「渋めのダージリンはいかが」へようこそ

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生物学茶話(Science):こちら1

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生物学茶話PDF版 こちら4  こちら5
(PDF版には、はしがき、ページ付きもくじ、巻末索引がついています)

すべてフリーですので、ごゆっくりどうぞ 

「生物学茶話:@渋めのダージリンはいかが」の紙本は九州大学理系図書館、京都大学理学部図書館、島根大学附属図書館、東京大学理学図書館、東京工業大学大岡山図書館、北海道大学理学部図書室、杏林大学医学部図書館、電子書籍としては国立国会図書館に収蔵されています。

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2023年6月 3日 (土)

My favorites 20: ワーナー時代の西島三重子

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この図に出ているのは作曲家・西島三重子の仕事のごく一部で、これ以外にも提供曲はたくさんあります。この記録は昔のものですし、切れているかもしれません。

私はシンガーソングライターとしての西島三重子(みーちゃん)の音楽の中ではテイチク・コンチネンタル時代の音楽が一番好きなのですが、あえて今回は初期のワーナー・パイオニア時代の音楽を紹介します。この時代にはまだ世の中にCDがありませんでした。この時代の曲が、最近大量に Youtube にアップされたみたいです。アップしてくださった方々に感謝します。

みーちゃんがワーナーにいた時代はバブルより前で、若かったこともあって素の状態から自然に湧き上がってくるような音楽の素晴らしさがあります。またバブル時代の音楽よりむしろ今の時代に受け入れられやすいかもしれません。

愛の行先:このジャケットは素晴らしいと思います 私的にベスト
こちら1

リルケの詩集:リルケの詩集そのものは、あまりに難解でした
こちら2

昨日よりごきげんでしたか:ラジオ番組の主題歌
こちら3

あいつのハンググライダー:歌手はみーちゃんではありませんが名曲
こちら4

かげろう坂:めずらしくシュールな雰囲気
こちら5

口笛を吹かないで:「この曲知ってるか」って、現代の流行歌はほぼ知らない
こちら6

ざわめきの外で:社会から離れたいと思うときはいつの時代でもあります
こちら7

千登勢橋:いまでも橋の下を電車と車が並んではしっています
こちら8

仮縫い:意外に壮大なバラード
こちら9

水色の季節の風:あまりに悲しい曲想で、落ち込んでいるときは注意
こちら10

星めぐり:ただただ美しい、モーツァルトみたいな曲
こちら11

高音質版 愛に流されて/池上線/仮縫い
こちら12

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2023年8月17日18:00 ラドンナ原宿にてバースデイライヴ開催
(72才になります)
http://www.la-donna.jp/

 

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2023年6月 1日 (木)

続・生物学茶話212:ロンボメア

生物学茶話では何度も述べていますが、脳に限らず発生現象の基盤は遺伝子制御ネットワークであり、それは4次元的に刻々と変化するプロセスなので、人間にできることは大量のデータを入力してあとは知りたい時間と位置を入力して答えを得ることです。ただし切り取りであっても部分的であっても、2次元的に流れの概略を理解することはもちろん重要です。話が少しずれますが、将来AIで様々なことが決定されるような時代になっても、AIがどのようなプロセスでその決定に至ったかを、いくつか断面をつくって人間が理解できる範囲で概略的に知っておかないと、人間はAIの奴隷になってしまいます。

形態的に区切りのない、つまりナメクジウオのような始原的脊索動物から、ロンボメア(菱脳)のような区切りのある脳になる過程は脳の進化を知る上で重要ですし、個体発生の過程において「のっぺらぼう」の細胞塊に区切りができてロンボメアが形成されるプロセスは、脳形成における最初の重要な「節目」です。

ヘルナンデスらはゼブラフィッシュを使って、ロンボメア形成前史に一石を投じました(1)。レチノイン酸の濃度勾配が脊椎動物の発生において重要な役割を果たすことは昔から知られていましたが、レチノイン酸はもともと胚全体にあるものなので、その濃度勾配がなぜできるのかがわかりませんでした。彼らは Cyp26 というレチノイン酸を代謝する酵素を細胞が産生することによって、勾配と言うより 「all or nothing」 に近い形でレチノイン酸の局在がみられることを示しました(1、図212-1)。

レチノイン酸で誘導される因子はステージによって異なるので、当然 Cyp26 が抑制する遺伝情報もステージによって異なります。また中胚葉の Cyp26 の作用によって、全体的に発生のステージが進むにつれてレチノイン酸の濃度は下げられていきます(1、図212-1)

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図212-1 ヘルナンデスのレチノイン酸非勾配モデル

ロンボメア形成初期の最大の問題はr3より前部とr5より後部で発現する転写因子のパターンが異なり、中間のr4ではあまり発現がないという点です(図212-2)。ヒトではr1~r3は将来橋(+小脳)を形成し、r4~r8は延髄を形成します(2)

ロンボメアの中間領域の形成にZnフィンガー型の転写調節因子 Krox20(または Egr2 とも呼ばれる)が深く関わっていることは1993年 Sylvie Schneider-Maunoury らによって明らかにされています。マウスの Krox20 遺伝子を破壊すると、ロンボメアのr3およびr5が正常に形成されません(3)。 余談ですが毛も生えないことが知られています(4)。

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図212-2 ロンボメア(後脳)形成前史

Krox20 はロンボメアが形成される直前にr3、r5に発現し、それらの分節化に寄与しています(5、6、図212-1)。Nab1/2 は分節化などの役割を終えた Krox20 によってスモイル化され、 Krox20 を不活化する活性を持つために同じ位置に発現しているようです。スモイル化とは、SUMOタンパク質と共有結合することによるある種の翻訳後修飾です。Krox20 自身がSUMO化酵素ではなく、SUMO化酵素を活性化する作用があるようです。同じZnフィンガー型の転写調節因子である Niz1/Niz2 も Krox20 と類似した活性を持つようで、r4には発現していません(7)。

Irx3 と vHnf1 はどちらもホメオボックスタンパク質で、Hox 群とは別にロンボメアの前後を決定する役割を持つようです。Kreisler はロイシンジッパー型、Cdx1 はホメオボックス型の転写調節因子でロンボメアの後方決定に関与しているようです。

Krumlauf と Wilkinson によると、r4の前後でロンボメアが分かれるという問題のキーはr4に発現する Hoxb1 にあるようです(5、図212-3)。このホメオボックスタンパク質は Krox20 と相互に活性を抑制するという機能があり、r4では Krox20 が発現していても Hoxb1 の濃度が濃いために無効化されると考えるとr4問題が解決しそうです。またr3-r4、r4-r5の境界領域では双方が相互抑制(結合するとどちらも失活する)によって無効化され、その結果細胞増殖が抑制されて溝ができてしまうと考えるとロンボメアの分節化が説明できそうです(図212-3)。もちろん実際にはそんなに単純ではなくて多くの因子が関与しているようですが(5)。

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図212-3 ロンボメア分節形成のモデル

図212-4はポール・トレイナーの図をもとに制作しました(8)。左側はロンボメアの分節化とHox遺伝子の発現を対応させたものです。これを見るとr4より後部は概ねHoxは番号順に発現していますが、r3より前は2番のグループが規則を破って発現しています。r2とr3は後部の発生システムを臨時に追加適用して付け足したものであることがうかがえます。一方r1より前部はHoxとは別の新しいルール、たとえば Otx2 や En1 などによって形成されることになります(9)。

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図212-4 ロンボメアにおけるHox遺伝子の発現と鰓弓形成

図212-4右側はロンボメアと神経・鰓弓との関係を示したものです。ロンボメアが形成されるとそこから剥離して組織を形成する種(タネ)となる神経堤細胞も影響を受けます。すなわちロンボメアが分節化すると、それぞれを起源とする細胞も色分けされるわけです。剥離(デラミネーション)した細胞は主にまず鰓弓という組織をつくりますが、鰓弓(または咽頭弓)には番号がつけられており、ヒトの場合5つあって、前部から後部にかけて1-6という番号がつけられています(5は痕跡的で通常カウントされません、10)。

図212-5に示されているように、r1とr2から剥離した細胞から形成された鰓弓1からは顔面骨や下顎軟骨が分化し、さらに聴覚器官であるつち骨やきぬた骨も分化します。つち骨やきぬた骨は哺乳類の直接の祖先が顎の骨から分化させた骨で、哺乳類特有の進化した聴覚器官です。r3、r4から剥離した細胞からできた鰓弓からも様々な筋肉や骨ができますが、図215には一部しか示してありません。詳しくは参照10(鰓弓ではなく、咽頭弓となっていますが意味は同じです)をご覧ください。

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図212-5 ロンボメア各部域の神経堤細胞から形成される頭部の骨

頭部の前面の骨はもともとは外胚葉の神経堤細胞から分化して形成されますが、後部すなわち頭蓋骨は別途中胚葉から形成されます(11、図212-6)。ただしくも膜と軟膜は神経堤細胞から形成されます(図212-6)。

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図212-6 ヒト頭部の骨の由来

 

参照

1)Rafael E. Hernandez, Aaron P. Putzke, Jonathan P. Myers, Lilyana Margaretha and Cecilia B. Moens, Cyp26 enzymes generate the retinoic acid response pattern necessary for hindbrain development., Development 134, 177-187 (2007) doi:10.1242/dev.02706
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17164423/

2)ウィキペディア:菱脳
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%B1%E8%84%B3

3)Sylvie Schneider-Maunoury, Piotr Topilko, Tania Seitanidou, Giovanni Levi, Michel Cohen-Tannoudji, Sandrine Poumin, Charles Babinet, and Patrick Chamay, Disruption of Krox-20 Results in Alteration of Rhombomeres 3 and 5 in the Developing Hindbrain
Cell, Vol.75, pp.1199-1214 (1993)

4)Modena Hair Institute, Future cure for baldness and graying – studying the KROX20 protein.,
https://modenahair.com/future-cure-baldness-graying-studying-krox20-protein/

5)Robb Krumlauf and David G. Wilkinson, Segmentation and patterning of the vertebrate hindbrain., Robb Krumlauf, David G. Wilkinson., Development vol.148, dev186460. (2021) doi:10.1242/dev.186460
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34323269/

6)Hugo J. Parker, Marianne E. Bronner, and Robb Krumlauf, The vertebrate Hox gene regulatory network for hindbrain segmentation: Evolution and diversification., Bioessays vol.38: pp.526–538 (2016)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27027928/

7)Pablo Garcıa-Gutierrez, FranciscoJuarez-Vicente, Francisco Gallardo-Chamizo, Patrick Charnay & MarioGarcia-Dominguez, The transcription factor Krox20 is an E3 ligasethat sumoylates its Nab coregulators., EMBO reports vol.12, pp.981-1084 (2011)
https://doi.org/10.1038/embor.2011.152open_
https://www.embopress.org/doi/epdf/10.1038/embor.2011.152

8)Paul A Trainor, Making Headway: The Roles of Hox Genes and Neural Crest Cells in Craniofacial Development., The Scientific World JOURNAL vol.3, pp.240–264 (2003)
DOI 10.1100/tsw.2003.11

9)Luca Giovanni Di Giobannantonio et al., Otx2 selectively controls the neurogenesis of specific neuronal subtypes of the ventral tegmental area and compensates En1-dependent neuronal loss and MPTP vulnerability., Developmental Biology vol.373, pp.176-183 (2013)
https://doi.org/10.1016/j.ydbio.2012.10.022
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160612005908

10)ウィキペディア:咽頭弓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%92%BD%E9%A0%AD%E5%BC%93

11)大隅典子 講義録 東北大学教育用資料
http://www.dev-neurobio.med.tohoku.ac.jp/students/lecture/pdf/med_dev/2019/med_dev_2019_21.pdf

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2023年5月30日 (火)

尾高-都響 エルガー交響曲第2番&アンナ・ヴィニツカヤ@サントリーホール2023/05/29

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プライベートなトラブルで気分がすぐれない昨今なのですが、昨夜は都響の演奏会ということでサントリーホールに出かけました。指揮するマエストロ尾高の悲愴交響曲の名演は忘れられません。コンマスはボス矢部、サイドはマキロンとゆづき(途中交代)です。

ラフマニノフのピアノ曲をレスピーギが管弦楽に編曲した「海とかもめ」は浸れそうな曲で、もしCDがあるなら購入したいと思いました。

ラフマニノフのパガニーニの主題による変奏曲は、ピアノが重要で昨夜はアンナ・ヴィニツカヤがその役を務めました。2018年のリサイタル@サントリーホールが素晴らしかったので期待大です。黒一色で登場したので、これは落命した同胞兵士のための喪服かと思いましたがどうでしょう。単に黒が好きなのかもしれませんが。演奏は非常にアグレッシヴなものでしたが、決して威圧感はなく、あまりに素晴らしい演奏であっという間に曲が終わってしまいました。アンコールのラフマニノフの曲も、まるでラフマニノフが生き返って演奏しているという幻覚に陥らせてくれるような時間でした。物凄いピアニストです。

後半のエルガーの交響曲は満遍なくうるさい音響で、あまり好みではありません。アンナもつまらなそうに聴いていましたが、第4楽章の終わりの方だけは集中している感じでした(個人の推測です)。私も最後の数分だけは浸れましたね。少なくとも第2楽章はこんな風であって欲しいと思いました。とはいえ昨夜は日本中のエルガーファンが集結していたのでしょうか、終演後の客席の盛り上がりがひときわ盛大で、(ノーマイクだったので)多分予定外の指揮者アフタートークまでありました。

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2023年5月26日 (金)

ふたりの願い事メーカー

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サラも18才で老猫らしい体型になりましたが、体重は2.1kgで昨年と同じです。全盛期には2.9kgあったので、まあガレてはいます。食欲はありますが、非常に偏食になって困ります。サラの健康で唯一の問題は慢性鼻炎で、時に食べ物の匂いがわからなくなって、そうなると猫は餓死するおそれがあります。

まだ私のベッドに飛び上がることはできるので、静かにすごしたいときは誰も居ない寝室でリラックスしています(写真上)。

2023願い事メーカーがまだできないみたいですが、そのかわりに2023二人の願い事メーカーというのがあって、「もんちゃん」と「さら」の願い事をみると、下のようなのが出てきました。

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そりゃ無理だわ💧 

阪神タイガースにやってもらうしかないね。

 

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2023年5月23日 (火)

続・生物学茶話211:脳神経の入出力

脳神経の種類や入出力の位置については210でまとめましたが、入出力の方向性についてはまだでしたので、図211-1にまとめておきました。臭いを嗅ぐ(臭神経)、色や形を見る(視神経)、音を聞く(内耳神経)などの目的を持つ神経は入力のみ(求心性)、眼を動かす(動眼神経・滑車神経・外転神経)、舌・口・喉を動かす(舌下神経)、首を動かす(副神経)神経は出力のみ(遠心性)ですが、比較的メジャーな神経である三叉神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経は求心・遠心の双方向性の神経です。脳科学辞典の脳神経の項目(1)、ウィキペディアの脳神経の項目(2)をベースに作図しました。

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図211-1 ヒト脳神経の遠心性と求心性

脊椎動物の脳神経が支配する範囲はだいたい「のど」より上の部分ですが、迷走神経や副神経はそれより下、特に迷走神経は小腸や大腸の動きにも影響を与える機能を持っています。脳神経のうち、動眼神経(Ⅲ)、顔面神経(Ⅶ)、舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)は副交感神経を介して、図211-2のように組織を支配しています。不思議なのはこれらの脳神経は交感神経を含まず、すべて交感神経の出力は脊髄におまかせということです。一方副交感神経は脊髄のなかでも最も尾部の第2仙髄~第4仙髄からも伸びています(3、図211-2)。

