 59, 175–187
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/dgd.12348

3)佐藤行人、西田睦  全ゲノム重複と魚類の進化 魚類学雑誌 56(2):89-109 (2009)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010792508.pdf

4)ウィキペディア:デボン紀
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%9C%E3%83%B3%E7%B4%80

5)やぶにらみ生物論16: デボン紀の生物1
http://morph.way-nifty.com/grey/2016/04/post-daf1.html

6)東北大学プレスリリース 海保邦夫 ペルム紀の大量絶滅に続きデボン紀の大量絶滅も大規模火山活動が原因 初めての陸上植生崩壊と大規模火山活動の同時性を実証 (2021)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/02/press20210222-01-devonian.html

7)ウィキペディア:鰾
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B0%BE

8)ウィキペディア:パンデリクティス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9

9)ウィキペディア:アカントステガ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%AC

10)幸田正典: 魚にも自分がわかる──動物認知研究の最先端, 筑摩書房 (2021)
http://www.m-ac.jp/living_being/animal/chordates/vertebrates/fish/brain/index_j.phtml

11)やぶにらみ生物論17 デボン紀の生物2
http://morph.way-nifty.com/grey/2016/04/post-4a62.html

12)Ricardo Betancur-R. et al, The Tree of Life and a New Classification of Bony Fishes, PLOS Currents Tree of Life. (2013)
doi: 10.1371/currents.tol.53ba26640df0ccaee75bb165c8c26288.
https://currents.plos.org/treeoflife/article/the-tree-of-life-and-a-new-classification-of-bony-fishes/

13)東京タワー水族館 その2
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/11/post_a3dc.html

14)ウィキペディア:肺魚
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%A7

15)ウィキペディア:オーストラリア肺魚(ネオケラトドゥス)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%A7

16)Rudolf Nieuwenhuys, Topological Analysis of the Brainstem of the Australian Lungfish Neoceratodus forsteri
Brain Behav Evol 2021;96:242–262 DOI: 10.1159/000516409
https://karger.com/bbe/article/96/4-6/242/821589/Topological-Analysis-of-the-Brainstem-of-the

17)AM Clement and PE Ahlberg, The First Virtual Cranial Endocast of a Lungfish (Sarcopterygii: Dipnoi), PLoS ONE vol.9(11) (2014), doi:10.1371/journal.pone.0113898
file:///C:/Users/Owner/Desktop/215/%23lungfish%20Clement.pdf

18)logmiBiz: Hank Green 乾燥する地域で水分を温存するための奇策
https://logmi.jp/business/articles/163229

19)Erik Zornik, D. Kelley Hormones, Brain and Behavior, Third Edition, pp.131–144, Hormones and Vocal Systems: Insights from Xenopus., Elsevier (2017)
Erik Zornik, Reed College, Portland, OR, USA
http://www.columbia.edu/cu/biology/pdf-files/zornik_and_kelley_2017.pdf

20)Blake A. Richards, Carlos D. Aizenman and Colin J. Akerman, In vivo spike-timing-dependent plasticity in the optic tectum of Xenopus laevis.,
Frontiers in Synaptic Neuroscience vol.2, Article 7 (2010)
https://www.researchgate.net/publication/50597005_In_Vivo_Spike-Timing-Dependent_Plasticity_in_the_Optic_Tectum_of_Xenopus_Laevis

21)logmiBiz: Stefan Chin, カエルには外耳がない
https://logmi.jp/business/articles/323229

 

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2023年7月 3日 (月)

ウェブサイトの文章 文頭とパラグラフ間の処理について

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最近はあまり紙本をみなさん読まなくなっているようですが、写真のように日本文でも英文でも文頭はスペースを空けて、パラグラフ間にスペースは置かないというのが紙本では当たり前でした。

しかしウェブに文章がアップされるのが当たり前になってから、なぜかパラグラフ間にスペースを空けるのが当たり前になりました。パラグラフ間にスペースが空くのなら、文頭にスペースを置く必要はありません。

しかしメジャーな新聞の多くはなぜかオンラインでも1文字スペースを空けています。ただ日経ニュースは多分読者に液晶画面で文字を読むのが当たり前の人が多いのでしょう。1文字スペースを空けるという形式を採用していません。

読売新聞オンライン  1文字あける パラグラフ間は1行あける
朝日新聞オンライン  1文字あける パラグラフ間は1行あける
デイリースポーツ   1文字あける パラグラフ間は1行あける
日経ニュース 左詰め パラグラフ間は1行あける

もともとオンラインのウェブサイトは文頭スペースを使っていません。これは英文でも和文でも変わりません。パラグラフ間は1行開けるのがお約束なので、文頭にスペースを置くのは違和感があるんですね。ただなぜか Wall street journal の日本語版は1文字スペースを空けています。これはちょっと不思議。

ヤフーニュース  左詰め パラグラフ間は1行あける
グーグルニュース(J) 左詰め パラグラフ間は1行あける
goo ニュース 左詰め パラグラフ間は1行あける
@nifty ニュース 左詰め パラグラフ間は1行あける

Time 左詰め パラグラフ間は1行あける
Time(J) 左詰め パラグラフ間は1行あける
Wall street journal 左詰め パラグラフ間は1行あける
Wall street journal(J) 1文字あける パラグラフ間は1行あける
Nature 左詰め パラグラフ間は1行あける
Nature(J) 左詰め パラグラフ間は1行あける

(J)は日本語版

確かにパラグラフ間にスペースを空けるとウェブサイトの文章は読みやすい感じがします。ただそれは左脳的感覚で、感情移入とか文章のリズムとかは無視されているようにも思います。実際後者を大事にするような人々は「左詰め パラグラフ間は1行あける」という定番の形式に反旗をひるがえしています。

Tree(講談社) 文頭(パラグラフではなくセンテンス)は1文字あける パラグラフ間は筆者の感覚であけないまたは1行あける
https://tree-novel.com/works/episode/a7adeecc394f16af9ac1fba1edd39135.html

作詞家みろくブログ 文頭は絵文字でパラグラフ間は気分による
http://blog.livedoor.jp/misono369/

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2023年7月 1日 (土)

暑いぜ

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玄関に居る時間が長くなったサラ

最近は15才以上とか18才からとかの飼料が増えて有難いのですが、一番食いつきがいいのが「ちゅーるごはん」かな。メーカーの「いなば」は由比の会社でペットフードの老舗です。東名の由比パーキングエリアといえば、まるで海の上にあるようなパーキングエリアで有名です。私もそこで休憩したことがあります。

エアコンをつけるとそちらに移動するかというと、そうでもありません。自然の風の方が好きな感じ。

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2023年6月29日 (木)

虫干し3 シロアリ部活

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沖縄科学技術大学院大学 プレスリリースより(参照文献2)

 

シロアリ部活

小学校の時は「いきものがかり」をやっていた。音楽ユニットの「いきものがかり」はキンギョを飼育していたらしいが、私の場合校庭の隅に動物小屋があり数匹のウサギを飼育していて、数人の「いきものがかり」が当番制で世話をしていた。朝早く豆腐屋さんにおからを買いにいって、ウサギのエサをつくっていた。そうやって育てたウサギが夜中に侵入してきたイタチに食べられたのはショックだった。金網の下を掘って進入したのだ。別に山の中のへんぴな場所にある小学校ではなかったので、まさか野生動物にウサギが食べられてしまうなんて予想だにしなかった。今でも思い出すと胸が苦しくなる。