このような交感神経の偏在が何を意味しているのか不明ですが、脳の立場に立てば、「進化の過程において各種臓器の活動を抑制して脳の活動を活性化するというセルフィッシュな目的であらたな副交感神経を設置したが、脳の活動を低下させる交感神経はあらたに設置する必要はない」、という解釈も可能でしょう。

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図211-2 ヒトの自律神経系

わりと最近になって、ヤツメウナギの菱脳神経管に色素を注入して、そこから遊走する迷走神経堤細胞の細胞系譜を調べたところ、腸管には分布していなかったことがわかりました。さらにヤツメウナギの体幹部神経管を色素で標識し,そこから遊走する体幹部神経堤細胞が腸管神経細胞に寄与するか否か調べたところ、実際に標識が見られたので、ヤツメウナギの腸神経は脳ではなく体幹の神経系にもっぱら由来することが明らかになりました。このことは体幹部神経堤細胞がより祖先的な,進化的に保存された腸管神経細胞の源であり、腸管神経細胞を形成する能力のある迷走神経堤細胞が有顎類において初めて生じたことを示唆します(4、5)。

すなわち脳が進化するに伴って、体幹由来の神経系が支配していた臓器も、しだいに脳が直接的に支配するように変わっていった例とも言えるでしょう。

参照

1)脳科学辞典:脳神経
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C

2)ウィキペディア:脳神経
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C

3)ウィキペディア:自律神経系
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

4)Green S.A, Uy B.R, Bronner M.E, Nature, vol.544, pp.88-91 (2017) doi: 10.1038/nature21679
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28321127/

5)目崎喜弘 脊椎動物の腸を支配する神経の系統発生学的由来とその神経を介するビタミン A の貯蔵
ビタミン vol.91 pp.655-656
https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/91/11/91_655/_pdf/-char/en

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2023年5月20日 (土)

My favorites 19: 倉橋ルイ子 「RUIKO」

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倉橋ルイ子さんの「RUIKO」というアルバムの裏ジャケです。
洗面器に足を突っ込んでいるという不思議な構図で印象に残ります。

バラードしか歌わないという希有のシンガー。
私のお気に入りは名曲満載のこのアルバムです。
幸いにしてライヴの動画もかなりアップされています。
私も何度かライヴを聴きに南青山曼荼羅に行きました。

そうそう彼女は学生時代松戸に住んでいて、マブチモーターでバイトをしていたそうです。私も永年松戸に住んでいて、松戸駅ビルでライヴがあったときには行きましたね。

動物園がタイトルになっている歌というのは、とてもめずらしいと思います。

雨上がりの動物園
こちら1

Love Letter
こちら2

Star
こちら3

ライヴ:哀しみのバラード
こちら4

ライヴ:I love you
こちら5

ライヴ:アモール~行かないで~
こちら6

 

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2023年5月19日 (金)

伊方原発はこのままでいいのか?

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佐田岬先端の灯台です。美しい景色ですが、灯台の下にたくさん穴が見えます。これは太平洋戦争中に本土決戦にそなえて整備された砲台のようです。

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佐田岬は伊予灘と豊後水道にはさまれた細長い岬で、太平洋の海溝で地震が起きた際には本州の防波堤になる位置にあります。

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この半島に現在稼働中の伊方原発があります。海沿いの低い土地にあって、東北大震災レベルの津波が来ればひとたまりもないでしょう。どうも原発は海抜20mくらいになるともうペイしないようで、福島の原発もわざわざ土地を削って低い土地に建設したために致命的事故が発生しました。

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驚くべきことに、この原発の真下に中央構造線という日本最大の大断層があります。地震調査研究推進本部 地震調査委員会の今年の報告によると「石鎚山脈北縁西部の川上断層から伊予灘の佐田岬北西沖に至る区間は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。」とされています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E6%96%B9%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80

(写真はウィキペディアより)

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この原発近郊で本日震度4の地震が発生しました、いよいよ大断層が活動をはじめたのでしょうか? 伊方原発はおそらく日本で一番危険な位置にある原発だと思いますが、政府はこのまま放置するようで震えます。

30年くらい前にはマグマ発電をやろうということで盛り上がっていたのですが、なぜか研究費が打ち切られ原発中心になってしまいました。ふくいちの事故があった後でも復活していないようです。別にミューオンでマグマの位置を精密に特定するというようなことをやらなくても、近づけば熱くなってくるのですから、パイプの素材などについては研究が進んでいて、あと一歩掘削技術さえあればできるはずです。発電所自体は富士電機という会社の得意分野です。今年もケニアの地熱発電プラントを受注しています(1)。

マグマは危険であると同時に日本の大きな財産です。この分野の研究に政府が大規模なファンドを投入して欲しいと思います。

1)https://www.fujielectric.co.jp/about/news/detail/2023/20230214140030031.html

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2023年5月17日 (水)

Love FC Barcelona

FCバルセロナ(通称バルサ)は世界に2億人以上のファンがいると言われているサッカークラブです。1899年に創設されましたが、1990年初頭頃から強力なチームになってエル・ドリームチームと言われるようになりました。当時のメンバーにはストイチコフ、ラウドルップ、グァルディオラ、クーマンなどが名前を連ねています。この頃のバルサは私は全く知りません。

その後暗黒時代があって、ロナウジーニョが加入するんじゃないかと言う噂があり、私もWOWOWに加入してバルサの試合を見始めました。その後実際にロナウジーニョが加入し、さらにエトオ、デコらも加入して2回目のドリームチームとなりました。カードにもEL NOU(New) DREAM TEAM と印刷してあります。

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後列左から ロナウジーニョ、ファン・ブロンクホルスト、マルケス、エトオ、オレゲール、バルデス(GK)

前列左から ラルソン、ベレッティ、デコ、チャビ、プヨール

当時のバルサにも弱点はあって、点取り屋がエトオしかいなかったんです。ロナウジーニョは実はいつもどこにキラーパスを出すかを第一に考えている人で、トップ下メンタルでした。私はいつもロニー(ロナウジーニョ)の頭の中に居てバルサのサッカーを見ていました。さあいまエトオやデコがどこにいるかを確認し、彼らが何を考えているかを想像し、どこにボールを出せば彼らがシュートできるか? それが不可能なら○○とワンツーで抜けるか、ドリブルで交わすか、などと可能性の計算をしてプレーするのが実に楽しい、不思議なサッカーの観戦になるんですね。こんな経験はその後ありません。日本人だと遠藤保仁の感覚に近いですが、ロニー=保仁+超絶技巧 かな。

サミュエル・エトオは瞬発力で勝負するタイプのストライカーで好きでしたね。現在はカメルーンサッカー連盟会長をやっています。ロニーはサッカーではあんなに頭の良いプレーをやっていたのに、引退後は馬鹿なことばかりやっていて本当に不思議です。

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左:エトオ、右:ロナウジーニョ

当時の中盤の中心だったチャビとデコです。チャビは現在のバルサ監督、デコは選手のマネージャーをやっているようです。

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左:チャビ、右:デコ(本名は Anderson Luís de Souza)

当時のディフェンスの中心だったプヨールとマルケス。プヨールはよくプジョルと呼ばれていますが、カタルーニャの現地人はプヨールと発音しているようです。ファイタータイプで、鈍足なのになぜか間に合ってました。マルケスはクレバーなディフェンダーで、ボランチとしても一流でした。現在はバルサのBチームの監督をやっています。

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左:プヨール、右:マルケス

チームを率いたライカールト監督。現地人の発音を聴いているとリカーと聞こえます。このあと3回目のドリームチームを作ったグァルディオラ(愛称ペップ)は偉大で、実際彼のチームはおそらくバルサ史上最強のチームだったと思いますが、見ていてなぜか取り込まれてしまうのはライカールトのチームでした。

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ライカールト

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2023年5月16日 (火)

バルサ リーガ・エスパニョーラを制す

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バルサはエスパニョールに4:2で勝利し、リーガ・エスパニューラ優勝を確定しました。往年の名MFチャビを監督に迎えてはじめての優勝です。いろいろ困難な問題を抱える中での優勝なので、みなさん喜びもひとしおでしょう。

みんな頑張りましたが、私が選ぶ殊勲者ベスト3は

1.テル・シュテーゲン 体が大きいのに驚異的な反射神経の止め技
2.アラウホ 私が見てきたここ25年のバルサで1番信頼できるCBです
3.レバンドフスキ 点をとった人

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(写真はウィキペディアより)

バルデ、ガビ、ペドリ、ケシエ、デ・ヨングはバルサの未来を開いてくれるでしょう。

デンベレ、トーレス、ファティ、ハフィーニャは物足りない1年でした。
でもみんな問題を抱えながら進化しました。来シーズンに期待したいです。

 

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2023年5月13日 (土)

都響 三善晃「反戦三部作」 指揮:山田和樹 @東京文化会館2023/5/12

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都響としてはめずらしいフライヤーです。ベースがシルバーでモノクロ的なデザイン、そしてチケット代金が印刷されていません。

三善晃氏は元東京文化会館の館長で、当時の石原都知事の差し金で詰め腹を切らされるという酷い目にあった方です(1、2)。もちろん思想的な対立のためでしょう。今回の企画は小池さんに都知事が替わっていたから実現したと思います。コロナでずいぶん遅れましたが、ようやく実現した演奏会です。

さてヤマカズの演奏会で死んでもいいとは思っていないのですが、個人的に色々思うところがあって行くことにしました。久しぶりに高架下のTOWAで玉丼が食べられると思っていたら、なんと開いていません。休みは月・火なのにどうしたのでしょう? 仕方ないので上野駅の中の「つばめグリル」でハンバーグをいただきました。肉食はひさしぶり。

本日の指揮者は山田和樹氏、コンマスは山本さん、サイドは珍しく塩田さんです。思った通り超絶の演奏会になりました。これほど激しい衝撃を受けたのは、ベルティーニのマーラー以来だと思います。コーラス(児童合唱も含めて)もオケメン(特に打楽器)も全力を尽くした超絶のパフォーマンスにクラクラします。

今日の三善晃の音楽は怖い音楽ですが、アラン・ペッテションのようはパーソナルなものではなく、三島由紀夫とは逆の方向から戦前・戦後の日本人に鉄槌を下す内容でした。私たちはよく今日の音楽会を復習することが必要だと思います。

もちろん三善晃は怖い音楽ばかり作った人ではありません。

麦わら帽子
https://www.youtube.com/watch?v=ECF_up06dpU

八月の金と緑の 微風の中で
眼に沁みる爽やかな麦藁帽子は
黄いろな 淡い 花々のようだ

甘いにおいと光とにみちて
それらの花が咲きにおうとき
蝶よりも 小鳥らよりも
もつと優しい生き物たちが挨拶する

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2019/12/post-8202a3.html

2)https://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/diary/200502190000/

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2023年5月11日 (木)

大変な1日

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今日は大変な1日でした。その中でひとつわかったことがあります。それはシジュウカラは地震予知ができるということです。まだ真っ暗で彼らも寝ているはずの時間なのですが、異常に大きな声で泣き叫んでいると思ったら、しばらくしてグラグラグラときて飛び起きました。

今私は頭に血がたまっていて車には乗れないんですが、そんな時に木下(きおろし)のはずれに行かなければならなくなって、CTやMRIで物入りなのでタクシーは使わずコミュニティーバスで行くと、行きは時間をみていくとしても帰りが大変で2時間に1本くらいしかありません。結局木下→成田→成田空港→千葉NT中央という経路で帰ってきました。なんだそれならタクシー呼べばよかったかも。

木下駅には久しぶりで行ったのですが、ホームに時刻表もないのには驚きました。時計ももちろんありません。木下(きおろし)は印西市役所があるところで、かなり大きな町です。駅として最低限の設備はあってほしい。スマホをみればいいじゃないかというのが最近の風潮でしょうが、そういうものでもないでしょう。

(写真はウィキペディアより)

 

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2023年5月 9日 (火)

続・生物学茶話210 脳神経整理

ウィキペディアに非常にわかりやすい脳神経のイラストがあったので、改めて図210-1として出しておきます(1)。それぞれの脳神経の出入り口は図210-2に表としてまとめました(2)。

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図210-1 ウィキペディア 脳神経

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図210-2 脳神経の出入り口をまとめた表

図210-1をみると、生物が濾過摂食で生きていた頃には不要だったはずの神経があまりにも多いことに驚きます。当時から絶対必要だったと思われるのはなんと言っても迷走神経で、内臓を支配するほか通常の筋肉をコントロールしており、まさしく古代生物だけでなく現代を生きるヒトにおいても生命の中枢として君臨しているように思えます。脊椎ができる前は迷走神経自体が脊髄の一部であったと想像できます。脊椎ができたときに、主要な神経系を「脊椎に埋め込まれる神経」と迷走神経などの「自由に分布する神経」に分離した脊椎動物が現在まで繁栄していることを考えると、それが優秀なストラテジーだったに違いありません。

しかし優秀なストラテジーを生み出したのは脊椎動物だけではありません。脊椎動物と祖先を共有しつつも、現在まで生き残っている頭索動物はそれなりに巧妙に進化しています。粘液でエサをトラップするというのは、濾過摂食から一歩抜け出した摂食法です。彼らは心臓も呼吸色素もない血管系しか持っていませんが、栄養を補給するには十分ですし、酸素を補給するには鰓囊を全身に巡らせ肛門とは別の出口から水を排出するという、栄養補給とは分離した別のシステムを作り上げました。

尾索動物の多くは固着生活を選択し、中枢神経系を縮退させて省エネ生活を行います。粘液でエサをトラップするというのは頭索動物と同じで、濾過摂食から一歩抜け出しています。それにしても尾索動物は脊髄を放棄したばかりでなく、血管を群体で共有するとか、血液細胞から生殖細胞ができるとか、遺伝子の多くが脱落しているとか、セルロースを合成できるとか、目もくらむような独特の進化を遂げていて、近縁にもかかわらず脊椎動物とはかけ離れた生物になってしまいました(3、4)。それでも現代でも繁栄しているということは、脊椎動物とは全く異なるストラテジーで成功した生物と言えます。

I~IV、VIは生物が視覚・嗅覚を頼りにするようになってはじめてできた神経だと思われます。濾過摂食時代の生物にはそれほど重要ではなかったはずです。脳神経の中でも最もメジャーなもののひとつであるV三叉神経は、その機能から見てあきらかに生物が顎を使って摂食するようになってから巨大化したに違いないでしょう。

舌咽神経や舌下神経は舌と関連が深いので、生物が舌を使うようになってからできたものかというとそうではなくて、なにしろ延髄に出入り口を持つ神経ですから、古くからなんらかの機能を持っていたと思われます。魚類は舌を器用に動かせませんが、舌周辺で味を感じることはできるようで、舌咽神経は味覚に関係していることは確からしいです(5)。また舌下神経は魚類の発音に使われているそうです(6)。舌下神経は魚類にはないと書いてある文献もありますが、後頭神経といういう名前になっているだけで実質同じもののようです(6)。後頭神経は一般的には鰭を動かすために必要とされています(7)。カエル以降は舌を動かすための神経に転用されたようです。

嗅覚・視覚関連以外の脳神経を図210-3にリストアップしました。聴覚は平衡感覚と密接に関係しています。おそらく始原的左右相称動物にとって必須だったでしょう。体が裏返っては左右相称動物は活動できません。迷走神経も内臓を動かすために当時から存在していたと思われます。他の神経は脳が発達するにつれて進化していったのでしょう。

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図210-3 嗅覚・視覚関連以外の脳神経

現生の脊椎動物が食事と呼吸に使っている脳神経を図210-4に示します。これをみると赤のV・VII・IX・Xがすべての生物に基本セットとして使われているようです(8)。この基本は変わらないものの、やはり陸上で生活すると言うことは同じシステムでは不可能だったに違いありません。両生類は+脊髄神経となっていますが(8)、カエルやカメレオンは舌下神経を使って舌で昆虫を捕まえて食べています。なので+XIIとしても良いのではないかと思います。空気は水より圧倒的に比重が軽いので、エサを喉に流し込む力が足りません。また強く吸引しないと酸素を吸い込むことができません。陸上生物は気囊や横隔膜を動かすために脊髄神経の力を借りることになりました。

哺乳類は二次口蓋を発達させ、呼吸と食事をほぼ分離しました。従って三叉神経は呼吸とは関係がなくなりました(図210-4)。三叉神経は顔の知覚と顎の動きを支配する神経なので、口の動きが呼吸と分離されると呼吸とは無縁になりました。これは数億年の約束事を破る哺乳類の特性です。 しかし実は呼吸と食事を完全に分離することはヒトでもできていません。誤嚥性肺炎で亡くなる人が多いというのはその証拠です(9)。

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図210-4 脊椎動物の食事と呼吸に使われる神経

 

参照

1)Patrick J. Lynch in wikipedia: Hypoglossal nerve
https://en.wikipedia.org/wiki/Hypoglossal_nerve

2)脳外科医 澤村豊のホームページ
https://plaza.umin.ac.jp/sawamura/anatomys/brainstem/

3)渡邊浩 創刊号に寄せて―基礎研究で味う苦楽一如―  つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology vol.1: pp.24-25. (2002)
https://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol1No1/TJB200209HW.html

4)産総研マガジン さがせ、おもしろ研究!ブルーバックス探検隊が行く 第27回その道20年の研究者が語る、実はすごい「ホヤ」という生き物の秘密 (2020)
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/bb0027.html

5)家木誉史 東京大学博士論文 小型魚類メダカをモデルとした味覚情報の伝達・認識に関わる神経細胞の解析 
https://core.ac.uk/download/pdf/196991389.pdf

6)宗宮弘明 日本産発音魚の新たな探索とその種名リストの作成 科学研究費補助金研究成果報告書 (2010)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-20580201/20580201seika.pdf

7)M.Nakae and K.Sasaki, Review of spino-occipital and spinal nerves in Tetraodontiformes, with special reference to pectoral and pelvic fin muscle innervation.,
chthyological Research vol.54, pp.333–349 (2007)
https://link.springer.com/article/10.1007/s10228-007-0409-z

8)Shun Li and Fan Wang, Vertebrate Evolution Conserves Hindbrain Circuits despite Diverse Feeding and Breathing Modes., eNeuro 0435-20 pp.1-15, (2021)
https://doi.org/10.1523/ENEURO.0435-20.2021
file:///C:/Users/Owner/Desktop/210/%E2%97%8EFeeding%20ans%20breathing%20hindbrain%202021.pdf

9)厚生労働省 e-ヘルスネット 誤嚥性肺炎
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html

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2023年5月 6日 (土)

My favorites 18: ppm

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Peter, Paul and Mary (ppm) は1961年に結成された米国のフォークユニットです。2005年にマリー・トラバースが白血病を罹患して自然解散となりました。男性2人と女性1人できれいにハモるという希有のコーラスで一世を風靡しました。日本でも影響を受けたミュージシャンは多いと思います。

If I had a hammer
https://www.youtube.com/watch?v=01M_J7c1ft4

Puff
https://www.youtube.com/watch?v=UgC6V4OfXP8

The Times They Are a Changing
https://www.youtube.com/watch?v=5dcaSCYnvtY

高音質
https://www.youtube.com/watch?v=WqoAzmmpNPY

Early Mornin' Rain (私的ベスト)
https://www.youtube.com/watch?v=0OCnHNk2Hac
https://www.youtube.com/watch?v=G1DQDevGS5Y

Cruel War(悲惨な戦争)
https://www.youtube.com/watch?v=bbCW9dim-GU

この Cruel War を、ボス矢部が声のストラディバリと絶賛する隠岐彩夏らが歌うそうです。
https://twitter.com/TatsuyaYabeVL

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2023年5月 5日 (金)

おかげさまで18周年となりました

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2023年5月 3日 (水)

続・生物学茶話209 栄養と呼吸のために

動物が生きていく上で基本は「栄養補給」と「酸素吸入」です。これはエディアカラ紀以前から変わりません。左右相称動物が生まれる前から生きていた海綿動物や刺胞動物には、6億年も経過した現在でも口と肛門を備えた消化管はありません。これらの動物は細胞が個々に有機物を取り込んで栄養補給をしてきました。

ただし最も古いタイプの生物とされる海綿動物も6億年以上は地球上に存在していると思われるので、それなりに進化していることは事実です。中には肉食の者もいるそうで驚きました(図209-1、1、2)。甲殻類などを食べるそうで、それなら細胞外に分泌する消化酵素は無くてはならないもののはずで、彼らがどんな消化酵素を持っているのか興味深いものがありますし、彼らは独自に進化していることを強烈に示しました。また現在の多くの海綿は細菌や古細菌と共生していて。これはある種の農業のようでもあります(3)。刺胞動物も消化管を持ちませんが袋状の胃のような器官があり、そこにトラップしたエサを消化酵素で分解して食べています(4)。

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図209-1 タテゴトカイメン 竪琴に獲物がひっかかると膜で包んで消化する 先端の球体は精子をつくる器官 深海生物でサイズは数十センチになるものもある

呼吸を呼吸器や循環器なしで細胞レベルで行なうには、自然拡散に頼ることになるので、体はミリレベルの平ぺったい形態でなければいけません。ただし仮根を作って葉っぱのような形態をつくる、あるいはプランクトンになって漂うなどの作戦で比較的効率よく呼吸することはできます。実際現代の海綿動物や刺胞動物もそのようにして、かなり大きな体を維持している生物もいます。しかしエディアカラ紀の海底一面に増えた藻類は、そのような生き方を捨てて冒険的進化に誘うに十分な魅力を備えていました(5)。

藻類を食料とするには、何はなくとも最低口器は必要です。濾過摂食法では岩にくっついている藻類を食べることはできません。ですから藻類を剥がすか、こそぎとるか、切断するか、くっついて消化されるのを待つか、最初は最後者だったのかもしれませんがそれではあまりにも非効率でしょう。

その後視覚・嗅覚・移動手段の進化などにより(すべては藻類を食べるため)、いわゆる動物らしさが現れてくることになったと思われます。頭索動物は脊索動物ですが濾過摂食の生物です。おそらく彼らの祖先はカンブリア紀以前は自由遊泳生物だったのが、弱肉強食を生き抜くために砂地に隠れて生活するようになった(そんな生活様式の者が生き延びた)のでしょう。彼らは口の周りに謎のひげ状の口器をもっており、これはエサを集めるのに多分役に立っているのでしょう(図209-2の oral hood with tentacles)。非常に原始的な脊索動物も口器をつくる能力はあることの証明ではあります。

藻類食を試みた初期の生物は大きな問題を抱えていました。大きめの食料を消化するには時間がかかります。しかし消化管の水流を渋滞させると酸素が足りなくなってしまいます。ですからこのような生物がプランクトンの状態を脱するには長い時間(多分数千万年)をかけた進化が必要だったと思われます。私たちの先祖はこの問題を、1)消化管の一部を盲囊にして食料を滞留さてて消化する、2)喉にエサが通過しない程度の小さな(あるいは細い)穴を開け、そこに血管を密生させて呼吸する という2つの対策によって乗り越えました(図209-2)

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図209-2 ナメクジウオの形態

腸の盲囊は肝盲囊と呼ばれていますが、肝臓と言うより膵臓のように消化酵素(トリプシン・キモトリプシン・エラスターゼ)を分泌する臓器のようです(6)。私たちも虫垂という盲囊を持っています。ただし消化に必要な器官ではなく、免疫機能を担っています。また草食動物の虫垂は共生微生物を住まわせてセルロースを消化しています(7)。草食をはじめた始原的左右相称動物もそうしていたのかもしれません。ともあれ消化管に盲囊を作るという機能は頭索動物と脊椎動物の共通祖先がすでに持っていたと思われ、当時から盲囊は非常に重要な役割を担っていたと思われます。

さてベントス(底生生物)として生きることを選択した生物にとって、もう一つ重要なことはガス交換です。プランクトンのように自動的なガス交換ができないので、水との接触面積を広く取り、さらにできれば自分の力で液体を動かして呼吸しなければなりません。とりわけエサを求めて移動する必要がある生物は筋肉(中胚葉)を持つことが必然でしたし、大量にエネルギー得るためには鰓を持つことが必須となりました。H.Ono らはナメクジウオがうまく Nodal や Hedgehog を使って鰓を作っていて、そのやり方は脊椎動物でも踏襲されていることを証明しました(8)。

私は最近ホヤの鰓を見て驚きました(図209-3)。固着性のホヤの体の半分くらいが鰓なんですよね。これは動きの少ないベントスであっても、いかに多量の酸素を必要とするかを示すものだと思います。これを考えると盲囊より前に消化管から外界に貫通する通路の方が最初にできて、始原的な鰓ができてから、後に盲囊ができたと考えた方が自然かもしれません。

ホヤはセルロースを分解できるめずらしい生物なので、栄養の獲得のためには胃があるだけで十分なのかもしれません。

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図209-3 ホヤの形態


参照

1)Wikipedia: Chondrocladia lyra
https://en.wikipedia.org/wiki/Chondrocladia_lyra

2)Sci News: Extraordinary New Sponge Species Discovered
https://www.sci.news/biology/article00703.html

3)ウィキペディア:海綿動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E7%B6%BF%E5%8B%95%E7%89%A9

4)ウィキペディア 頭索動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9

5)Ye Wang, Yue Wang, Feng Tang, Mingsheng Zhao, Ediacaran macroalgal holdfasts and their evolution: a case study from China., Palaeontology vol.63, Issue 5, pp.821-840 (2020)
https://doi.org/10.1111/pala.12485
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/pala.12485

6)Haifeng Li, Zhan Gao, Shicui Zhang, Localization of trypsin, chymotrypsin and elastase in the digestive tract of amphioxus Branchiostoma japonicum with implications to the origin of vertebrate pancreas., Tissue Cell, vol.79, no.101943 (2022)
https://doi.org/10.1016/j.tice.2022.101943

7)ナゾロジー 盲腸の原因である「虫垂」はホントに役立たず? 虫垂がもつ重要な役割とは
https://nazology.net/archives/80515

8)Hiroki Ono, Demian Koop and Linda Z. Holland,Nodal and Hedgehog synergize in gill slit formation during development of the cephalochordate Branchiostoma floridae., Development vol.145 (15): dev162586. (2018) https://doi.org/10.1242/dev.162586
https://journals.biologists.com/dev/article/145/15/dev162586/48462/Nodal-and-Hedgehog-synergize-in-gill-slit

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2023年5月 1日 (月)

My Favorites 17: Day and Night

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バラードのカバーは時代時代の音楽をつなぐケーブルのようなものだと思います。バラードといえども、どの時代でも同じではなくて、やはりそれぞれの時代のテーストが感じられるところが面白い。

「Day and Night」 は Nina(向かって左)と Fuu(向かって右)のユニットで、時代にこだわらずバラードのカバーをやっています。Fuuはややハスキーな暗い声で私好み、Ninaはややとんがった澄んだ美声で、コントラストが明瞭なシモンズ系の組み合わせです。イーヴンなハーモニーで聴かせるタイプじゃ無くて、曲ごとにどちらかが主導権をとって、片方は隠し味的にサポートするというやり方が良いのかもしれません。

あぐらをかいてのデュエットは珍しいかもしれませんが、このユニットの特徴なのでしょう。

春風/Rihwa(リーファ 現在は"Sunny Side Camp"を結成してそのメンバーとして活躍中)
こちら

猫/あいみょん
こちら

ロビンソン/スピッツ
こちら

ロビンソン/スピッツ(Fuuのソロ)
こちら

未来/コブクロ
こちら

すてきなホリデイ/竹内まりや
こちら

恋に落ちて/小林明子
こちら

真夏の果実/サザンオールスターズ
こちら

Official: https://twitter.com/dayandnight_jp?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor




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2023年4月29日 (土)

回復しました

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ひどかった偏頭痛的な頭痛がほぼ解消し、喉の腫れもなくなって、調べ物ができるようになるくらいに回復しました。ご心配かけて申し訳ありませんでした。これからは従来のペースで、更新していこうと思っておりますのでよろしくお願いします。コロナだったのかもしれませんが、真相はわかりません。コロナは消滅したわけでは無く、現在はXBB株に猛烈な速度で置換されつつあるようです(1)。

1)こちら



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2023年4月26日 (水)

小泉-都響 スコットランド交響曲@東京芸術劇場2023/04/26

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病み上がりですが、今日の演奏会は私としてはかなりの空白があって久しぶりなので、ともかく行くことに決めました。咳がでない風邪であることが決め手となりました。コンマスはボス矢部でやっぱり雨でした。しかし今日に限っては傘がステッキがわりとなってOK。都響はコンマスの採用に手間取っているようで、ボス矢部氏もさぞかし大変なことだろうと思います。今日の指揮者は名コンビの小泉さん。サイドはマキロン。

「運命の力」序曲がはじまると、ちょっと金属的な1Vnが聴こえてきて、そうそうこれこれと安心します。金川(かながわ)さんのVnは2年前にも秋山さん指揮の都響で聴いたことがあって、シベリウスのコンチェルトでVnパートを発狂させたことが印象に残っています。そこで、すごいけど金太郎飴のおそれありなんて書いてしまったのですが(1)、それがとんでもない間違いであることは今日の演奏で明らかになりました。

曲はメンコン。金川さんは銀色のドレスに黒のベルトで、これは今日は「いぶし銀」でいきますよというメッセージだったのでしょうか? 金川さんは朗々とした音で押し出しの強い超正統派の人かと思っていたわけですが・・・、むむう かそけくも繊細な出だし。その後も自然の微風で葦がそよぐような演奏で度肝を抜かれました。ヴァイオリンに合わせて芸風を転換したのでしょうか? だけど嫌いじゃないですよこの演奏。だって他では聴けませんから。実はすごく細かいところまで考え抜いて設計した演奏だとも思います。

金川さんの演奏で発狂したなかのひとりである山本翔平氏がインタビューしている動画があります(2)

メインは同じメンデルスゾーンのスコットランド交響曲。小泉-都響の演奏は神域に達していると思います。


1)過去記事
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/06/post-1004fd.html

2)https://www.youtube.com/watch?v=KqT2iojzej0

 

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2023年4月25日 (火)

脱力感と頭痛と喉のヒリヒリの毎日

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軽減したものの、まだ症状は残っていて正常な自分にはもどれていません。偏頭痛的なのが周期的にやってきてキーンときます。喉もペラックT錠がなければ今頃餓死していたかもしれないので、この薬にはお世話になっています。

それにしても私の場合鼻水や咳も全くないので、ウィルスは鼻にも気管支にもきていないと思われます。熱もありません。咽頭と神経にしかこない感染症なんてはじめての経験です。BAZZARのサイトをみると(1)、頭痛はオミクロン株の主要な症状で、頭痛薬を飲めと書いてありました。

咽頭から神経に来たとすると迷走神経経由か? だとすると精神や私の弱点である腎臓にもダメージが来る可能性があるので嫌な気分ではあります。もう十分医者に行ける体調ではありますが、まあ頭痛薬とトラネキサム酸を出して終わりでしょうね。

1)この頭痛は新型コロナのオミクロン株感染が原因? 症状について知っておくべきこと
こちら

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2023年4月24日 (月)

XBBだったのだろうか?