花壇の世話も結構大変だった。夏休みも交代で登校して水やりや草取りなどをやっていた。でもそんな植物が一斉に開花すると、生命の誕生に関わったことが誇らしく係をやっていて本当に良かったと思った。そういうわけで、中学校に入学してもそんな部活はないかと探したがなくて、結局生物クラブにはいることにした。同じ目的の生徒 (Eと呼ぶ)をみつけて、二人で部室らしき部屋にいくと、上級生がひとり居て、満面の笑みで二人に詳しく活動を説明してくれた。それによるとクラブにはふたつのグループがあり、ひとつはショウジョウバエの遺伝を研究するグループ、いまひとつはシロアリの腸にいる微生物を研究するグループだということで、前者は陳腐でつまらなくて、後者はやっているひとが少なくて面白いと彼は説明した。当然彼は後者を担当していたわけだ。

こうなると、いきがかり上私たちはもはやショウジョウバエのグループに参加するわけにもいかず、城田(仮名)というその先輩のグループに加わるほかなかった。あとでわかったことだが、実はシロアリをやっていたのは彼だけで、私たちが参加したおかげでグループになったということだった。見事にひっかかったわけだ。

あまり気が進む研究ではなかったが、今考えてみるとそれは当時の私たちが無知だっただけで、彼の持っていた興味は大変先進的なものだった。それは現在でもさまざまな研究機関でこの分野の研究が進められていることでも明らかだ。シロアリは木を食べて生きているわけだが、そのためにシロアリは腸内に原生生物を飼い、その原生生物が共生する細菌と協力してセルロースを分解することによってエネルギーを得る。そのシロアリの腸内に棲息する原生生物をとりだして培養してみようというのが研究の目的だった。それはまだ現在プロの研究者が試みてもうまくいかないことが多いという困難なテーマだったということは、当時知るよしもなかった。原生生物の写真は参照4の文献に掲載されている。

(興味のある方のために「参照」として末尾にいくつかのリンクを張っておきました)

シロアリはアリの仲間ではなく、ゴキブリの仲間であることは最近知る人もふえてきたようだ。だいたいアリは肉食だがシロアリは草食だ。非常に平和的な生き物なのだが、働きアリには全く戦闘能力がないのでソルジャーという特異な形態の個体を作って巣を守っている(写真の頭が茶色がかっている個体)。英語でもホワイトアントだが、ターマイトと言う方が知的な感じがする。

部活の話にもどるが、まず山に行ってシロアリの巣を探してこいという指令を受けて、私と相棒のEは付近の山を歩き回って探したが、なにしろ二人ともシロアリは家にいるものだと思っていたくらいなので見つかるわけもなく、結局城田先輩に場所を教えてもらうことになった。朽ちかけた木の根元にその巣はあった。働きアリと、頭が茶色の兵隊アリが巣の周辺をうろついている。少し巣の入り口を壊して巨大な女王蟻をみたときのおぞましさは忘れられない。シロアリを採集する技術だけは向上したが、結局いろいろやってもシロアリの原生生物は培養出来ず、研究は頓挫してしまった。

ショウジョウバエのグループも、凡ミスで幼虫の培養に失敗し全部死なせてしまうと言う事件もあって、グループリーダーが部活担当の生物の先生に厳しく叱責されるようなこともあった。部活は暗黒時代を迎えることとなった。ただ私たちシロアリグループはショウジョウバエグループと違って部費をほとんど使っていなかったので、失敗しても叱責されるようなことはなかった。

暗く沈み込む部活のなかで私たちを励まそうとしたのだろうか、城田先輩はある土曜日の午後に私たちを自宅での食事に招いてくれた。彼の家に行くと、なんと先輩自身が調理して私たちに昼食をふるまってくれた。料理は母がするものと思っていた私たちは驚いて、恐縮してしまった。そのせいか、何を食べたかどうしても思い出せない。食事が終わるとみんなで後片付けをして、しばらく談笑したあと、先輩は奥の部屋にはいったきり帰ってこなかった。私たちが心配して部屋を覗くと、そこにはひとりの女性がベッドで眠っていた。先輩は無言で私たちをもとの部屋にもどして母親が病気だと告げた。父親はいないそうだ。私たちは部屋を覗くなどという行為はするべきではなかったと後悔した。

私たちの中学は高校と連結した一体校だったため、部活も中高一体だった。城田さんは1年後には高校3年生となり、高校3年生は部活をやめるという暗黙の約束があった。城田さんなしでシロアリの研究を続けるのは困難だということは私もEもわかっていた。かといって今まで接触をなるべく避けてきたショウジョウバエのグループにはいるのも気乗りがしなかった。Eも同じだ。私たちは先生の了解をとって、それぞれ独自にテーマを決めて部活をすることになった。城田さんはたまにふらりと部室に現れたが、私たちもまったくシロアリとは別のことをやっているので、共通の話題もなく、すぐに立ち去ることになった。

翌年城田さんはある会社に就職したという話をきいた。私たちの学校はバリバリの進学校だったので、高卒で就職したのはおそらく彼1人だったと思う。家庭の事情があったと推察出来るが、今考えてみると彼は天才的なセンスを持った人で私の最初の研究指導者だったと思う。家族の問題や貧困は容赦なく人の未来を奪うことも教えてくれた人だった。


「参照」

1)大熊盛也 シ ロ ア リ腸 内 の微 生 物 共 生 シス テ ム
日本農芸化学会雑誌 Vol. 77, No. 2, 2003
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nogeikagaku1924/77/2/77_2_134/_pdf/-char/ja

2)沖縄科学技術大学院大学 研究関連ニュース 2018
シロアリ腸内微生物の進化の起源が明らかに
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/32325

3)本郷裕一 シロアリ腸内原生生物と原核生物の細胞共生
Jpn. J. Protozool. Vol. 44, No. 2. (2011)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjprotozool/44/2/44_115/_pdf

4)野田悟子 シロアリと共生微生物
モダンメディア 67 巻 11 号 pp.460-468 (2021)
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2111_67_P22-28.pdf

5)理化学研究所 プレスリリース 2015
シロアリは腸内微生物によって高効率にエネルギーと栄養を獲得
-セルロースを分解する原生生物とその細胞内共生細菌が多重機能により共生-
https://www.riken.jp/press/2015/20150512_2/

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2023年6月27日 (火)

報道ステーションはニュースを伝えているのだろうか?

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久しぶりで報道ステーションを全部見ました

報道ステーション

Start~30分 プリゴジンの乱
~35分 昔の京王電車の事件
ちょっと 神戸の子供殺し
ちょっと 福島の汚染水
4分くらい 天気予報
そのあとたっぷり スポーツ
最後ほんのちょっと コロナ

現在の日本のニュースはほとんどスキップしています。

視聴者の窓はブラインドで閉じられています。

馬鹿にされていますね。

ちなみにウェブの朝日新聞のトップページは

国交省航空局長を処分
緊急避妊薬
コロナ第9波
プリゴジンの乱
熱中症
神宮外苑再開発
司法試験の変更

日刊ゲンダイは

維新と公明の関係
プリゴジンの乱
山際大志郎候補を自民党が公認
マイナカード問題
芸能スキャンダル

の順です。

木原誠二官房副長官のスキャンダルはどこにもなし

(画像はウィキペディアより)

 

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2023年6月25日 (日)

ミンコフスキ-都響 ブルックナー交響曲第5番@池袋芸術劇場2023/6/25

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マルク・ミンコフスキは不思議な指揮者です。レジオン・ド・ヌール勲章を授与されるくらい評価が高い指揮者なのに、ボルドー歌劇場で5年監督をやった以外はメジャーなオケの常任はやらず、ようやく50才代の半ばで日本の金沢のオーケストラの芸術監督を引き受けました。ビジネスとしての音楽をやるのが好きじゃないからかな?