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図:IgM

ひょっとするとコロナの最終電車?に乗ってしまったのかもしれません。20日の記事はもうできていたのでスイッチを押せばよかったのですが、サボテンの花が咲いたのには驚きました。気づくとキャンディやチョコレートを除く(食べないので当然)すべての物がなくなってきていて、コンビニ・ドンキ・ペットショップ・スーパー・ドラッグストアに直ちに行くことが必須となりました。無事に回ってこれるだろうか?

昨夜くらいからIgM(図 ウィキペディアより)が働き出して症状が軽くなってきたのでしょう。XBBなどというのは昔のコロナとは縁遠いものなので、ワクチンを射っていたって役には立ちません。数日間何も調べ物ができなかったというのはブロガーにとっては痛い空白です。まだ完治していないので、IgGができてきて完治するまで、しばらくは埋め草を考える方に苦慮しそうです。

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2023年4月22日 (土)

サボテンの再生

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このサボテン(マミラリア)はブログの過去記事によれば、少なくとも2007年にはうちに居たので、15年以上栽培していることになります。主幹が地面を這うように伸びてしまったので切断し、支幹だけになって花も咲かせなくなりました。しかし3年経ってようやくまた花を咲かせてくれるようになりました。規則正しく可憐な花を咲かせてくれます。

私は実はここ3日ほど寝込んでいて体調がすこぶる優れません。数十秒おきに頭部のある部分に激痛が走ります。両手が急にかゆくなって1時間くらいそれが続きました。喉の腫れは薬で軽減しています。熱はありません。ただ昨日よりはすべて軽減しています。

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2023年4月20日 (木)

続・生物学茶話208 脊椎動物の脳を比較する

ダーウィンフィンチとはスズメ目フウキンチョウ科の鳥で、数百万年前に南米大陸からガラパゴス諸島に飛来し、その後飛来途中で経由した島々が消滅したためガラパゴス諸島で独自の進化を遂げたとされています。ダーウィンが進化論の基盤にしたといわれている鳥たちで、実際このグループにおいて新しい種ができる過程をデイヴィッド・ラックが報告しています(1、2)。

図208-1にみられるように、エサの種類によって嘴の形が大きく異なる方向で進化したことがわかります。上の2種は硬いナッツを割って食べるので大きくパワフルな嘴を持ち、下の2種は昆虫を食べるために繊細な嘴になっています。これだけ形が変わると筋肉の種類とかパワーとか動かし方も変わるので、それらの特質がセットとなって進化しなければいけません。また嘴が巨大になったからと言って体全体がマッチョになる必要はないので、他に影響を与えず部分的に強力な筋肉ができるようなメカニズムが必要です。

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図208-1 ダーウィンフィンチ

ここで脊椎動物の脳の形態を復習しておきます。図208-2ではでは脳を5つのパーツ(H:hindbrain 後脳, C:cerebellum 小脳, M:Mesencephalon 中脳, D:Diencephalon 間脳, T:Telencephalon 終脳 or 大脳)に色分けして表示してあります。おおよその相対的な位置は、円口類であるヤツメウナギを含めて決まっていますが、hindbrain を除いた他の4つのパーツは大きさや形態がかなりグループによって異なります。

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図208-2 脊椎動物の脳の構成

そして同じ哺乳類でも、マウスとヒトとでは脳の形態は著しく異なります(3、4、図208-3)。これはヒトの脳では終脳(大脳)というパーツが異常に巨大であることがその最大の理由です。ヒト科の生物は440万年前に出現したアルディピテクス・ラミダスでは脳の容積は300~350ccだったのが、40万年前のホモ・ハイデルベルゲンシスでは、ほぼ現代人並の1400ccとなっているなど、たった400万年の間に著しい変化がみられます(5)。これは脳全体が大きくなったというより、終脳が著しく肥大したためです。ダーウィンフィンチの嘴と同様、ヒトの終脳はわずか数百万年未満の期間に著しい変化を遂げています。他にもイルカなどは終脳が肥大しています。

もうひとつ注目すべきなのは、同じホモ・サピエンスであっても顔の造作やサイズは人種や個人ごとに著しくバラエティに富んでいるということです。もっとすごいのは犬(Canis familiaris)で、とても同じ種とはおもえないくらい顔やサイズにバラエティーがあります。トンボやハチではこんなことはあり得ません。

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図208-3 マウスとヒトの脳の比較

図208-2を見ていて不思議に思うことがあります。ヤツメウナギなどの円口類では小脳は痕跡的なものですが、魚類では大変立派になっています。ところが両生類では著しく萎縮し、鳥類や哺乳類では再び大きくなっています。この理由はまだ探索していないのでここでは言及できません。それでも脳のパーツの変動が激しい例のひとつとは言えるでしょう。ほかには嗅覚を重視する軟骨魚類や爬虫類では臭球という別構造が用意されているのも顕著な変化です。

脊椎動物はその生態に応じて、脳のパーツを変化させることで進化してきました。しかしながら、実は脊椎動物が出現して以来ほとんど変化がない部分もあります。それは 後脳=hindbrain という部分で、ヒトでは橋・延髄とよばれています。ここからは様々な末梢神経の入出力が行われていて、その構造も保存されています。つまり脊椎動物はCPUやI・Oポートの基本構造はおそらく古いままで、グラフィックボード、メモリー、HDD、ファン、マウス、キーボードなどを追加・改良することによって進化してきた生物と言えるのではないでしょうか。ただヒトはちょっと特別で、それは他のすべての生物にはない言語という情報処理の方法を獲得したため、巨大な辞書を収納する場所を確保せざるをえず、それを大脳に託したのです。言葉は人間の情報処理全体に大きな影響を与え、そのため伝統的に後脳がやっていた仕事を大脳が奪い取るような場合があるのではないかと、つまり別のCPUが加わったような変化があるのではないかと思われますが、それは今後の宿題とします。

各種脊椎動物の後脳と末梢神経を示したのが図208-4、208-5です(6、7)。確かに後脳とそこからの入出力は保存的です。そのわけは当然と言えば当然ですが、後脳とその入出力を決める発生のシステムと、中脳より前の脳をつくる発生システムが全く異なるからです。おそらく後者は点突然変異(point mutation)のような小さな遺伝子変異によっても、大きく構造が変わる可能性があるような発生のシステムを採用していると考えられます。

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図208-4 カエルの脳

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図208-5 軟骨魚類とヒトの脳

今日のまとめを図208-6に示しておきます。

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図208-6 保存された脳と変化する脳



参照

1)デイヴィッド・ラック著  浦本昌紀・ 樋口広芳 翻訳 思索社 1974年刊
(引用していますが実は未読)

2)ウィキペディア: ダーウィンフィンチ類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%81%E9%A1%9E

3)Wikipedia: mouse brain
https://en.wikipedia.org/wiki/Mouse_brain

4)Wikimedia commons category:human brain
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Human_brain
National Institutes of Health - http://lbc.nimh.nih.gov/images/brain.jpg (found on page http://lbc.nimh.nih.gov/osites.html)

5)サイエンスポータル 未来ビジョン《山極壽一さんインタビュー》ゴリラたちから学ぶ 〜人間の本質と未来の姿〜
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20190926_w01/

6)Online Biology: Nervous system of frog.
https://www.onlinebiologynotes.com/nervous-system-of-frog/

7)続・生物学茶話205 脳神経の基本構成
http://morph.way-nifty.com/grey/2023/03/post-3a1402.html

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2023年4月18日 (火)

憑依のピアニスト 進藤実優

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絶賛したいピアニストです。第18回ショパンコンクールセミファイナリストですが、彼女より好成績のピアニストは大勢いました。でも彼女は別次元のピアニストです。じゃあコンクールに出場する意味は無いかというと、そんなことはなくて、私もショパンコンクールの配信ではじめて知りました。人に知ってもらうことは重要です。

東京でリサイタルをやるのは今回初めてだそうで、私も実演に接するのを今から楽しみにしています。

ショパン エチュード
卒倒もの
https://www.youtube.com/watch?v=snSNdxNZPbk

リスト スペイン狂詩曲
強烈な感情移入が爆発し・・・
https://www.youtube.com/watch?v=r8scalcNIK8

ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章
静止画ですが、この演奏にはもう泣くしかない
https://www.youtube.com/watch?v=0Jc-cIlZGQ8

ショパン アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
最初の1音から別世界に持って行かれる
https://www.youtube.com/watch?v=vruRCzN-aUQ

76th Concours de Genève, Piano Semi-Final 2022 (Solo Recital)
たっぷり
https://www.youtube.com/watch?v=W8gCtdOHLs4

オンラインピアノコンサート 
素晴らしい音質
https://www.youtube.com/watch?v=IXqrLT2iRE4

進藤実優 twitter
https://twitter.com/ShindoMiyu

 

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2023年4月15日 (土)

新札のデザイン

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新札のデザインが発表されました。多くの人が指摘しているようにデザイン自体は非常にチープな感じで、没落する日本を象徴しているような感じですが、それはそれとして少し言いたいことがあります。

津田梅子が採用されたことには私なりの感慨があります。彼女はトーマス・ハント・モーガンの研究室でカエルの発生を研究していたことがある人で、動物学に縁のある人がお札になるとは素晴らしいと思いました(1)。とは言ってもだから政府が素晴らしいわけではありません。政府は理研を大幅にリストラするという暴挙をやったばかりです。

それよりも政府が津田梅子を選んだのには深いわけがあると思います。それは彼女が今で言えば小学校に上がったばかりの頃に日本初の女子留学生として米国に渡って、日米友好の礎となった人であることにあります。つまり政府が米国に拝礼するために彼女が採用されたと思うわけです。ちなみにこの最初の女子留学生5人はすべて幕府側(反政府勢力)の子女であり、見方によっては米国に差し出された人身御供とも受け取れます(2)。

新札のチープなフォントは米国が主導するユニバーサルデザインを採用したものだそうで、この点でも「漢字は捨てました」と脱中国を表明し、米国に媚びを売っているように受け取れます。結局このフォントのために全体の印象が非常に悪くなっていることは否めません。

旧札で米国に拝礼する役は野口英世が果たしていました。彼は多くの業績が実は間違いだったとして否定されている科学者で、日本に居た頃には窃盗や結婚詐欺を働いて本来なら塀の中にいる人物でもありました。しかしロックフェラー研究所に縁が深いということでお札に採用されたと思われます(3)。本来なら国家の顔になるような人物ではありません。新札で北里柴三郎が採用されたことは歓迎したいと思います。

ただ北里柴三郎はノーベル賞受賞者ではありません。それを考えると、日本人で初めてノーベル賞を授与された湯川秀樹が一度もお札になっていないというのは不思議です。これは戦時中に彼が原爆開発プロジェクトにほんの少しかかわったことで、米国の不興を買うことを政府がおそれているためだと思います(4)。彼が原子力発電所の稼働に慎重で政府と衝突したことが原因だという見方もあります。

参照

1)やぶにらみ生物論38: ハエ部屋
http://morph.way-nifty.com/grey/2016/10/post-152f.html

2)ウィキペディア: 津田梅子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%A5%E7%94%B0%E6%A2%85%E5%AD%90

3)ウィキペディア: 野口英世
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%8F%A3%E8%8B%B1%E4%B8%96

4)ウィキペディア: 湯川秀樹
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%AF%E5%B7%9D%E7%A7%80%E6%A8%B9







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2023年4月13日 (木)

ニューギニア食人種の歌

ニューギニアで第二次世界大戦後まで文明人と接触無く、旧石器時代と同じ暮らしをしていた人々が歌っていた曲を、西丸震哉氏が空で覚えて採譜した楽譜です。彼は第二次大戦後ひとりで現地に乗り込み、山奥に住む未開人(食人種)の部落に住み着き、彼らと一緒に生活しました。数人で歌う歌で、ソロパートと合唱パートがあります。ハモりもあります。

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彼らは夜になると数人で集まってたばこを吸ったり歌を歌って過ごしていたそうです。西丸さんは毎日満員電車で通勤していたので、その頃の日本より旧石器時代と同じニューギニアの奥地での生活の方が快適だと述べていました。

http://morph.way-nifty.com/grey/2023/03/post-3f5a24.html

私も千代田線で通勤していましたが、北千住の駅には大勢の押し屋というアルバイトが居て、ドアからはみ出した人々を中に押し込んでから発車するのが常でした。通勤時の混雑は現在の比ではありませんでした。

そのさらに前の学生の頃は祐天寺に住んでいましたが、東横線の祐天寺駅には押し屋がいなかったので、ドアが開くと数人が押し出されて再度乗り切れないまま発車することもありました。なので祐天寺近くに住んでいたのに、中目黒駅まで歩いて始発の地下鉄に乗って通学していました。

西丸震哉記念館

http://nishimarukan.com/

 

 

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2023年4月10日 (月)

続・生物学茶話207: われら魚族

始原的魚類がカンブリア紀(5億4200万年前~4億9000万年前)にすでに生息していたことははっきりしていて、その魚類こそが私たち脊椎動物のルーツです。カンブリア紀以前にどうだったか、魚類が始原的左右相称動物からどのように進化したか、ということは今でも謎に満ちている状態です。

魚類の中から陸に上がる者が出てきたのがデボン紀(4億1600万年前~3億6000万年前)ということもほぼ確実なので、カンブリア紀-オルドビス紀-シルル紀を通じて、私たちのご先祖様は魚類だけだったと考えられます。魚類と私たちを比べると、鰭が手足になったということと、鰓が肺になったということが第1に重要な違いと言えます。淡水中で生活するための浸透圧の調節を行うのは淡水魚が生まれた段階で準備されていましたし、陸上で卵をふ化させたり子宮で子供を育てたりするために尿をアンモニアから尿素・尿酸に変えるという準備は一部の魚類はもう試みていたと思われ、最終的には両生類を卒業するときに準備されました。これらが2番目に重要な違いと言えるでしょう。

それ以外の点では魚類と私たちは意外に似ています。ウィキペディアの硬骨魚類という項目を見ると、「近年の系統学や分岐分類学的立場からすると、硬骨魚類 (Osteichthyes) はある単系統群(クレード)に与えられた名称であり、哺乳類や鳥のような動物もすべて硬骨魚類に含まれる」という記述があってちょっと驚きます(1)。ウィキペディアの魚類という項目(2)に書かれてある分類表に準拠して記述したのが図207-1です。

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図207-1 脊椎動物の分類

図207-1を見ていておかしいと思われる方もいると思います。進化を基盤として分類した場合、四肢動物はどうしても綱より下の分類群になります(図207-1では下綱となっています)。では四肢動物の下位に位置づけられる両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類は当然目(order)でなければいけません。しかし学問の歴史の中でこれらは昔から綱(class)とされていて、それを変えると含まれる生物すべての分類を変更しなくてはならなくなり大混乱がおこるので、当面両生綱とか哺乳綱とかは変えないことになっているようです。しかしこれは学術的には明らかにおかしいわけで、いずれ整理が必要になると思います。

魚類は捕食者(プレデター)が現れ厳しい生存競争が行われるようになったカンブリア紀において、遊泳力に頼って生き延びました。節足動物も軟体動物も甲羅や貝殻などの防具を装備し、餌を捕獲する触手なども発達させる中で、魚類について言えば、おそまきながらオルドビス紀にはようやくうろこを持ち頭部に骨の甲羅を装備するアランダスピス、アストラスピス、サカンバスピスのようなタイプの種類が現れました(3~5、図207-2)。これらはヌタウナギやヤツメウナギと同じ無顎類ですが、うろこや甲羅を装備していた点が違います。顎ができるまえに頭蓋骨もどきの構造ができたということには注目すべきでしょう。おそらく顎というのは歯とセットでないとあまり意味がないと思われます。歯をつくるのが進化上難しかったのでオルドビス紀には有顎魚類が生まれなかったのでしょう。