ブルックナーの第5交響曲は、どうしても途中で眠くなったり飽きたりして、CDを持っていても正直全曲通して聴いたことがありませんでした。今日はバッチリ覚醒して全曲集中して聴けたことが革命的です。

ミンコフスキはリズムが垂れないように、常に体を動かしてオケを督励し躍動的で輝かしいブルックナーをやってくれました。1曲だけのコンサートだったので、リハーサルを集中して十分にできたことも良かったのでしょう。都響も万全の演奏で指揮に応えました。

本日のコンマスはボス矢部、サイドはゆづきです。Vn1-Vla-Vc-Vn2の対向配置。ブルックナーの音楽は主役がVla-Vcという側面もあるので、この配置は納得できます。広い芸劇がほぼ満席の大盛況で、素晴らしい演奏会です。

第1楽章の、弦楽をベースにフルート(エキストラの松木さやさん)が音を4つづつ刻んでいくところなど震えがくるほどのめりこみました。第2楽章の静かな美しさにも感動。ブル5がこんなに素晴らしい曲だったとはじめて認識しました。ミンコフスキ-都響有難う。

脱稿したあと、ゆづきのツイッターみたらこんなことが書いてありました

「ブルックナー、、、
す・ご・す・ぎ・た
全員一丸となって弾ききりました
最後はみんな命綱を外してた」

✨✨✨✨ なるほどね

 

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2023年6月23日 (金)

続・生物学茶話214: 弱電魚の小脳

皆さんはテレパシーが存在するなどと言うと怪訝に思われるかもしれませんが、それが実在するということは60年以上も前に東京医科歯科大学の研究者たちによって証明されています(1)。

魚類の一部に弱電魚というグループがいて、彼らは体の周辺に電波を発信して電場を作り出し、それを受信することによって周囲の地形やエサや敵接近の状況を知ることができます。ところが近接した周波数の電波を発信している仲間が接近してくると、混信が起こってこの機能が使えず困るので、お互いに周波数の違う電波を発信して混信を避けるという行動をとります(1、2、図214-1)。ウィキペディアの定義によるとテレパシーとは「ある人の心の内容が、言語・表情・身振りなどによらずに、直接に他の人の心に伝達されること」とされています(3)。直接というのが何を意味するかによって解釈は変わるかもしれませんが、この弱電魚のコミュニケーションはテレパシーと言って良いのではないでしょうか。テレには電信という意味があります。

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図214-1 テレパシーは実在する

代表的な弱電魚であるエレファントノーズフィッシュ(鼻じゃなく顎が長い)と彼らに近縁なグループを Carlson と Arnegard が調べたところ、古いタイプの現存種はアンプラ(瓶)型の電気受容器を使って周辺の電場の変化を感知しているだけですが、進化するにつれて電気受容器を進化させると共に、自分で発電して電場を作り出すようになっていることがわかりました(4)。発電自体は神経がある生物はすべてやっているわけですが、周囲に電場を作って利用できるほど強力な発電には進化が必要です。たいていの場合筋肉が発電所として改造されて利用されます。

昔はジムノティ目とモルミリ目の弱電魚は結節型電気受容器といって、外界と接していない電気受容器を使っているということになっていて(5)、このブログでもそう書いたことがありますが(6)、実は通電性のゲルで満たされた細いキャナル状の構造(ampullary canal)を介して外界とつながっているようです(7)。ここでお詫びして訂正しておきたいと思います(7、図214-2)。こういう形だと ampullary organ というより flask organ と言った方が良いかもしれません。

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図214-2 弱電魚の電気感覚器

Carlson のグループがまとめたモルミロイド(モルミリ目の魚)とその近縁種の進化系統図を図142-3に示します(8)。最下段の2種 C.ornata と P.buchholzi は電気魚ではありません。X.nigri は電気受容器を持っていますが、電気魚としての発電器は持っていません。G.niloticus より上段の種はすべて電気受容器とまわりに電場を作り出す発電器を持っています。

電気魚でない魚に比べて X.nigri は少し小脳が大きくなっていますが、この傾向はモルミロイドになると顕著になり、G.petersii などは脳の半分以上を小脳が占めるという極端な脳の構造になっています(図142-3)。脳の各パーツがバランスを持ちながら進化するのではなく、その種の生活様式に応じて各パーツごとに進化するという、いわゆるモザイク説を支持する好例でしょう。ヒトの場合大脳皮質が異常に肥大化しているというのもその1例でしょう。

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図214-3 モルミロイド(象鼻魚)の形態とその進化に伴う小脳の巨大化

以前にはモルミロイドの脳は図214-3のようにまとめられることはなく、図214-4のように電気感覚側線葉などとして個別のパーツとして考えられていました(9)。小脳はC3のように、非常に小さいパーツとして表示されていたのです。214-4図のEGp(eminentia granularis par posterior) は適当な訳語を発見できませんでした。図214-5に示されているように、モルミリド科の電気魚の発電は適宜発生のパルス型で行われるので、この場合音声を聞くような形ではなく、ヒトの小脳が遠心性コピーによって、運動を制御するというのと似たようなことを行っていることがわかって(10)、このシステムを担っているパーツを小脳としてまとめてよいということになったのでしょう。

遠心性コピーというのは自分が動いたために発生した周りの変化と、周りが自分とは関係なく変化したことを識別するための脳の機能です。電気魚は周囲の電場が自分が動いたために変化したのか、エサや敵が現れたために変化したのかを識別します。そのためにはこう行動するように指示したという遠心性の情報を逐次コピーして記憶し、それを参照しながら状況を判断しなければいけません。脳科学辞典によると「今日では、運動実行系の階層的情報処理の様々な段階から、感覚情報処理系の階層の様々な階層に向けて運動関連信号が送られていると考えられている。」と記述されています(11)。

脊椎動物ではこのような記憶の管理を小脳で行なっており、この点ではモルミロイドと私たちの小脳で行っていることはメカニズム的に似ていると考えられます。

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図214-4 電気感覚の情報処理を行う部位は小脳とは呼ばれていなかった

電気魚が電気を生成するメカニズムは共通の祖先からみんなが受け継いだものではなく、グループによって独立に獲得したということがわかっています。ですからかなりのバラエティーがあって、正弦波を発生する、不規則なパルスを発生する、プラスなのかマイナスなのか、DC(direct current) なのかAC(alternating current) なのかなどさまざまなタイプがあります(12、図214-5)。非常に近縁な種類でも放電波形がAC型の種とDC型の種にわかれている場合もあります(13、図214-6)。これは種を識別するためにあえてそのように進化したのかもしれません。

ただエサや敵を感電させるのが目的で発電しているシビレエイやデンキナマズの様な場合、発電器を電池のように直列につなげて高電圧をつくらなければならないのでDCになっているのでしょう(図214-5)

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図214-5 電気魚が発生する放電波形の違い

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図214-6 アマゾン川に棲む非常に近縁なナイフフィッシュ2種の放電波形

 

参照

1)Akira Watanabe and Kimihisa Takeda, The change of discharge frequency by A.C. stimulus in a weak electric fish., J. Exp. Biol., vol.40, pp.57-66 (1963)
https://doi.org/10.1242/jeb.40.1.57.
https://journals.biologists.com/jeb/article/40/1/57/20904/The-Change-of-Discharge-Frequency-by-A-C-Stimulus