ヤツメウナギやヌタウナギの祖先も含めてオルドビス紀の無顎魚類は胸びれを持っておらず、あまり器用な遊泳はできなかったと考えられています。複雑な海底地形を利用して隠れて行動する、砂に潜って夜間に行動するなどの生態で生き延びたのでしょう。歯がないので当然固い物を食べることはできず、泥などを吸い込んで濾過するというような食事をしていたとされています。三葉虫や貝類を食べることができなかったので、メジャーな生物にはなれませんでした。アランダスピスなどの魚類は化石も少なく、図207-1の分類表のどの部分に当てはまるのかわかりません。これからの研究を待ちたいと思います。

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図207-2 オルドビス紀の魚類

シルル紀の後半になって魚類は飛躍的な進化を遂げました。それを代表するのが棘魚類と板皮類です(6、7、図207-1)。顎や歯を持つことによって、彼らはそれまで海洋を支配していた節足動物(ウミサソリなど)や軟体動物(カメロケラスなど)に変わって、デボン紀には食物連鎖の頂点に立つことができました(図207-3)。彼らはまたそれぞれの生態に合わせて、発達した鰭を持っていて自由に遊泳できたと思われ、この点でも海洋の帝王としてふさわしく進化していました(6、7)。サイズも巨大なのが現れました。図207-3のイスクナカントゥスは2m、ダンクルオステウスは4mの体長を誇っていました。

板皮類のダンクルオステウス(図207-3)は口の先端でも4400ニュートン(440kg重)の力を発生できたようで、これは現代のホオジロザメを遙かに上回るそうです(8)。ダンクルオステウスの写真(筆者が撮影)をみればわかるように、彼らは歯や顎を持つだけでなく、まるで頭蓋骨ともいえるような骨で頭全体を覆っています。

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図207-3 棘魚類と板皮類

硬骨の主成分はコラーゲンとリン酸カルシウムであるのに対して、軟骨の主成分はコンドロイチン硫酸などの糖とタンパク質の複合体で、全くその成分は異なります。昔は無骨→軟骨→硬骨と進化してきたと考えられていましたが、実際には軟骨魚類が現れたとされているのはシルル紀後期で、それもうろこの破片しかみつかっておらず(9)、おそらく棘魚類や板皮類のあとから現れた生物だと思われます。彼らも硬い歯は持っているので、シルル紀にいったん硬骨を獲得した後、なんらかの都合で歯以外の硬骨を軟骨に置き換えて生き残った生物かもしれません。ウィキペディアでもそのような説が紹介されています(9、10)。実際デボン紀に繁栄した板皮類や棘魚類は絶滅し、軟骨魚類は生き残って現在の海でも繁栄しています。

歯が残るとはいえ軟骨は化石にならないので、化石から軟骨魚類の進化をたどるの難しいのですが、まともな軟骨魚類の化石で最も古い物はデボン紀前期の地層から発掘されたドリオダスだとされています(8、図207-4)。ドリオダスが棘魚類と現代のサメの両者の特徴を併せ持っていることがジョン・メイシーらによって報告されています(11)。デボン紀後期のクラドセラケ(12、図207-4)は最古のサメとして有名ですが、近年の研究によりクラドセラケはサメが所属する板鰓類ではなく、ギンザメが所属する全頭類に含まれるとされています(12、図207-1)。

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図207-4 デボン紀の軟骨魚類

私たち四肢動物と現存硬骨魚類の共通祖先は、棘魚類や板皮類と同じくシルル紀の後期に生まれたと考えられています。この共通祖先からおそらくデボン紀初期に肉鰭類と条鰭類が生まれます(図207-1)。高校の教科書では「硬骨魚類は,条鰭類と肉鰭類に分かれる。両者は,胸鰭の形が大きく違う。主要な魚類のほとんどが属する条鰭類では,放射骨 (平行に走る骨の束) で胸鰭と肩帯が関節している。これに対し肉鰭類では,胸鰭が一対の放射骨で肩帯と繋がっている。」と書かれています(13)。私たちは肉鰭類が進化した生物の一種なので、胸びれに相当する腕は扇子状ではなく棒状になっているというわけです。一般的には肉鰭類の鰭は筋肉質で分厚く、条鰭類の鰭は扇子状の細い骨が多数あって薄い膜でつながっていると考えてよいと思います。

シルル紀後期(4億2500万年前)の化石のなかに、Guiyu oneiros という肉鰭類と条鰭類の中間とみられる魚が存在します(14)。これをどのように分類すべきかというというのは議論があり、ウィキペディアでは一応肉鰭類としていますが(15)、絵には扇子状の胸びれが描かれてあります。

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図207-5 Guiyu oneiros

条鰭類も他の魚類と同様、シルル紀後期にルーツがあると考えられています(16)。現代のメジャーな魚類です。シルル紀後期の条鰭類の代表として、アンドレオレピスがあげられます(16、17、図207-6)。条鰭類の歴史は意外と謎で、例えば図207-1でポリプテルスやチョウザメ(サメではなく硬骨魚類)は真骨類より早く現れていることになっていますが、化石は中生代のものが多く、彼らがいつ現れたかがはっきりしません。ポリプテルスやチョウザメはその始原的な形態にもかかわらず、現代でも生きているのでいわゆる「生きた化石」と呼ばれています。

図207-6に2億5000万年前のポリプテルス、Fukangichthys longidorsalis の再現図をのせておきました。これはネイチャーの記事からの引用の引用です(18、19)。図207-7のポリプテルス・ビキールは19世紀の初頭に最初に発見された現存するポリプテルスで、鰭は肉鰭類的な部分もあり、顎の構造は魚類よりも四肢動物に似ているという特徴を持っていて、今でもナイル川流域などにみられます。四肢動物は肉鰭類から進化したわけですが、ポリプテルスも肺呼吸することができる生物で、進化の過程で陸上でも生活できるようなシステムを獲得しようとしていたわけです。

ポリプテルスは人気のある熱帯魚で家庭の水槽で飼育することも可能ですが、気をつけないといけないのは成長したときのそのサイズで、体長1メートルの魚を飼う水槽を設置すると家が潰れることも考えておかないといけません。

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図207-6 始原的条鰭類

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図207-7 ポリプテルス・ビキール

シーラカンスは遅くともデボン紀には生息していた魚類で、驚くべきことにその頃とほとんど同じ形態のラティメリアが発見されたことで有名です(20、図207-8)。南アフリカの Latimeria chalumnae とインドネシアの Latimeria menadoensis という2種が知られています。ジュラ紀や白亜紀に生きていた恐竜が発見されたとしても、シーラカンスはそれよりずっと古い時代の生物ですから、これが今でも生きているということはジュラシックパークより驚異的です。彼らは硬骨魚類のグループに分類されているにも関わらす、骨がほとんど軟骨でできているという非常にシルル紀前期以前の魚類の面影を残している点が際立った特徴です。

肉鰭類にもポリプテルスと同様に陸地をめざした魚類のグループ、デボン紀に出現した肺魚がいます(21、図207-8)。彼らはおそらく昔から沼地に棲んでいて、乾期に干上がっても生きていけるための肺を獲得した種が生き延びたグループだと考えられます。彼らも現代にまで祖先を残しており、昔東京タワーの1Fにあった水族館ですべての種を見ることができました(22)。展示している魚を買うこともできるというめずらしい水族館でしたが、2018年に廃館になったのは誠に残念です。ここでは私が当時撮影したプロトプテルス・エチオピクスの写真を載せておきます(図207-8)。

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図207-8 肉鰭類 シーラカンスと肺魚

革命的な進化は辺境から起こります。夏には干上がるような池や沼地の淡水環境に棲む魚類は、長い間七転八倒の生活をしていたのでしょうが、肺、夏眠、そして四肢を獲得することによって、両生類への道を歩むことになります。その過程にあるデボン紀の四肢動物を代表するのがアカントステガとイクチオステガです(23、24、図207-9)。ウィキペディアのポリプテルスの項目には「これらの特徴から、ポリプテルスは魚類と両生類に進化する分岐点にある動物と考えられている」という誤解を招く表現がありますが、もちろん四肢動物の直接の祖先は図207-1に示したとおり肉鰭類であることが定説であって、ポリプテルスのような条鰭類とは直接の関係はないとされています。

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図207-9 始原的四肢動物

昨日NHKの番組で海底9800メートルの魚類の映像を見せてもらいましたが(25)、彼らはまさしく現代の辺境生物で、使用済み核燃料処理施設が爆発して人類などが絶滅するようなことがあっても、彼らは生き延びて何億年後かには新しい豊かな生態系を生み出していくんだろうと思いました。

今回の記事を書くに当たってはウィキペディアに大変お世話になり、筆者の方々に深く感謝します。

参照

1)ウィキペディア:硬骨魚類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AC%E9%AA%A8%E9%AD%9A%E9%A1%9E

2)ウィキペディア:魚類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%9A%E9%A1%9E#%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%AD%A6%E4%BC%9A2018

3)ウィキペディア:アランダスピス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80%E3%82%B9%E3%83%94%E3%82%B9

4)ウィキペディア:アストラスピス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%94%E3%82%B9

5)ウィキペディア:サカンバスピス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%B9%E3%83%94%E3%82%B9

6)ウィキペディア:棘魚類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%98%E9%AD%9A%E9%A1%9E

7)ウィキペディア:板皮類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BF%E7%9A%AE%E9%A1%9E

8)土屋健 「サメ帝国の逆襲」文藝春秋社 2018年刊 p.65

9)ウィキペディア:軟骨魚綱
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%9F%E9%AA%A8%E9%AD%9A%E7%B6%B1

10)サメは「生きた化石」ではなかった? 定説覆す化石発見
https://www.afpbb.com/articles/-/3012896

11)サメの祖先に手掛かり Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2017.170708b
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v14/n7/%E3%82%B5%E3%83%A1%E3%81%AE%E7%A5%96%E5%85%88%E3%81%AB%E6%89%8B%E6%8E%9B%E3%81%8B%E3%82%8A/86844

12)ウィキペディア:クラドセラケ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%89%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%82%B1

13)理科総合B 魚類の進化
http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/KYO/Rika-B/htmls/pisces/index.html

14)Wikipedia: Guiyu oneiros
https://en.wikipedia.org/wiki/Guiyu_oneiros

15)Wikipedia: Sarcopterygii
https://en.wikipedia.org/wiki/Sarcopterygii

16)ウィキペディア:条鰭類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%A1%E9%B0%AD%E9%A1%9E

17)川崎悟司 古世界の住人 アンドレオレピス
https://paleontology.sakura.ne.jp/andoreorepisu.html

18)HUFFPOST ポリプテルス類の起源を紐解く
https://www.huffingtonpost.jp/entry/ancient-fish-alive-right-now_jp_5c5965b0e4b09bd6f91de81c

19)Sam Giles, Guang-Hui Xu, Thomas J. Near and Matt Friedman, Early members of‘living fossil’lineage imply later origin of modern ray-finned fishes., Nature vol.549, pp.265-268 (2017)
https://www.nature.com/articles/nature23654

20)ウィキペディア:ラティメリア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%A2

21)ウィキペディア:ハイギョ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%A7

22)渋めのダージリンはいかが 東京タワー水族館 その2
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/11/post_a3dc.html

23)ウィキペディア:アカントステガ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%AC

24)ウィキペディア:イクチオステガ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%AC

25)NHKWEB 日本人初 水深9801メートルの深海に到達 最深記録60年ぶり更新
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220829/k10013792961000.html

 

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2023年4月 7日 (金)

My favorites 16: ルーシー・トーマスとそのご家族

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写真はルーシーが14才でアルバムデビューしたときのジャケットだそうです。私はまだ聴いていません。Youtubeにアップされている妹のマーサや母親のルイーズとコラボしている作品にはまって、さらにソロも素晴らしいことを知りました。

妹のマーサの方がソプラノだと思いますが、曲によって、あるいは同じ曲でも高い方を歌うか低い方を歌うか互換性があるようです。ルーシーは声が美しいとかのびがあるとか、そういうのだけでなく、どう歌えば聴衆に伝わるかと言うことをよくよく考えて歌っているように思います。日本なまりのような英語、たとえば e のさかさまのようなところを a のような発音で歌うのもそのせいかな?

「ルーシーとマーサ」

You Raise Me Up
https://www.youtube.com/watch?v=dU00EuczOiA

The Climb
https://www.youtube.com/watch?v=482nqeAl6eU

「ルイーズとルーシーとマーサ」

Smile
https://www.youtube.com/watch?v=kNDP2-q9NsY&list=OLAK5uy_k8-x9igkO6tLsE7Wf7QcU5K90OW12n8Fw

「ルーシー」

All By Myself
https://www.youtube.com/watch?v=4Y1ThLEezys&list=OLAK5uy_k8-x9igkO6tLsE7Wf7QcU5K90OW12n8Fw&index=20

The way we were
https://www.youtube.com/watch?v=fduZDYKFl04&list=OLAK5uy_k8-x9igkO6tLsE7Wf7QcU5K90OW12n8Fw&index=7



 

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2023年4月 4日 (火)

検索エンジン 「DuckDuckGo」をおすすめ

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皆さんは普通PCまたはスマホで検索を行うときグーグルを利用すると思います。
私もずっとそうしてきたのですが、ここ何年かは「DuckDuckGo」という検索エンジンを使うことが多くなりました。

例えば「渋めのダージリン」+「サラ」をグーグルで検索すると1~2件しかヒットしませんが、「DuckDuckGo」で検索するとゾロゾロと大量にヒットします。サラを沙良に変えると、ピンポイントで沙良の記事にヒットします。

おそらくグーグルではいろいろな操作を行っていて、一部の人々の検索を効率化するために様々な抑制をかけているのではないかと思います。「DuckDuckGo」はグーグルのように誘導されることがなくきちんと愚直な検索が可能なので、そのメリットは大きいと思います。フェアーであることはグーグルにはない利点です。ある意味多くの発信者がグーグルにサイトの発見を妨害されているとも言えるわけで、ちょっぴり不愉快でもあります。

グーグルやDuckDuckGo以外にも、このサイトからサイト内部の記事を検索するには、サイドバーを一番下の方までスクロールすると小さな検索ウィンドウが出てきますので、そこで検索することも可能です。このエンジンは昔はひどかったのですが、改善されたようで現在は結構有効に使えます。


検索エンジン 「DuckDuckGo」 について
https://marketingnative.jp/what-is-duckduckgo/

「DuckDuckGo」のインストール
https://duckduckgo.com/

 

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2023年4月 3日 (月)

使用済み核燃料の再処理

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ラ・ア-グ再処理工場(フランス) ウィキペディアより

使用済み核燃料を再処理することはメリットもありますが、なにしろ原発とは比べものにならないくらい大量の放射性物質が排出されるのが問題です。例えば青森県六ヶ所村の再処理工場から放出を予定しているのは

クリブトン85(3.3x10の17乗)
トリチウム(1.9x10の15乗)
炭素14(5.2x10の14乗)
ヨウ素129(1.1x10の10乗)
ヨウ素131(1.7x10の10乗)
その他セシウム・プルトニウムなど多数

(単位:ベクレル/年)

とされています。想像を絶するとてつもない量です。当然自然に癌は増えます。これを本当にやろうとしているのですから正気の沙汰とは思えません。でもこれは平常運転の状態でこれだけ出るという話なのです。みんながタバコをやめたら癌は減るだろうといわれていましたが、癌は増え続けています。当然です。そしていったん事故が起これば、癌が増えるどころではありません。大げさでなく人類は絶滅の危機にさらされます。

 

[稼働中の核燃料再処理工場]
ラ・アーグ(フランス)
マヤーク(ロシア)
ピンステク、チャスマ(パキスタン)
トロンベイ、タラプール、カルパカム(インド)

[計画中]
蘭州(中国)
六ヶ所村(日本)

[廃止または廃止準備中]
セラフィールド(イングランド)
ウェストヴァレー(USA)
クラスノヤルスク(ロシア)
モル(ベルギー)
パッカースドルフ(ドイツ)
サンパウロ(ブラジル)
東海村(日本)
など

(ウィキペディア:再処理工場の記述による)

 

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映画「シェルブールの雨傘」で有名な英仏海峡に面したフランスの街シェルブール近郊に、ラ・アーグ核燃料再処理工場があります。1980年4月15日、ここであわや世界が終了という危機一髪の事故があったそうです。主電源と予備電源の両方が使えない状態になり、軍の施設にあった電源を車で運んでギリギリで間に合った結果大事に至りませんでした。

ここは雪の多い街で、冬だと車での電源輸送が間に合わなくて世界は終了していただろうと言われています。また電源が落ちたのが朝の作業前だったのが奇跡的幸運で、作業を始めてから起こっていたら、やはり世界は終了していただろうと言われています。この再処理施設は現在でも稼働しており、またいつ事故を起こすかわかりません。

具体的な事故の様子は下記の記事を参照してください。

ラ・アーグ再処理工場事故? 1980年人類絶滅寸前の事故があった
https://kitanoyamajirou.hatenablog.com/entry/20120204/1328307429

 

参照

滝澤行雄 六ヶ所再処理工場から放出される放射性物質の環境への影響
http://anshin-kagaku.news.coocan.jp/sub060426takisawa.html

東京新聞 もし東海再処理施設が攻撃されたら…廃液20%放出で死者40万人と試算 ウクライナで原発リスクが現実に
https://www.tokyo-np.co.jp/article/166319

報道されない「六ヶ所再処理工場」の恐ろしい実態
https://www.jca.apc.org/~runner/PDF/%E5%85%AD%E3%83%B6%E6%89%80.pdf

原子力資料情報室 とめよう!六ヶ所再処理工場
https://cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho

日弁連ライブラリー 核燃料サイクルの廃止と放射性廃棄物の後始末
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/organization/data/57th_keynote_report1_2.pdf

 

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2023年4月 1日 (土)

My favorites 15: Susanna Mälkki

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スザナ・メルッキ(Susanna Mälkki)はフィンランドのヘルシンキで1969年に生まれた指揮者で、ヘルシンキフィルの常任指揮者ですが、メット、ロスフィル(昨年まで主任客演指揮者)、ニューヨークフィル、ベルリンフィルなど欧米のほとんどの主要なオケは振っているようです。

彼女がYoutubeにアップしているブルックナー交響曲の演奏を聴いて驚きました。その柔らかい音色にもかかわらず、メリハリはきっちり、スケールは広大で、ある種別世界に連れて行ってくれます。テンポはゆっくりですが、細部が魅惑的なフレーズで満たされていて聴衆を飽きさせません。ライン川はゆったりと流れますが、ときには急流もあり、古城やローレライも見逃せません。メルッキのブルックナー演奏はそんな細部の美しさも堪能させてくれる丁寧さと心遣いにあふれています。

来年はブルックナー生誕200年ということで彼女も忙しいことでしょう。
さて都響は招聘に動いているのかな?

ブルックナー 交響曲第4番
https://www.youtube.com/watch?v=NNJNyHGP5jU

ブルックナー 交響曲第7番
https://www.youtube.com/watch?v=X_whXqKqk_U

ブルックナー 交響曲第9番
https://www.youtube.com/watch?v=2s1Z1JQc1eM&t=756s

オフィシャルウェブサイト
https://susannamalkki.com/

画像はウィキペディアより
https://en.wikipedia.org/wiki/Susanna_M%C3%A4lkki#/media/File:18.IX_-_Susanna_M%C3%A4lkki_(retouched).jpg

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2023年3月30日 (木)

サラの考察28:増えた脳細胞

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サラ「猫にしてみれば人間は不思議な生き物よ。起きたら着替え、出かけるときに着替え、帰宅したら着替え、入浴したら着替え、寝るときに着替えって忙しいわね」

私「その上脱いだら洗濯だからね」

サラ「全くエネルギーの無駄使いよね。お風呂というのもすごいエネルギーの無駄使いよ」

私「でも脳細胞はかなり猫より多いんだよ」

サラ「だいたい会社に行ったら、毎朝屋上で社長訓示、次に社歌斉唱なんて何なの?」

私「人間は猫と違って組織で生きる生物だからね。ボスに忠実に行動させるためのマウンティングをやるわけよ」

サラ「ボスがいるだけじゃなくて、人間社会はヒエラルキーをつくるというのが異常」

私「そう。株主→社長→取り巻き→中間管理職→社員という構成だね」

サラ「増えた脳細胞でそんなことをやっているなんて空しくない?」

私「そう言われればそうだけど、人間はかならずそうだとも言えないんだよ。第二次世界大戦の少し後まで、ニューギニアには文明人未接触の旧石器時代と同じ生活をしていた人々がいたんだけど、西丸震哉さんという人はその中に飛び込んで一緒に生活してみたんだ」

サラ「それで?」

私「彼らは焼き畑農業で、畑にイモを植えて生活していたんだけど、そこにはボスも中間管理職もいなくて宗教もなく、個人で農業をやる以外はほとんど猫と同じような生活だったようだよ。毎日夜になると猫会議みたいなのをやって、ちょっと猫と違うのはタバコを吸ったり、歌を歌うってことかな。あと野原を焼いて畑を作るときはみんなで協力していたみたいだ。もともとは増えた脳細胞はそういうことに使っていたようだよ」

サラ「それなら納得できるわね」

参照:

さらば文明人 その1
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/07/post_8a37.html

さらば文明人 その2
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/07/post_1c40_1.html

さらば文明人 その3
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/07/post_bfd3.html

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2023年3月27日 (月)

続・生物学茶話206 HOX遺伝子一覧

このあたりでHox遺伝子について復習しておこうと思います。前口動物、特にショウジョウバエの初期発生の基本については20世紀にクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトとエリック・ヴィーシャウスが解明してノーベル賞を受賞し、現在では高校の教科書にも記載されています。後口動物である私たち脊椎動物の体は一見すると体節などわかりませんが、レントゲンで背骨の写真を撮影するときちんと体節が存在することがわかります。神経の構成もその体節構造に従っています。

とはいえ脊椎動物における体節のでき方はショウジョウバエとはかなり異なっています。ショウジョウバエの場合、母親が未受精卵にmRNAの濃度勾配を残しており、bicoid mRNAが卵の前端に、nanos mRNAが後側に局在します。しかもこれらのmRNAはその場所に係留されていて、拡散しないようになっています(1)。これらが発現する情報をもとに、特定の位置にギャップ遺伝子→ペアルール遺伝子→セグメントポラリティー遺伝子が発現して体節の構造が形成されます。このあと各体節の特色を決めるホメオティック遺伝子(Hox遺伝子)群が各体節に発現し、それぞれのホメオティック遺伝子によって規定された実際の組織はリアライゼータ遺伝子などによって作られます(2-4)。

マウスの場合前後軸は始めから決まっているわけではなく、受精後4日目にDVE(distal visceral endoderm)細胞が決められ、この細胞が5~6日目に頭側に動くことによって前後軸が決定されるというメカニズムなので、ショウジョウバエとは異なります(5)。ただHox遺伝子によって各体節の特徴が決定されるという点は同じで、この遺伝子は前口動物(C.エレガンス、ショウジョウバエ)、後口動物(ナメクジウオ、マウス、ヒト)で保存されており、それぞれパラログの関係にあります(図206-1)。

図206-1をみるときに留意すべきは、ナメクジウオと脊椎動物の共通祖先が進化する過程で、脊椎動物のブランチにだけ2回全ゲノムの倍化が起こったので脊椎動物の遺伝子が4倍となり、増えたHox遺伝子はその多くがそれぞれの役割を持って生き残ったので、ヒトやマウスでは遺伝子数が多くなっています。ナメクジウオの場合、進化の過程でショウジョウバエの Abd-B 遺伝子のパラログがタンデムリピートを起こしたため、遺伝子の倍化が起こらなかったのにもかかわらず、比較的多数のHox遺伝子が生まれたと思われます(図206-1)。

体節のない線虫でもHox遺伝子は保存されていることから、Hox遺伝子は特に体節のような明確な区分がなくても生物の発生分化に関与することができるようです。

厳密には図206-1に示したクラスターに存在するホメオボックス遺伝子をHox遺伝子と呼び、その他の部位にあるホメオボックス遺伝子を非Hoxホメオボックス遺伝子とするわけですが、ホメオボックス遺伝子とHox遺伝子が同義語として使われる場合もあります(6)。ここではとりあえず狭義のホメオボックスについて述べていますが、特に区別しないことにします。

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図206-1 さまざまな動物のHox遺伝子

これらのHox遺伝子の産物は転写因子としての機能を持つタンパク質(ホメオティックタンパク質またはHoxタンパク質)であり、2つのαヘリックスが折れ曲がった状態でつながっている構造(ホメオドメイン)を持っています(図206-2)。ホメオドメインがDNAダブルヘリックスのメジャーグルーヴに、N末がマイナーグルーヴにフィットするようです(7)。Hoxタンパク質はリアライゼータ遺伝子などさまざまな遺伝子のエンハンサーに結合し、転写を制御します。例えば足の形成に関与する遺伝子を活性化し、眼の形成に関与する遺伝子を抑制するというような形で特定の体の部分の形成をサポートするわけです。

Hoxタンパク質の保存性は高く、前口動物であるショウジョウバエと後口動物であるマウスの対応する遺伝子を入れ替えても機能するそうです(6)。両者の祖先が分岐したのは6.7億年前と考えられているので、恐ろしいほどコンサーバティヴと言えます。Hoxタンパク質はTAATの配列に結合して機能するので、擬人的表現であることを恐れずに言えば、遺伝子がHoxタンパク質が存在するステージで発現したいと思えばエンハンサーにTAATという配列をつくるかあるいは持ってくれば良いわけで、それは進化のタイムスケールでは容易な変異です。

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図206-2 ホメオボックスタンパク質のDNAへの結合

図206-3は左右相称動物のさまざまなグループがどのようなHox遺伝子を持っているかを、レスリー・ピックが整理して示したものです(8)。似ても似つかないくらい遠い親戚の生物であっても、左右相称動物の共通祖先を持っている限り、それぞれ同じ色のパラローガスな関連遺伝子を保存的に持っていることが示されています。

脊椎動物はナメクジウオやウニの祖先と分岐した後、2回の全ゲノム重複というイベントを経験し、Hox遺伝子もいったん4倍になりましたが、同じ機能が重複していた遺伝子が淘汰されて図206-3のようになりました。その後私たちの祖先である肉鰭類(にくきるい)と条鰭類(じょうきるい)に分岐し、さらに条鰭類から真骨魚類が分岐してから3回目の全ゲノム重複が約3億年前に起こったので、現在の多くの魚類は哺乳類より多数のHox遺伝子を持つことになりました(9、10)。サメなどの軟骨魚類はこの3回目の全ゲノム重複は経験していません。真骨魚類においてもHoxD群の遺伝子は全ゲノム重複したにもかかわらず、ワンセットは完全に脱落しています(図206-3)。それでもこの図を見ると、ある意味真骨魚類の方が私たちより進化しているとも言えます。

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図206-3 左右相称動物のHox遺伝子

図206-1あるいは3に掲載されているHox遺伝子はホメオボックス関連遺伝子群の一部であり、その他のグループに属するTAAT配列をターゲットする遺伝子も多数あります。図206-4はもっともよく研究されているショウジョウバエのホメオボックス遺伝子を分類し、網羅したものです(11)。ここで ftz (フシタラズ)という遺伝子にあとで注目します。これはペアルール遺伝子として知られていますが、他の昆虫ではホメオボックス遺伝子としての働きがみられる場合もあります(8)。

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図206-4 FlyBase を元に網羅したショウジョウバエのホメオボックス遺伝子

レスリー・ピックらは図206-4に記載してある ftz について詳細に調査して、これがすべての節足動物に存在することを確認し、ftz はもともとはホメオボックス遺伝子であって、ある進化のステージでリジン-アルギニンーアラニン-リジン-リジンというプロダクトのアミノ酸配列を獲得し、これによってペアルール遺伝子としての機能を獲得したとしています。そのタイミングは完全変態する昆虫が現れたとき(Endopterygota 以降)のようです(図206-5)。ただし蜂(Hymenoptera) ではまだ完全に機能せず、甲虫(Coleoptera)・蝶(Lepidoptera)・ハエ(Diptera)などでは完全に機能しているとしています(図206-5)。

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図206-5 前口動物における ftz の進化

ショウジョウバエに比べると哺乳類での研究は遅れていますが、各Hox遺伝子を欠損するノックアウトマウスは製造されており、それぞれ表現型が報告されているので文献12に従って簡単にまとめておきました(12、図206-6)。脊椎の異常はとりあえず解剖すればすぐわかるので記載されていますが、神経の異常などの詳細はこれからの研究が必要でしょう。具体的にどのような形質異常なのかは、文献12のテーブル2にそれぞれのノックアウトマウスについての原著論文が引用されています。

しかしこれまでに得られた情報だけでも、Hox遺伝子が哺乳類の形態にも大きな影響を与えることは明らかです。

文献12にはHox遺伝子の変異が原因となるヒトの疾病についても、患部の写真なども含めて詳しい記述があるので、関心がある方は参照されることをおすすめします。

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図206-6 各Hox遺伝子をホモで欠損するノックアウトマウスの表現型

 

参照

1)東京医科歯科大学 個体の発生と分化Ⅱ - 発生と分化のしくみ
https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textlife/develop2.htm

2)脳科学辞典:ホメオボックス
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A1%E3%82%AA%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

3)Wikipedia: Hox gene
https://en.wikipedia.org/wiki/Hox_gene

4)ウィキペディア:形態形成
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%A2%E6%85%8B%E5%BD%A2%E6%88%90

5)大阪大学 浜田ラボ 高田勝吉
https://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/hamada/%E5%89%8D%E5%BE%8C.html

6)ウィキペディア ホメオティック遺伝子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A1%E3%82%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90

7)Wikipedia: Homeobox
https://en.wikipedia.org/wiki/Homeobox

8)Leslie Pick Hox genes, evo-devo, and the case of the ftz gene., Chromosoma., vol.125(3): pp.535–551.(2016) doi:10.1007/s00412-015-0553-6
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4877300/pdf/nihms-740608.pdf

9)沖縄科学技術大学院大学 プレスリリース
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/22387

10)Jun Inoue, Yukuto Sato, Robert Sinclair, and Mutsumi Nishida, Rapid genome reshaping by multiple-gene loss after whole-genome duplication in teleost fish suggested by mathematical modeling., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.112 (48) pp.14918-14923 (2015)
https://doi.org/10.1073/pnas.1507669112
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1507669112

11)FlyBase: https://flybase.org/reports/FBgg0000744.html

12)Shane C. Quinonez, and Jeffrey W. Innis, Human HOX gene disorders., Molecular Genetics and Metabolism vol.111 pp.4-15 (2014)
http://dx.doi.org/10.1016/j.ymgme.2013.10.012
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24239177/