2)Wikipedia: Jamming avoidance response
https://en.wikipedia.org/wiki/Jamming_avoidance_response1z11kL4aeIO6xXp4zdAYOf7n59ShcArSh7DQD0kgEwyY07EJ6GJYzFoqJPvlTNWvJ6YErk~Pt66xvcWcbT~qhPQAFOzY-05ohZkpucPjhztkgtNFnKPjkDa1pQSRDgNvXIO8m3p0W73CBzgqOHkPWcS~UycwXmxjYMzTvkq4JX3gRKVx0tKP-nQ__&Key-Pair-Id=APKAIE5G5CRDK6RD3PGA

3)ウィキペディア:テレパシー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%91%E3%82%B7%E3%83%BC

4)Bruce A. Carlson and Matthew E. Arnegard, Neural innovations and the diversification of African weakly electric fishes., Communicative & Integrative Biology vol.4, no.6, pp.720-725 (2011) DOI : 10.4161/cib.4.6.17483
https://www.tandfonline.com/doi/epdf/10.4161/cib.17483?needAccess=true&role=button

5)菅原美子 電気感覚系の比較生物学 II 電気受容器と電気受容機構
比較生理生化学 vol.13, no.3, pp.219-234 (1996)

6)続・生物学茶話159:電気魚
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/09/post-898d9b.html

7)J.M. Jørgensen, Ampullary Organs in Mormyrid Fish
https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/mormyrid

8)Kimberley V. Sukhum, Jerry Shen and Bruce A. Carlson, Extreme enlargement of the cerebellum in a clade of teleost fishes that evolved a novel active sensory system.,
Current Biology 28, 3857–3863, December 3, 2018
https://doi.org/10.1016/j.cub.2018.10.038

9)Matthew A. Friedman and Carl D. Hopkins, Neural Substrates for Species Recognition in the Time-Coding Electrosensory Pathway of Mormyrid Electric Fish., The Journal of Neuroscience, vol. 18(3): pp.1171–1185 (1998)

10)菅原美子 電気感覚系の比較生物学III 電気感覚の脳内機構 と行動
比較生理化学 vol.14, no.3, pp.194-209 (1997)

11)脳科学辞典:遠心性コピー
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%81%A0%E5%BF%83%E6%80%A7%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%BC

12)Bass, A. H.: In Electroreception. Bullock,T. H.& Heiligenberg, W.(eds), John Wiley& Sons, 13-70 (1986)

13)Cornel l Chronicle Electric fish may have switched from AC to DC
https://news.cornell.edu/stories/2013/09/electric-fish-may-have-switched-ac-dc

 

 

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2023年6月21日 (水)

虫干し2 白いワンピースに黒いベルト

白いワンピースに黒いベルト

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写真は神戸の青谷というところにある私立松蔭高等学校・中学校(昔は松蔭女子学院)の100年の歴史を誇る制服で、ホームページに掲載してあるものだ。左が夏服、右が冬服になる。学校のホームページには次のように記載してある 「制服制定当時(1925年)、 女学生の制服は和装がほとんどでした 。卒業生の保護者が考案したデザインの中から選ばれたのが、このワンピースのデザインです。基本的なデザインを変更することなく約100年にわたり校内外から愛され続けているこの制服は、松蔭の先進性と伝統を象徴するものとなっており、松蔭生の誇りとなっています。」

その初夏に輝く白い制服をみかけるようになると、近傍の住人はああもう夏が近いんだと季節を感じる。この学校は南野陽子の母校として有名だが、その他にも宝塚歌劇団のスターを輩出するなど、ミッションスクールであるにもかかわらず世俗的で革新的な雰囲気が感じられる学校だ。

小学校6年生になった私は、はじめて受験勉強というのを経験した。私立の中学を志望したからだ。しかしそんな忙しい毎日の中で、修学旅行は息抜きの楽しいイベントだった。伊勢志摩と伊勢神宮を巡ったと記憶している。しかし伊勢神宮の玉砂利を踏みながら、どうしてこんなところに連れてこられたのだろうかと、疑問に思ったことを思い出す。

異変が起こったのは、その修学旅行が終わった後だった。私の隣の席のDという女子生徒に、誰も話しかけなくなったのだ。

今でも同じだと思うが、女子生徒は2種類に分類出来る。男子と気軽に話すオープンなグループと、女子だけで閉鎖的なグループを作って、男子とはめったに口をきかない連中だ。Dは後者だった。だから隣の席でありながら、私は友人として話したことはなかった。彼女は少女コミックから抜け出してきたような、瞳が大きく、ルックスがとても可愛い感じの生徒だった。背も高くて、将来はファッションモデルかスチュワーデス(キャビンアテンダント)になるのではないかと私は予想していた。ただいつもボーッとしているようなキャラだったので(成績も下の方だったと思う)、とりたてて男子に人気があって彼女の周りに集まってくるようなタイプではなかった。

クラスでシカトされている彼女が淋しそうにしているので、私は何か話しかけてみようと思っていたのだが、なかなかチャンスがなかった。そのうち何の科目か忘れたがテストがあって、その最中に彼女の消しゴムが私の机の下に転がってきたので、私が拾ってそっと手渡してあげた。テストが終わったあと、彼女は「どうもありがとう」と私に礼を言った。

それで2人の間のバリヤが壊れたみたいで、以後はフレンドとして話すようになった。ただ彼女と話していると、まわりの女子がぎこちない感じになるのがわかった。理由はわからなかったし、誰かに問いただそうという気にもなれなかった。自分はひょっとしてシカトされた弱者の味方をする似非ヒーローとしてみられているのだろうか?

しかしそれも束の間で、私は中学受験が目の前に迫って、そちらに集中せざるを得ない状況になった。首尾良く志望した私立中学の入学試験に合格して、卒業式も間近に迫った頃、ある男子の同級生に「いいこと教えてやろうか、Dのことだけど」と言われて、「えっ 何?」と答えると、「あいつは修学旅行中に出血して布団をよごしたそうだ」と教えてくれた。

その時はなんのことだかよくわからなかったが、後で考えてみると、まだ生理が来ていない生徒にしてみれば、大人になった生徒に違和感を感じていただろうし、すでに大人になっていた少数の生徒はその雰囲気を感じて「完黙」したのだろうと思う。

卒業式の日、式も終わって校庭に出てこれでこの校舎ともお別れかと少しセンチメンタルな気分に浸っていると、Dが突然私のところにやってきて「○○中学合格おめでとう、すごいね」とひとことお祝いを言ってくれた。学校でそんなことを言ってくれたのは彼女だけだったので私がキョトンとしていると、彼女はすぐに踵を返して走り去っていった。

それから2~3ヶ月たって市営バスに乗っていたとき、ある停留所で彼女が乗り込んできた。純白のワンピースに黒いベルトという、素晴らしい制服だった。それは南野陽子も通ったという私立松蔭中学の制服だった。私は彼女がその女子中学を受験したことも、合格したことも全く知らなかった。卒業式の日に私も「おめでとう」と言うべきだったのに、それを果たせなかったことが残念という思いが脳裏をよぎった。

何か話したかったが、彼女は同じ制服の生徒数人と楽しそうにおしゃべりをしていたので、割り込むのは遠慮することにした。彼女はおしゃべりに夢中だったし、結構混み合っていたので、終点で降車するまで彼女は私には気がつかなかったと思う。小学校時代の暗い雰囲気とは一変した、まぶしいくらいキラキラと輝く笑顔のDをみて、なんだかわからないけど本当に良かったなと思った。

 

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2023年6月19日 (月)