 

 

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2023年3月26日 (日)

My favorites 14: Albinoni オーボエ協奏曲 Op.9-2

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トマゾ・アルビノーニは17~18世紀に活躍したヴェネチアの作曲家です。ヴェネチアは英語名はベニスで、シェークスピアの「ベニスの商人」やヴィスコンティの「ベニスに死す」で有名な街です。アルビノーニの作品で一番有名なのはアルビノーニのアダージョですが、これは第二次世界大戦後に作曲されたジャゾットの偽作で、アルビノーニとは関係がありません。アルビノーニは50曲くらいのオペラを作曲して結構売れっ子の作曲家だったようですが、その楽譜がひとつも残っていないというのは残念です。ただ数曲のアリアの楽譜は残っていてYoutubeでも聴けます。

彼が生まれた頃のヴェネチアはひとつの都市ではなく、アドリア海周辺に広い領土を持つヴェネチア共和国として大いに繁栄していました。アルビノーニ家も実業家でお金持ちだったようです。当時のヴェネチアではそんなお金持ちが妾を持って子供を産ませることも珍しくなく、そうしてうまれた非嫡子はしばしば修道院に放置されたりすることがあったようです。アルビノーニはそうした修道院の仕事がない女子にヴァイオリンなどの楽器を演奏させ、生活の資とさせるために多くの器楽曲を作曲して提供しました。こうしてチャリティーで作った器楽曲は修道院に保存されて、ほとんどが現在まで残っています。バッハはアルビノーニの作品が好きだったようです。

そんな中でも最高傑作とされるのが作品9-2のオーボエ協奏曲で、実にチャーミングな作品です。このYoutubeの演奏(アダージョ)は、いかにも近隣の音楽好きが集まって教会で楽しんでいる感じです。オーボエは若手の名演奏家(Amy Roberts)を呼んでいます。結構オーボエ奏者が勝手に作曲して演奏していますが、まあそんなものなのでしょう。そんなに違和感はないです。

https://www.youtube.com/watch?v=Z9xfJDftEUA

私が聴いているCDはブダペスト・ストリングスの演奏で、この動画よりも洗練された感じです(Capriccio 67 126/29)。

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アルビノーニの楽譜が残っていた数少ないオペラアリアの中の1曲です。

Albinoni - Opera «L'incostanza schernita» Aria 'Quel sembiante e quel bel volto' | Ana Quintans

https://www.youtube.com/watch?v=VJRdT1spgvM

 

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2023年3月25日 (土)

異常気象と曇天の桜 2023

今年の北総の桜開花は1週間以上早いと思います。こんなことは私が住み着いてから20年間はなかったことで、異常気象に不安が募ります。お天気はよくありませんが、明日にも満開になりそうです。やはり青空がバックでないと桜も映えませんが、毎年この季節にはアップしているので。

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Sakura2

Sakura3

Sakura4

 

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2023年3月23日 (木)

理研 リストラを強行

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(from wikipedia)

大学の同窓会をやると、一番貧乏なのは理系で博士号を取得した者です。まあ出席する場会はいい方で、金銭感覚にずれがあるので出てこない人も多いと思います。

理研(理化学研究所)は10年を超える有期雇用の研究者に無期雇用転換の権利を得させないために、大規模なリストラを行うことを決め、この結果自主退職して逃げ出した研究者も数多くいるそうです。中には外国に就職した人もいて、理研でプロジェクトを組むということは重要で将来性があると認められた研究ですから、そういうプロジェクトを担っていた人たちが海外に流出するということが日本の科学技術の破滅であることは明らかです。

研究所に残ればいろいろといじめられて、結局生首を切れられるという結果が待っています。欧米と違って日本ではやめた後なかなか行き先がみつかりません。小泉政権が大学への文科省の介入を強めてから、大学は役人の天下りを受け入れるようになって(そりゃ監督官庁に媚びを売りたいでしょう)、解雇された研究者と文科省の役人が大学のポストをめぐって競合するというような事態にもなっています。

政府は雇用を非正規化すればお金を使わずに成果を得られると考えるわけですが、ノーベル賞量産の世代はそんな非正規とは縁遠い終身雇用の世界で研究していた人々です。役人は机上のプランで仕事を進めますが、実態を知らないので結果は思い通り行きません。現状の日本では非正規が増えれば増えるほど研究所の雰囲気は悪くなり、成果はしぼんでいきます。もう中国はおろか韓国の後塵を拝することになっています。ロケット技術は北朝鮮にも劣ります。

政府は開発途上国はじめいろんなところに大盤振る舞いしている上に、ワクチンに至っては数億本を廃棄することになりそうです。にもかかわらずたった600人ほどの理研研究者を維持できないというのが日本の実態なのです。科学=文明であるということを国会議員が認識していないということがこの問題の遠因なのですが、さらに言えば人類に降りかかる様々な困った問題を解決する最終手段はサイエンスであるということを、市民が理解することも大切です。

 

参照

Mass layoff looms for Japanese researchers
Thousands could see their jobs axed in the wake of labor law adopted a decade ago
Science 8 JULY 2022 • VOL 377 ISSUE 6602
https://www.science.org/doi/pdf/10.1126/science.add803

東京新聞 ワクチン使いきれずに大量廃棄 国の調達や配分に疑問の声も 参院選で論戦みられず
こちら1

理化学研究所労働組合
こちら2

理研非正規雇用問題解決 ネットワーク
こちら3

東洋経済 理研、雇い止め批判の回避狙うカラクリの実態
こちら4

中日新聞 研究者6000人雇い止めの危機 「無期雇用へ転換」5割未満
こちら5

赤旗 理研雇い止め プロジェクト途中でも
こちら6

赤旗 研究者の使い捨てを許すな
こちら7

管理人追加コメント:私は共産党はサイエンスに関してはプラグマティズム=実用主義だと理解していたので、赤旗が基礎研究者の立場を支持していることには驚きを隠せません。これが単に労組の関係からでないことを願いたいと思います。

 

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2023年3月21日 (火)

都響-大野 ドビュッシー「海」@サントリーホール2023/3/21

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例年より1週間も早い桜の開花で、この異常気象には恐怖感がありますが、ともあれ今日はサントリーホールにでかけました。桜坂の桜は満開にはまだ1~2日というところでした。

今日はいかにもマエストロ大野のお気に入りプログラムという感じです。コンマスはボス矢部、サイドはマキロンです。糸永さんも腕の負傷が癒えたようで元気そうです。最近の都響は27・28日のリゲティのチケットを売るために涙ぐましいほど必死のプロモーションをやっていて、今日の演奏会はそのあおりを食ったせいか空席が結構ありました。

バルトークのピアノ協奏曲第1番は異様な楽器の並びに驚きました。ピアノ奏者の対面にティンパニ、後ろが小太鼓など各種打楽器。つまりステージの最前部にピアノと打楽器がずらりとならぶ感じです。ティンパニの後ろが2Vn。1Vnの後ろにコントラバスです。曲を聴けばその意味がわかりました。これはピアノとティンパニの2重協奏曲のような曲でした。

バルトークの音楽はあまりピンとこない曲が多いのですが、この曲はとてもわかりやすく結構インパクトありました。ソリストのバヴゼさん、ティンアパニの久一さんの丁々発止のプレイはすごいのもがありました。それとヤマハのピアノがこの曲には非常にマッチしています。満場の拍手のあと、アンコールはなんとバヴゼ&大野の連弾とは恐れ入りました。マエストロ超ごきげんの巻です。

終わった後の席替えが大変で、スタッフ総出でも時間をはみ出しそうになるくらいの大作業のようでした。後半のラヴェルとドビュッシーもとても繊細できれいな素晴らしい演奏でした。特にエキストラのオーボエの方の演奏が印象に残りました(後日調べたら神農広樹氏-新日フィルだということがわかりました) 。

今日のプログラムや演奏に文句はないのですが、私的にはやはりマーラーやブラームスを聴いた後のような充足感はなく、ラヴェル、ドビュッシー、プロコフィエフなどのプログラムの時はいつも考えさせられます。

 

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2023年3月20日 (月)

フェンス(WOWOWオリジナルドラマ)

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私は猫を飼っているので旅行はほとんどせず、沖縄に行ったことはありません。まあそういうリッチな身分でもないのですが・・・とはいっても青い海に珊瑚礁、美ら海水族館にはあこがれます。

日本のテレビ局はいろんなドラマをつくりますが、現在の沖縄の空気を感じさせてくれるようなものはとても少ないと思います。WOWOWのオリジナルドラマ(連ドラ)「フェンス」は沖縄を肌で感じさせてくれるような希少な作品だと思います。昨日(日曜日)第1話を放映しました。WOWOWは結構リピートしてくれますしアーカイヴ配信もやっているので、まだまだ大丈夫でしょう。

https://www.wowow.co.jp/drama/original/fence/

WOWOWは会員制ですし、報道やワイドショーはやっていないので、放送局や番組への政治的・経済的な圧力が少なく、キャストの俳優さんたちものびのびと実力を発揮していると思います。松本佳奈という監督さんが指揮しているようですが、レイプ犯罪ものを女性監督がやるとくさくなりがちなので、そこは気をつけてやってほしいと思います。映画やライブをそのまま流すだけでなく、オリジナルドラマを作成するというのは放送局の心意気が感じられて素晴らしいですね。

沖縄は日本が戦後70年以上経過してもまだ米軍の占領下にあるということが露骨にわかる場所でもあり、このような状況をいつまで経っても改善できない政府しか持てなかったことは日本人として情けないと思います。安全保障がどうのこうのというのは独立したあとの話でしょう。オカシオ=コルテスが米国大統領になったときには絶好のチャンスなので、必ず独立できるように今から準備しておくよう政府にお願いしたい。

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この地図はウィキメディアコモンズと同様な扱いだそうですが、著作権は内閣府にあります。

この着色した広大な土地に日本政府の支配が及んでいません。本土にもこのような場所は多くありますが、特に空は広大な範囲が米国の支配下にあります。

Repeat:

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2023年3月18日 (土)

ミーナ 一周忌

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縞三毛ミーナを喪失してから1年になります。

サラと共に冥福を祈ります。

 

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2023年3月16日 (木)

続・生物学茶話205 脳神経の基本構成

ひとつ疑問に思っていることがあります。それは中枢神経系についてですが、果たして最初に脊髄があってその前端が膨らんで脳になったのでしょうか? ウルバイラテリア(始原的左右相称動物)は移動手段を獲得する前か同時期に、口から肛門へと通じる消化管・酸素を取り込むための鰓と付随する筋肉・口器とそれを動かすための筋肉を持ったに違いありません。そのようなツールを得て、はじめて藻類を探して食べるという生活が成立します。

ならば口器や鰓を動かすための統合的な神経システムが体の前部にできなければいけません。後方の神経系(始原脊髄)は主に移動手段を活用するためにやや遅れて整備された可能性があります。その後ランダムに動いていたのでは間に合わず、エサを探してみつけなければいけないような状況に変わる中で、視覚とか嗅覚とかにかかわる臓器が発達し、始原脳の前側に新しい脳(中脳・間脳・後脳)が形成されたと思われます。餌を見つけることと、その方向に動くということは連動してなければいけないので、進化した新しい脳と移動手段を制御する脳は協調して活動する必要があります。

このような考え方に立てば、円口類と魚類、そして私たち哺乳類の末梢神経系のなかで採餌や呼吸にかかわる枢要な末梢神経の脳への出入り口がほぼ同じであっても不思議ではありません。円口類と魚類が分岐したのはエディアカラ紀末とされているので(1、2)、菱脳(橋+延髄)に出入りする末梢神経系のシステムはその頃までに確立し、その後円口類と魚類に引き継がれ、さらに私たちまでマイナーチェンジしながら引き継がれてきたわけです。

システムの基本構成は図205-1のようなものです。基本構成はできてからほぼ2億年の間おそらく安定した形で保持されてきましたが、両生類が肺呼吸を開始し、舌を使った食事をはじめたことで少し複雑になりました。さらに私たちも含めて音声でコミュニケーションをとるようになったのでそれをコントロールする神経が必要になりました。これらがマイナーチェンジの要因です(図205-1)。いずれにしても、V、VⅡ、IX、Xの脳神経は始原的であり、保存的であるといえるでしょう。

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図205-1 脊椎動物が採餌と呼吸に使う枢要な脳神経

菱脳から伸びる神経に直結する始原的な組織は鰓弓と呼ばれるもので、脊索動物に特徴的な呼吸・採餌のシステムと深い関係があります。クラゲは体全体を動かして水管の海水を動かすことによって呼吸します。しかしもともとはそのような活発な全身運動をしないで、ポリプ的な海底での生活を選んだ私たち脊索動物系グループの祖先は、消化管に穴を開けて出口に筋肉を配置し、ポンプ的な動きで水流を作り出すという方式を開発しました。穴から水を強制排出すると消化管は陰圧になり、口から水を取り込むことができます。同時にエサを取り込むこともできて、呼吸と採餌が容易になります。

ヒトの解剖学では、ヒトは鰓を持たないため鰓弓は咽頭弓と呼ばれるのが普通です。鰓弓はもともとは6つあったのですが5番目が退化しているので、1~4と6の5つになります(3、4、図205-2 脊椎動物胎児の菱脳)。

菱脳(rhombencephalon)はHox遺伝子の発現などによって r1-r8 に領域がわけられていますが、各末梢神経(脳神経)はコントロールする組織ごとに同じ領域に入出力が行われます。図205-2では左が入力、右が出力としていますが、これは便宜的な表記で実際には複雑です。菱脳最前部の r1 は特別な領域で、ここにはHox遺伝子が発現していません。この領域が始原脳(橋+延髄)と進化脳(中脳・間脳・終脳)の境界となります。円口類より前から存在するナメクジウオ(頭索動物)の中枢神経系においてもある部分より前ではHoxの発現が見られないので(5、6)、視覚や嗅覚の情報を処理するためのHoxフリーな新しいタイプの脳(進化脳)のプロトタイプは、頭索動物が出現した時点ですでにできていると推察されます。

図205-2の脊椎動物における末梢神経系の標準的な出入りの状況が、ヤツメウナギの末梢神経系の出入り(7)と比較しても非常に類似しているのには驚きます。この始原脳の構造がエディアカラ紀から保存されてきたことがよくわかります。舌下神経はここでは省略されています。

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図205-2 脊椎動物の菱脳(橋+延髄)に接続する神経

哺乳類の脳神経は12対あり、I~IVは中脳より前の進化脳に接続し、V~XとXⅡは始原脳(菱脳あるいは橋・延髄)に接続しています。副神経XIは脊髄に接続している部分も多いことから脳神経と言えるかどうか微妙です(8、図205-3)。

図205-3に示したように、中脳より前に出入り口を持つ脳神経はすべて視覚または嗅覚に関連したものです。しかし始原脳から出入りする神経にも視覚に関係する外転神経があり、これは眼球の向きを制御しています。これは始原的生物が触覚の次に視覚を獲得したことを示唆しています。三叉神経はメジャーな太い脳神経ですが、これは主に触覚を担当する神経で、進化上最も古いグループの脳神経だと考えられます。この他平衡感覚を担当する内耳神経や呼吸器・消化器を担当する迷走神経なども始原的な脳神経でしょう。

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図205-3 哺乳類の脳神経

ヒトの脳でもこのような脳神経の基本配置は保存されており、図205-4のようになっています(9)。この図では嗅神経は書いてありませんが、図には描かれていない前部に接続点があります。ただヒトの場合嗅覚が退化しているので、嗅神経も退化して細くなっています。滑車神経以外はすべての脳神経は腹側で脳に接続しています。

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図205-4 ヒトの脳と脳神経

図205-5(10)は軟骨魚類であるイエロースティングレイ(エイの仲間)の脳ですが、このようにヒトとは似ても似つかない生物においても、脳神経の接続点はほぼ一致しています。終脳は嗅覚中心の情報処理を担っていると思われますが、ヒトと同様非常に巨大になっています。脳神経の中でも嗅神経が最大の太さになっています。一般にサメやエイの仲間は嗅覚が発達しています。延髄と同じくらいの太さの嗅神経を持つものもいるようです(11)。このサメの終脳(大脳)も巨大です。

もうひとつ驚いたのはイエロースティグレイの小脳の巨大さです。しかも明らかに分節していて3つのパーツ(ARc:anterior rostal cerebellum, ACc:anterior caudal cerebellum, Pc:posterior cerebellum)に分かれています(図205-5)。そして奇妙なことに ACc は左右相称ではありません。これは哺乳類の小脳より発達している可能性があり、興味深い研究対象かもしれません(10)。

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図205-5 イエロースティングレイ(エイの一種)の脳と脳神経系

Cranial Nerves: I-Olfactory, II-Optic, III-Oculomotor, IV-Trochlear, V-Trigeminal, VI-Abducens, VII-Facial, VIII-Auditory, IX-Glossopharyngeal, X-Vagus. Major Topography: ACc-Anterior caudal cerebellum, ARc-Anterior rostral cerebellum, CE-Cerebrum, H-Hypophysis, I-Inferior lobes of infundibulum, MO-Medulla oblongata, OL-Olfactory lobe, OpL-Optic Lobe, Pc-Posterior cerebellum.