AIの危うさ

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6月15日東京新聞のウェブ版に次のような報告ではじまる重大なニュースが署名入りで出ていました。「国内の社会保険労務士の多くが利用している業務支援システム「社労夢(シャローム)」に対し、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃があった。なにより気になるのは、このシステムが800万人超分のマイナンバーを含む個人情報を扱っていたこと。もし外部に流出していれば、影響は計り知れない。政府・与党によってマイナンバーの利用範囲拡大や健康保険証廃止を含む改正マイナンバー法が成立したばかりだが、こんなことで大丈夫か。(岸本拓也、木原育子) 」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/256708

これはその記事でも解説されているような重大な事態です。もうマイナンバーそのものをいったんキャンセルしてやり直さなければならないレベルの事故だと思います。私は自分宛のメールのリストは毎日見ますが、怪しいメール満載です。なかには銀行とかプロバイダーとかアマゾンとかを装った危険なメールもほぼ毎日届きます。PCや生活の全壊と毎日隣り合わせの危険の中で暮らすことを強いられています。多くの人にかかわるAIだっていつ誰にいじられて全壊するかわかりません。

ネットに情報をあげれば、すべてハッキングされる危険があるものと思わなければいけません。ハッキングされなくたって、それをいじる権限のある人が何をするかもわかりません。最近米国の軍事情報が勝手に公開されたという事件がありました。

さらにAI自体が誤作動する恐れもあります。私が今使っているPCだって誤作動したため、マザーボードを一度交換しています。車に搭載されたコンピュータも誤作動するかもしれません。私はブレーキとアクセルを踏み間違えたという事故の何パーセントかは基盤の不調によるものだと思います。

https://news.biglobe.ne.jp/workstyle/0323/pre_230323_0388944901.html

ちょうど先ほど2021年のフランス映画「ブラックボックス・音声分析操作」という映画を見ました。これは航空機の操縦をAIにやらせようという話ですが、そのAIがハッキングされて墜落してしまいます。AIが誤作動していることに気がつけばすぐ手動操縦にもどせるようにしていなかったことが悲劇の原因でした。マイナンバーシステムが不調なら、すぐに従来の健康保険証にもどさなければなりません。政府はなぜそうしないのか理解できません。政府だけじゃなくて国会議員もどうかしています。

(写真はウィキペディアより)

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2023年6月17日 (土)

小泉-都響 ベルリオーズ「幻想交響曲」@サントリーホール 2023/06/17

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梅雨の晴れ間でめずらしい快晴ですが暑い。団地に襲来したオナガたちに見送られてサントリーホールへと。

本日のマエストロは小泉さん。コンマスはボス矢部、サイドはマキロンです。月曜日は札幌公演だけど小関さんも参加。ソリストはジュミ・カンさんです。サントリーホールはほぼ満席で、2Fにかなり補助席が出ていました。ホールの冷房は適度で快適な環境です。

マエストロ小泉はブルッフのVnコンチェルト第1番は2017年にも都響と芸劇でやっていて、そのときのソリストは堀米さんでした。これはなかなかの名演で、堀米さんの自由闊達で聴衆に語りかけるような演奏は心に残りました(1)。ジュミ・カンさんは堂々とした正統派の演奏で、聴かせ方をよく心得ているプロフェッショナルな感じ。不満はまったくありません。堀米さんのような親密な雰囲気はありませんけどね。まあそれは年の功もあるんでしょう。

後半の幻想交響曲はさすがに小泉-都響の名コンビで、細かいニュアンスも豊富、行くところは大音響で行くという聴衆フレンドリーな演奏でした。私は終楽章の不気味な狂乱の世界にずっと住み着いていたいと思いました。クラリネット糸井さんの異様にアグレッシブな演奏にも興奮してしまいました。

堀米さんの時もそうだったのですが、帰りにシャトレーゼのお土産までいただいて大満足の演奏会でした。

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1)過去記事:堀米ゆず子の演奏
http://morph.way-nifty.com/grey/2017/11/with-b04b.html

 

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2023年6月16日 (金)

Shall

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「You shall die」という台詞は古い小説に出てくる死語だと思っていましたが、スコセッシ-デ・ニーロの映画「タクシードライバー」で、裏社会の男がこの言葉を絶叫しながら襲ってきたときにはびっくりしました。shall には must や have to にはない何か見えない掟のようなものに支配されているようなニュアンスがあります。このニュアンスの言葉は日本語にはないのではないでしょうか?

Shall でもうひとつ忘れられないのは、ジョーン・バエズ(Joan Baez) が歌っていた We shall overcome という歌です(1)。日本語では「勝利を我らに」と訳されていますが、それだと「神よ、勝利を我らに与え給え」というニュアンスがあります。バエズがもし宗教的な人間ならそういう意味で歌っていたのかもしれません。ウィキペディアによると、もともとはチャールズ・ティンドリーという黒人の牧師が歌っていた霊歌が原曲で、公民権運動の象徴としてピート・シーガーがとりあげて世に出たそうです(2、7)。

なのですが、やはり Shall には神への祈願とは違う種類の意志、must や have to には無い自発的な意志+超自然的な力を感じます。「We shall overcome」はワシントン大行進など人種差別反対運動でも歌われましたが(3)、ジョーン・バエズ自身が2010年にホワイトハウスでオバマ大統領の前で唄ったことで、この歌は反政府運動の象徴としての役割を終えたのかもしれません(4)。

ところが中川五郎によって再生されて、日本では引き続き歌われるのかもしれません(5)。

美しい男声合唱(6)。

国連難民支援チャリティーコンサート@世田谷区民ホール(8)。

これ一番好きかも(9) でも結婚式で歌うのは意味深

1)Joan Baez - We Shall Overcome
https://www.youtube.com/watch?v=nM39QUiAsoM

2)ウィキペディア:勝利を我らに
こちら

3)ワシントン大行進(1963)で唄うジョーン・バエズ
https://www.youtube.com/watch?v=nuSih-Z30TY

4)ホワイトハウスで唄うジョーン・バエズ
https://www.youtube.com/watch?v=Yl5X8n1hDP4

5)We Shall Overcome 2012 中川五郎
https://www.youtube.com/watch?v=QXsTaeHaDQk
https://www.youtube.com/watch?v=9x5EfwlhGIM

6)Morehouse College - We Shall Overcome
https://www.youtube.com/watch?v=Aor6-DkzBJ0

7)Pete Seeger, We Shall Overcome
https://www.youtube.com/watch?v=M_Ld8JGv56E

8)TAEKO With G.M.C
https://www.youtube.com/watch?v=26ylTlOapls

9)Les Gospel Church
https://www.youtube.com/watch?v=FziBcjV8ub8

 

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2023年6月14日 (水)

虫干し1 青い眼の人

長い間ひと気の無い倉庫にしまっておいたショート・ショートを虫干しします。

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青い眼の人

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私が通っていた小学校では、毎朝全校生徒が整列して校長先生の話を聞くという朝礼をやっていた。あまりにも退屈な時間だったので、どんな話だったか少しも覚えていない。ただ毎回「気を付け」「前にならえ」「右向け右」「休め」などいろいろな号令をかけられて、そのたびに姿勢を変えたことは覚えている。先生の号令に従順な生徒をつくるためのトレーニングだったのかもしれない。校長先生の話は5分くらいで終わることもあれば、10分以上つづくこともあったように思う。毎日話す内容を考えるのは大変で、おそらく校長先生にとっては最も骨の折れる仕事だったのではないだろうか。

スチュアート達也(仮名)は米国人の父と日本人の母の間に生まれたハーフといううわさを聞いていた。強健なアングロサクソンの血が入っている割には日本人と同じような背丈で、しかも痩せて弱々しい感じの生徒だった。夏でもいつも長袖のシャツを着ていた。眼は灰色がかった青色で、いつも小さな声でボソボソと話した。朝礼の時はなんらかの基準(多分背の高さ)で決められた順にしたがって、私の前に立っていた。校長先生の話が長いときは、いつもつらそうにしていた。

4年生の頃だった。その彼が蒸し暑い夏のある日、ついに朝礼中にバタッと音を立てて倒れたのだ。私はあわてて前の方に走っていって、先生に伝えた。生徒のひとりが意識を失っているにもかかわらず、朝礼は中止にはならない。担任の先生があわててやってきて、彼を抱きかかえて保健室に連れて行った。私も指示されたので、先生を手伝って保健室に行った。保健室で手当されているうちに、彼は意識をとりもどしたようだ。気がつくと、私の方を見て弱々しく微笑んだように見えた。その事件があってから、私たちはときどきふたりで話をするようになった。

ある時、彼は私を自宅に誘った。彼の家は米国人の家らしく、広い庭に芝生がある平屋で洋風のつくりだった。高さ1メートルくらいの、白いペンキを塗った柵がぐるりと庭をとり囲んでいた。柵の一部が開くようになっていて、彼は金属製のフックをはずして私を誘い入れた。庭に入ってまわりをよくみると、芝生は手入れが行き届いていないようで、かなり雑草が生い茂っていた。家の扉を鍵で開けると、中は暗くて寒々しく、誰もいないようだった。私の家は家族が多く、帰宅して誰もいないということはあり得なかったので、経験したことのない別世界に踏み込んだような不思議な感覚だった。

「誰もいないの?」
「うん」
「お母さんは?」
「仕事」
「お父さんも仕事?」
「わからない、しばらく帰っていないんだ」
「どうして?」
「わからない、1ヶ月位いないんだ。それより台所に行って何か食べよう」

母親が仕事をするというのは、当時珍しいことだった。しかし父親が1ヶ月も帰ってこないというのは、さらに尋常ではない。台所に行くと、見たことがないような、英語で文字が書いてある大きな缶がいくつか並んでいた。彼はそのうちの一つのフタを開けて、中からビスケットを取り出し、いくつかを皿に並べて私の前に置いた。2人は黙ってバリバリとビスケットを平らげ、水道の水を飲んだ。

彼は私を寝室に連れて行って、2人でベッドに座った。本棚に何冊か英語の絵本があって、私にはものめずらしく、少し英語を教えてもらったが、すぐに飽きてしまった。すると彼は突然シャツの袖をたくし上げて私に見せた。手首に数本の線状の傷跡が見えた。私は緊張で体が固まってしまった。彼は弱々しく笑って、さぐるように私の目を見ていた。少しためらった後、彼は引き出しを開けて両刃のカミソリを取り出し、ヒラヒラさせた。ここで切るのかと私は凍りついたが、結局私が動揺するのを楽しんでいるだけで、彼にその気配はないようだった。彼がカミソリを引き出しにしまったときに、私は「帰る」と宣言して、急いで家を出た。彼はベッドに座ったままだった。

それからお互いに気まずい関係となり、私は彼と話すのをやめた。そしていつからか彼の姿をみかけなくなった。彼をみかけなくなってから2~3ヶ月経過した日、私は怖い物見たさという気持ちを封印できず、スチュアート家をこっそり再訪した。

達也が私をテレパシーで呼び寄せたのだろうか。彼が窓から顔をのぞかせていたらどうしようと少しドキドキしたが、そんな心配は無用だった。もうそこに以前に訪問した建物はなかったのだ。白い柵も取り払われ、芝生だった庭はすっかり雑草生い茂る野辺となっていた。風にさやさやとゆれる雑草を、私は呆然とみつめていた。するとどこからかモンシロチョウが飛んできて、花を探すようにあたりを何周かして、薄曇りの空にふわふわと飛び去っていった。達也が空からいつもの弱々しい微笑みをうかべて、青い眼で私を見つめているような気がした。

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(写真はウィキペディアより)

 

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2023年6月11日 (日)

続・生物学茶話213:小脳とは

小脳は脊椎動物だけが持っている脳の部品です。脳の分節は脊椎動物と最も近縁とされている尾索動物の幼生などにも出現しますが、まだ小脳らしき部域は無いようです(1)。成体のホヤでは分節すらなくなり、brain ではなく cerebral ganglion と呼ばれています(2)。成体のホヤにも表層・胃・心臓・サイフォンなどには筋肉があり神経も配備されていますが、それらを適切に動かすには非常に簡単な神経系でも事足りるのでしょう。

脳の分節はおそらくPCで言えばグラフィックボードが必要になったときに始まったのでしょう。プランクトン的、あるいは植物的生き方をしている生物は、ホヤのようなわれわれと近縁な生物でも脳とは言えないようなシンプルな中枢で事足りているわけですから、脳の分節化など必要なかったでしょう。しかし周りにエサがなくなり、眼で探して移動しなければならなくなったとき、呼吸や摂食(どちらも海水を吸い込む動作なのである意味一体ともいえます)のような基礎的情報処理と、全く別の情報処理を行なう画像解析は、信号の混在を避けてそれぞれ独立した部域に分離した方がエラーが少なく、そのようなシステムを獲得した生物が生き延びたのでしょう。

さらに眼でエサの位置を特定したら、そこに移動しなければなりません。そのためには画像による位置情報と移動するための筋肉をどう動かすかという指示を頻繁にアップデートしながらエサに接近しなければいけません。このようなシステムを実現するために始原的な脳の前方に中脳ができて、おそらくエディアカラ紀の終わり頃に脳の分節化がはじまったと思われます。

そこで次に小脳ですが、これはおそらくカンブリア紀になって弱肉強食の世界がはじまってから、天敵から逃れるために高度な運動が必要になった結果生まれたと想像されます。小脳を発達させてうまく逃亡するようになったエサを捕らえるためには、捕食者もエサ以上の高度な遊泳能力を備えなければいけません。このような切磋琢磨から魚類は小脳を発達させていったのでしょう。

ではとりあえず哺乳類小脳の形態から見ていきましょう。すべての脊椎動物の小脳(ピンク色の部分ー上図、オレンジ色-下図)は後脳(橋+延髄)の背側にあります。哺乳類も例外ではありません(3、図213-1)。脳科学辞典によると、小脳は「ヒトでは脳全体の15%程度の容積しかないが、脳全体の神経細胞の約半分が存在する」と記述されています(4)。

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図213-1 脊椎動物 脳の比較と小脳の部域の名称

小脳にもいくつか解剖学的パーツがありますが、片葉・小節は始原的な部分、虫部は次に古い部分で、発生過程でもこの順にできてきます(4、図213-1)。小脳脚は脳科学辞典の小脳の項目の図には掲載されていないパーツですが、小脳の入出力を担当する部分です(5、図213-1)。

小脳の主要部分である半球の断面は図213-2のようになっています(4)。この図に線維と書いてありますが、これが細胞生物学の分野の人間にとっては困った表現で、線維と言われると普通マイクロフィラメント、微小管、中間系線維あるいはコラーゲンファイバーなどのタンパク質のポリマーを意味するのですが、脳神経科学の分野ではこれが細胞の一部(軸索)を意味するのですから混乱します。図213-2のソースは脳科学辞典ですが、なにもキャプションがないので、PC, ac, gl が何を意味しているかわかりません。またいくつか破線がありますが下降の矢印がついている破線は何を表しているのかわかりません。是非説明を追加してもらいたいものです。

図213-2をみると、最も表層に近い部域は分子層と呼ばれ、星状細胞やバスケット細胞という抑制性介在ニューロンがあります。プルキンエ細胞の膨大な樹状突起や顆粒細胞の軸索である平行線維もこの部域の主要な構成要素です。分子層のすぐ内側にプルキンエ細胞が並んでいる細胞層があります。この層はモノレイヤーでプルキンエ細胞がきれいに整列しています(7)、その内側に顆粒細胞層があります。顆粒細胞層には顆粒細胞の他、ゴルジ細胞やルガロ細胞の細胞体があります。顆粒細胞層のさらに内側はニューロンの細胞体がほとんどない所謂白質となっています。

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図213-2 小脳の主要なニューロン (脳科学辞典 小脳より)

図213-3の左側はプルキンエ細胞です(6)。この風変わりな細胞は、19世紀に活躍したチェコの解剖学・生理学の研究者Johannes Evangelista Purkyně (1787-1869)によって発見されました。この図は100年以上前に描かれたものですが、より正確な形態は蛍光染色後撮影されたものがアップされています(8)。軸索よりはるかに太い樹状突起やその枝分かれ構造の美しさに圧倒されます。細胞体そのもののサイズが直径数十μmあって巨大なのですが、樹状突起が分布する空間の直径はおそらくミリ単位です。

右側の図は文献7などを参考に描画した模式図です。現在までの知識では小脳から外部への出力は、プルキンエ細胞の軸索(下降線維)を経由して小脳核・前庭神経核へ到達する経路のみとされています。一方入力は橋核からのの苔状線維と延髄オリーブ核(下オリーブ核)からの登上線維(とじょうせんい)によって行われます。ウィキペディアによると「登上線維によるプルキンエ細胞への強力な入力は小脳皮質の前後方向のプルキンエ細胞に協調運動のための時間的情報を伝達し、また苔状繊維から平行線維を介して小脳皮質の左右方向に体性感覚の位置情報が伝達され、この両者によって協調運動の時空間的な制御が行われていると考えられている」と記述されています(9)。苔状線維からの入力は顆粒細胞を介しておこなわれ、登上線維からの入力はプルキンエ細胞のほか星状細胞やバスケット細胞にも行われます(図213-3)。前庭神経核からの入力は小脳が平衡感覚に応じて動作を調整していることを示唆しています。

橋核は大脳皮質と密接な関係があり、ここからの苔状線維を介しての入力によって大脳と小脳は密接につながっており、運動関係の記憶と調整のほか、小脳は大脳を代替する機能もあるとされています(4)。

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図213-3 プルキンエ細胞とその他のニューロンとの関係

神経核という言葉が頻出しますが、ウィキペディアの定義によると「神経核(しんけいかく、英:nucleus (pl. nuclei))は中枢神経内で主に灰白質からなり、何らかの神経系の分岐点や中継点となっている神経細胞群のこと」とされています。神経核は上記の意味だとして、神経細胞の核はDNAを包む細胞生物学で言うところの核ということになりますからあまりよい表現ではありません。ニューロンクラスターとでもすればよかったのでしょうが、これは外野席からのたわごとです。

図213-4には小脳と関連した神経核の位置を示しています。小脳核は小脳に、前庭神経核は橋の背側、橋核は橋の腹側にあります。ここで言うオリーブ核は延髄の腹側にある下オリーブ核のことで、上オリーブ核は橋の内部にあります。前庭神経核は内耳の前庭器官と直結しており、平衡感覚にかかわっています(10、11)。

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図213-4 小脳に入出力する神経核の位置 左図はウィキペディア 右図は脳科学辞典より

小脳では顆粒細胞以外のニューロンはすべてGABA作動性です(図213-5)。顆粒細胞のみグルタミン作動性ですが、その数は圧倒的に多くなっています(図213-5)。しかもそれぞれの顆粒細胞の軸索は小脳全体を被う平行線維を形成しており、ひとつのプルキンエ細胞に20万本の平行線維がシナプスを形成するとされています(7)。ただし登上線維からの入力は非常に強力なのでバランスはとれているようです(7)。星状細胞やバスケット細胞もプルキンエ細胞とシナプスを形成しますが、必ずしも抑制するだけではないようです(12)。プルキンエ細胞は抑制性のシグナルを小脳核・前庭神経核に出すことによって運動などの調節を行います。

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図213-5 小脳に存在する各種ニューロンの特徴 (脳科学辞典 小脳より)

脊椎動物のなかで最も始原的と考えられている円口類のうち、ヤツメウナギは萌芽的小脳をもっているようです。一方ヌタウナギは小脳をもっていません(13、図213-6)。小脳はおそらく5億年以上の歴史をもつことが明らかになったわけですが、ヌタウナギにはないので、どのような生活に小脳が必要なのかもこの研究はヒントを与えてくれるかもしれません。

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図213-6 円口類の脳 (Sugahara et al 2021)

図213-7は J.Meek が発表したさまざまな脊椎動物の脳ですが(14)、これをみると小脳(濃い色の部分)が進化と共に大きくなってきたわけではないことがわかります。特に両生類の小脳が小さいことが目立ちます。魚類の小脳はバラエティーに富んでいますが円口類や両生類と比較すると一般に大型です。特に弱電魚であるモルミリド科の魚類の小脳は巨大です(図213-7)。生活様式によってオプショナルに大きく変動する領域なのかもしれません。

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図213-7 様々な脊椎動物の脳を比較する


参照

1)Research gate: uploaded by Jon Moreland Mallatt
https://www.researchgate.net/figure/Comparison-of-the-brains-of-A-larval-amphioxus-B-larval-tunicate-Ciona_fig1_257600431

2)Wikipedia: Tunicate
https://en.wikipedia.org/wiki/Tunicate

3)小脳の解剖 中外医学社 アップファイル
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2114.pdf

4)脳科学辞典:小脳
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%84%B3

5)はらかずみ 脳画像×小脳機能⑮ ~小脳脚~
https://note.com/riha_riha/n/nd5f6b0a10e51

6)ウィキペディア:プルキンエ細胞
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%A8%E7%B4%B0%E8%83%9E

7)脳科学辞典:プルキンエ細胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%97%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%A8%E7%B4%B0%E8%83%9E

8)朝日新聞デジタル 神経細胞の美しさと不思議さ 本当に役立つ研究へ 柚﨑通介さん
https://www.asahi.com/articles/ASNCF51W6NCCPLZU001.html

9)ウィキペディア:下オリーブ核
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%96%E6%A0%B8

10)/ Wikipedia: Inferior olivary nucleus 
https://en.wikipedia.org/wiki/Inferior_olivary_nucleus

11)脳科学辞典:前庭神経核 
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%89%8D%E5%BA%AD%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E6%A0%B8

12)平野丈夫 小脳皮質のニューロン・回路と機能
日本神経回路学会誌 vol.11,no.1,pp.26-33 (2004)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnns/11/1/11_1_26/_pdf

13)Fumiaki Sugahara, Yasunori Murakami, Juan Pascual-Anaya, Shigeru Kuratani
Forebrain Architecture and Development in Cyclostomes, with Reference to the Early Morphology and Evolution of the Vertebrate Head.,
Brain Behav Evol 96:305–317 (2021) DOI: 10.1159/000519026
https://karger.com/bbe/article/96/4-6/305/821612/Forebrain-Architecture-and-Development-in

14)J. Meek, Comparative aspects of cerebullar organization. From mormyrids to mammals.,
European Journal of Morphology, vol.30, no.1, pp.37-51 (1992)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1642952/

 

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2023年6月 8日 (木)

トリチウムの毒性

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福島第一原発からのトリチウム海洋放出が秒読みに入っていますが、放射性のセシウム・炭素・ストロンチウムなどが混ざっているとすれば別問題として、トリチウム自体の安全性についてサウスカロライナ大学のムソー博士(写真)とトッド博士が大量の文献を調査して、現在までの知識を整理しました。結論として次のように述べています。

contrary to some popular notions that tritium is a relatively benign radiation source, the vast majority of published studies indicate that exposures, especially those related to internal exposures, can have significant biological consequences including damage to DNA, impaired physiology and development, reduced fertility and longevity, and can lead to elevated risks of diseases including cancer. Our principal message is that tritium is a highly underrated environmental toxin that deserves much greater scrutiny.

適当な訳(管理人) トリチウムは比較的安全な放射性物質という考え方が一般に流布していますが、圧倒的多数の研究はトリチウムの内部被曝によってDNAが損傷し、健康被害や発生異常、出生率の低下、癌を含む病気のリスク拡大などの可能性を示しています。トリチウムが環境に存在することの毒性は著しく過小評価されており、もっと綿密な調査を行う必要があります。

ソース:Biological Consequences of Exposure to Radioactive Hydrogen (Tritium):
A Comprehensive Survey of the Literature
Timothy A. Mousseau, Sarah A. Todd  SSRN (april 11, 2023)
http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4416674

下記からダウンロードできます
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4416674

以下は私の過去記事の再掲です。

福島第一原発が事故処理で出たトリチウムを海に放出することが決まりました。このことが特段に危険なことかというと、そうではありません(トリチウム以外の核種がきちんと取り除ければの話ですが)。フランスのラ・アーグ核燃料再処理施設からは年間1京ベクレル以上のトリチウムが放出されており、こんな超弩級の放出に比べれば、兆レベルの福島の排出など可愛いものだという見方もできます。しかし日本は青森県の六ヶ所村にラ・アーグのような再処理施設を3兆円かけてほぼ完成させており、ここが稼働するとラ・アーグと同様な超弩級のトリチウム排出が行われると思われます。圧倒的に危険なボスキャラは六ヶ所村再処理工場です。

トリチウムは外部被曝はほぼないと言われていますが、内部被曝は確実にあります。核燃料の再処理は確実に地球を汚染し、人間も含めて地球上のあらゆる生物の遺伝子に悪影響を与えます。マスコミは風評被害という言葉を連呼しますが、これはとても危険なことです。トリチウムに実害はないという誤ったイメージを国民の脳に刷り込む効果があるからです。私は信心深い方じゃないので「神への冒涜」とは言いませんが、大量の放射性物質を垂れ流して自然を汚染すれば、当然癌は増えますし、生物相にも影響が出るでしょう。

だいたい外部被曝はないということになっていますが、本当にないのでしょうか? 確かにトリチウムが出すβ線は紙1枚で遮蔽できますが、じゃあ紙1枚がなかったらどうなるの? という話です。たとえば霧が出ると、霧は鼻粘膜とか気管支や食道に吸い込んでしまうので、外部被曝もありそうです。皮膚の表層の細胞や髪の毛の細胞は、ほぼ死んでいる細胞といってもいいのですが、メラノサイトなど一部生きている細胞も表層にあるので、これらがトリチウムのβ線に反応しても不思議ではありません。

6年前に私が書いた記事は、もうソースはリンク切れになっていますが再掲しておきます。

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週刊プレイボーイ編集部と菅直人元総理らは、福島第一原発の沖 1.5kmに船を出して、原発周辺の謎の霧観察や海水のサンプリングを行い、長崎大学大学院工学研究科の小川進教授らと共に分析しました。

少し記事を引用します。
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船上取材に同行した放射線知識が豊富な「南相馬特定避難推奨地域の会」小澤洋一氏も、後日、あれは気になる現象だったと話してくれた。「私は昔から海へ出る機会が多いのですが、フクイチだけに濃い霧がかかる現象は記憶にありません。凍土遮水壁の影響で部分的に地上気温が下がっているとも考えられますが、トリチウムが出ているのは事実なので、その作用で霧が発生する可能性は大いにあると思います。だとすれば、あの船上で起きた“気になる出来事”にも関係しているかもしれません」

その出来事とは、取材班全員が短時間のうちにひどく“日焼け”したことだ。フクイチ沖を離れた後、我々は楢葉町の沖合20㎞で実験稼働している大型風力発電設備「ふくしま未来」の視察に向かった。この時は薄日は差したが、取材班数名は船酔いでずっとキャビンにこもっていたにもかかわらず、久之浜に帰港した時には、菅氏とK秘書、取材スタッフ全員の顔と腕は妙に赤黒く変わっていた。つまり、曇り状態のフクイチ沖にいた時間にも“日焼け”したとしか考えられないのだ。
--------------------------------引用終了

トリチウムのβ崩壊

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トリチウムはDNAに取り込まれたあと、上記のようにβ崩壊してヘリウムを生成するので、その部分のDNAが壊れ(水素がはいっているはずなのに、ヘリウムがはいっている分子に変わってしまう)、突然変異が誘起されます。実際はるか昔から実験的に突然変異が発生することはわかっていました。それ以外にも、分子レベルの距離ではトリチウムのβ線は分子を破壊するだけのパワーを持っています。トリチウムは水の水素にかわることができるので、体のあらゆる部分で破壊活動を行うことができます。

皮膚にβ線(電子)がぶつかることによって、紫外線(電磁波)と同様皮膚が焼けて日焼けになったのでしょう。トリチウム焼けが日焼けより始末が悪いのは、気管支や食道に霧などに含まれるトリチウムを吸い込むと、それらの臓器まで焼けてしまうことで、つまりクリームやファウンデーションでは防げないということです。気管支や食道が日焼けすると癌が発生する可能性が高まると思われます。ともかく福島第一原発には無防備では接近すべきではないでしょう。

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六ヶ所村の再処理をやめるには、原子力発電をやめなければいけないのですが(現在はラ・アーグまで運んで再処理してもらっている)、福島第一原発の事故処理水はどこかに置いておけば済むことなので、実はそんなに困難なことではありません。場所さえ見つければ良いのです。150年くらい保管すればすべて崩壊して無害になるので、プルトニウムのような気の遠くなるような話ではありません。山林を買うか、タンカーを買うかで解決することです。小出裕章氏は船で新潟まで輸送して、柏崎刈羽原発の敷地に保管すれば良いとおっしゃってました。

とめよう!六ヶ所再処理工場(原子力資料情報室)
https://cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho

 

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2023年6月 5日 (月)

バルサ来日

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日本時間の今朝、セルタの残留に手を貸してしまったバルサ。試合終了後ただちに現地エアポートから日本に向かい、明日はヴィッセル神戸と試合とはいくらなんでも酷すぎる強行スケジュールじゃないですか?

もう見え見えのお遊びで、よくまあこんなスケジュールを組んだものです。それでも楽しむ人が居て儲かるんなら結構とも言えますが、故障者がでるのだけは勘弁して欲しい。

昔はちゃんと試合の間隔を開けて、親善試合とは言え横浜マリノスなどかなり真剣に取り組んでいました。

放送は日テレG+で6月6日18:30からあります。

飛行機内のメンバーの様子 180度で寝てるからまあラクチンと言えばそうですが。

https://twitter.com/FCBarcelona

応援歌 イムノ デル バルサ

https://www.youtube.com/watch?v=atzdPyR6rP0
https://www.youtube.com/watch?v=Vm_CP7L1UxY

日本語
http://morph.way-nifty.com/grey/2015/11/cd-353c.html

 

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