参照

1)続・生物学茶話195:円口類の源流 図1
http://morph.way-nifty.com/grey/2022/11/post-1f4cf6.html

2)Tetsuto Miyashita, Michael I. Coates, Robert Farrar, Peter Larson, Phillip L. Manning, Roy A. Wogelius, Nicholas P. Edwards, Jennifer Anne, Uwe Bergmann, Richard Palmer, and Philip J. Currie, Hagfish from the Cretaceous Tethys Sea and areconciliation of the morphological?molecularconflict in early vertebrate phylogeny., Proc Natl Acad Sci USA vol.116, no.6, pp.2146-2151 (2019).
https://www.pnas.org/doi/suppl/10.1073/pnas.1814794116

3)ウィキペディア:咽頭弓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%92%BD%E9%A0%AD%E5%BC%93

4)Shun Li and Fan Wang, Vertebrate Evolution Conserves Hindbrain Circuits despite Diverse Feeding and Breathing Modes., eNeuro vol.8(2), pp.1-15 (2021)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33707205/

5)ピーター・ホランド 形の進化とゲノムの変化―ナメクジウオが教えてくれること
季刊「生命誌」23号
https://www.brh.co.jp/publication/journal/023/iv_1

6)続・生物学茶話202:脳の起源をめぐって
http://morph.way-nifty.com/grey/2023/02/post-c61096.html

7)続・生物学茶話204 脳の部域化
http://morph.way-nifty.com/grey/2023/03/post-abc72d.html

8)脳科学辞典:脳神経
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C

9)Nurselabs: Nervous system anatomy and physiology
https://nurseslabs.com/nervous-system/

10)Spieler, Richard & Fahy, Daniel & Sherman, Robin & Sulikowski, James & Quinn, T., The Yellow Stingray, Urobatis jamaicensis (Chondrichthyes: Urotrygonidae): a synoptic review. Caribbean Journal of Science. vol.47, pp.67-97 (2013)
https://www.researchgate.net/publication/290976197_The_Yellow_Stingray_Urobatis_jamaicensis_Chondrichthyes_Urotrygonidae_a_synoptic_review

11)Go! Joppari, サメの脳
https://jopparika.exblog.jp/10910039/

 

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2023年3月13日 (月)

玄侑宗久著 般若心経

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この本の著者 玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)氏は臨済宗妙心寺派の指導的地位にある高僧であると同時に、新潟薬科大学の客員教授であり、小説家でもあるという変わり種です。

そういうスタンスの人なので、たとえば同じ花でも人が見る場合と鳥が見る場合とでは全く異なるので、絶対的認識というものは存在しないという科学的な説明をします(般若心経では色即是空・空即是色)」。そして量子論の粒子と波動の二重性をしばしば引用し、人間の認識の無意味を指摘して般若心経の正しさを強調しています。

また事物は刻々と変化しているのである時点における認識には意味がないとし、私たちが宇宙の一部であり、一体であることを実感することによって解脱できるというのが臨済宗の考え方のようです。不思議なのは著者が科学的認識の意義を否定しているにもかかわらず、教義の正しさを証明するために科学の成果を引用したり、自ら理系大学の教師をしていることです。

般若心経の最大の問題点は不生不滅と書いてある点で、天文学者のコンセンサスとして138億年前に宇宙はビッグバンによって誕生したことになっているので、これは決定的な矛盾点です。著者はこの点には言及していません。ローマ教皇はビッグバンを認めているそうです。

とはいえ釈迦は紀元前の哲学者としては、古代ギリシャの哲学者たちを凌駕するような偉大な人物だったと思います。不増不減というのは質量保存の法則を示唆しているように思いますし、認識の相対性というのは視覚についていえば、前述のように鳥、昆虫、人間、マウスみんな目の構造は違っていて色彩を認識できるスペクトラムも違うので、当然正しいわけです。聴覚や嗅覚も同じく相対的なものです。釈迦はソクラテスと同じく著書を残さなかったのが残念です。

 

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2023年3月11日 (土)

3.11

また3.11がやってきました。2011年3月11日にはもちろんこのブログは存在していました。当時の記事を読み返すと恐怖が蘇ってきます。あらためて災害で亡くなった方々のご冥福をお祈りします。

当時私はイオンモール3Fの本屋さんにいて、買った本を持って一万円札をレジ係に渡したところでした。そこでものすごい揺れが来たので、レジ係が必死で「どうしますか」と言うので、お札を引き取って本をカウンターに置き、その場にしゃがみ込みました。

その後私は不可解な行動をとります。どうしてそのような行動をとったのか全く説明できません。ショックを受けると理性的な行動ができないということだけはわかりました。私は猛烈な揺れの中を這いつくばりながら、なんと非常に危険な3Fブリッジを渡って隣の映画館のビルに移動したのです。映画館はなんと水浸しで(消火用の貯水プールが破損して天井から水が流れたようです)、滝のようになっている止まったエスカレーターを歩いて降りていきました。なんとか外に出ると、ヘヤーカット途中で逃げ出した人が何人か居たのを覚えています。

家に帰るとメチャクチャで、特に食器棚が悲惨な状態でした。翌日イオンに行くと棚は空っぽで、これからどうやって生活していこうかと呆然としました。ペットショップに行くと閉まっていていつ再開するのかわかりません。ガスと電話は止まりました。ガソリンスタンドを見に行くと、車で周辺まであふれていてとても入れられる状況ではありませんでした。しかもなんと原発がメルトダウンし始めているというではありませんか。

私は車のガソリンが静岡くらいまではありそうだったので、とりあえず猫たちを車に積んで神戸に疎開することにしました。幸い静岡でガソリンを継ぎ足すことができたので、無事疎開させ、私だけ仕事を済ませるために、新幹線でとんぼ返りしました。当時の写真を再掲します。そのうち本当に原発がメルトダウンしたので、私も疎開しました。

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3.11の翌日 イオンの食料品売り場 棚には何もない

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車で移動中のサラとミーナ

後日原発に関する本を数冊みっちり読んで、私は菅直人はやるべきことはほとんどやったという確信を得ました。東電は御用学者を使ってマスコミ操作をしたり、海江田大臣をとりこむなど、あらゆる手段を使って原発の全廃を阻止しようとしました。このブログにも東電の関係者とおぼしき人からコメントがついたりとかもありました。彼らは現場と直結する通信手段(テレビ電話)を持ちながら、政権にはブラインドにしていたのは許しがたいことです。このことは菅直人が直接本社に乗り込むまで露見しませんでした。私は現在でも東電という会社が言うことは信用していません。

 

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2023年3月10日 (金)

和田-都響 「皇帝」と「運命」@池袋芸劇2023/03/09

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和田一樹というマエストロの名前はごく最近まで知らなくて、都響-ラジオ体操第一のMVが初めての出会いでした(1)。今夜は都響の演奏が格安で聴ける特別な演奏会で、これを聴かない手はありません。コンマスは山本さん、サイドはゆづき。偉そうなエキストラの方がフルートの席に(誰だか知らない)。あの有名なリュックのおじいさんが開演直前になんと2列目に着席(いつもは1列目)。

ソリストの小山さんはさすがに貫禄の「皇帝」。私は田部ちゃんの「皇帝」が好きなのですが(特に弱音部)、何も申し上げることはございません。生まれて初めてプロ演奏家の「エリーゼのために」(アンコール)を聴いてさらに感動しました。

マエストロ和田の指揮は強靱な弾力で貫かれていて、「運命」はすばらしくグルーヴする演奏でした。都響がここまで乗りに乗って演奏するのを久しぶりで聴いた気がします。山本-和田の相性は抜群です。

都響のホームでもほとんどプロモーションしてないし、フライヤーも和田さんのサイトで初めて見たくらいでした(これ自作で、実はフライヤー自体がなかったのかもしれません)。いつもはスタッフが公式録画しているのですがそれもなし。でも広い芸劇はお客さんで一杯(WBCなんてどうでもいい)。すばらしい演奏会でストレス解消の一夜でした。いやー、またマエストロ和田-山本しげさんの組み合わせで演奏を聴きたい。シューベルトのグレート交響曲を希望します。

余談ですが、蔭井さん(1Vn)の眼の良さには驚きます。3.0くらいあるのではないでしょうか、それとも遠視? 普通の人の倍くらいの距離にスコアを置きます。隣の奏者とも位置がはっきりずれています。これでは最後列でしか弾けないのでは。

1)https://www.youtube.com/watch?v=az_109-rMAo

 

 

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2023年3月 7日 (火)

モーニングムーン(浜本沙良)

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ウォークマンで浜本沙良の「モーニングムーン」を聴きながら、毎朝駅までの道を歩いていたことがありました。この曲を作った有賀啓雄(ありがのぶお)氏が2月27日に亡くなったそうです。ご冥福をお祈りします。

「モーニングムーン」はパフというアルバムに収録されています(名曲満載)。

Sara Hamamoto (浜本沙良) - Puff (1994)
https://www.youtube.com/watch?v=Lw8jIUVbLOI

このCD、今でも販売されているのだろうかとアマゾンを見たら、あるにはありましたが9000円台の価格でした🎵

Puff

ちなみに、うちのサラは浜本沙良さんのお名前を拝借させていただいたものです。

 

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2023年3月 5日 (日)

グラスバーグ-都響 ペトルーシュカ@池袋芸劇2023/3/6

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意外に寒い日。キルティングしまってなくて正解でした。今日は池袋芸劇で都響C定期です。コンマスの山本さんは赤に金ラメのネクタイで気合いが入っていると解釈しました。サイドはマキロン。指揮者はベン・グラスバーグで弱冠29才の若手。一昨年のプログラム紹介パンフレットで、唯一音楽監督からの紹介記事がなかった指揮者で、情報もなかったのでしょう。今日は難曲が多くて心なしかオケメンも緊張気味な感じがしました。

グラスバーグの指揮は立派なもので、すべての曲できちんと楽しませてくれました。ただステージの上で行き来するごとに小走りになるのはせっかちな小者の感じがして改めた方がいいと思いますね。私は特に初めて聴くリャードフの曲が気に入りました。多分メロディを書く能力が低いのだと思いますが、それでもこういう作風なら作曲家としていい線いけるんだということなのでしょう。吸い込まれる曲です。リャードフの他の曲も聴いてみたくなりました。

ペトルーシュカはもちろんピアノの長尾さんも含めて都響の天才奏者たちが大活躍で、すばらしい演奏でした(オーボエトップはエキストラの方でしたが)。ただロトの時のような手に汗握るほどの興奮は感じませんでしたね。ソリスト(チェロ)のドルプレールはやわらかくて暖かいチェロなんですが、少し音量が足りないかな? 8日に朝日ホールでリサイタルをやるそうなので、いける人はそちらの方がベストかもしれません。

帰りに日暮里の駅でパンを買ったのですが、1個300円くらいでびっくりしました。

 

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2023年3月 4日 (土)

続・生物学茶話204 脳の部域化

ウィルヘルム・ヒス(1831~1904 図204-1)は19世紀に活躍した偉大な神経発生学者ですが、リンパシステムが閉鎖系であることを示したり、科学的な復顔術をはじめたりしたことでも有名です。彼は1865年に中胚葉由来の内皮細胞を発見し endothelia と命名して表皮 (epithelia) と区別しました。彼はまた同じ頃末梢神経が外胚葉からできることや、神経堤という組織が存在することを発見しました。これは彼が神経発生学の父とよばれても不思議でない偉大な業績です。

ヒスはそれまでの組織切片を作る技術に限界を感じ、組織をアルコールで脱水し、ラベンダーオイルで透徹して、パラフィンワックスに埋めるという新しい技術を開発し、さらにそうして作成したブロックを薄切するミクロトームを1870年までに設計しました(1、2、図204-1)。このような技術は基本的に現代でも継承されており、組織学の基本であり続けています。つまりヒスは組織学の父でもあるわけです。

ヒスは地表が力を受けて褶曲し山ができることのアナロジーで、胚において細胞分裂の頻度が場所によって異なることによって力が発生し、表層が褶曲するというメカニカルセオリーを考え、ハーゲンバッハ(物理学者)の助力も得て、円形の胚が楕円形になるという計算も行いました(2)。彼は種による形の違いは位置による増殖速度の違いによると考えていたので、ダーウィニズムには関心が無かったようです。脳の部域化というのは、まさしく彼の理論が実現された結果のようにもみえます。

彼は1875年に「Our Bodily Form」という本を出版しましたが、これは発生現象を物理学(力学)や化学の論理で解釈しようという観点で書かれているそうです(私は未読)。この本のフルタイトルは「Our Bodily Form and the Physiological Problem of its Origin: Letters to a Natural Scientist Friend」というもので a Natural Scientist Friend というのは、あのDNAの発見者であるフリードリッヒ・ミーシャーで、彼はヒスの甥です。ただダーウィンの信奉者には不評で、エルンスト・ヘッケルはせっかく進呈された本を返送したそうで、二人は険悪な関係になったそうです(2)。ラヴィッツは「none of the other outstanding anatomists of the nineteenth century was treated with such hostility – almost hatred – as Wilhelm His」という記述を残しているそうです(2)。今から考えてみるとヒスの理論とダーウィニズムには何ら矛盾はないので、この争いにはいまいちピンときませんが、当時は結構シビアだったのでしょう。ともあれ、脳・神経系の細かい構造の比較ができるようになったのはヒスの功績が大です。

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図204-1 ウィルヘルム・ヒス

図204-2は以前にも示したことがありますが(3)、これで明らかなのはヤツメウナギやヌタウナギ(円口類)は私たちと同じく終脳・間脳・中脳・延髄(橋)という脳のセクションを持っていますが、小脳はありません。このような脳の部域化は脊椎動物出現以前の生物の特徴を反映していると思われるナメクジウオでは、形態的には明瞭ではありませんが、機能的にはある程度の分業が行われているようです(4)。ナメクジウオは形を認識する眼は持ちませんが、多くの光受容細胞を持っていて、そこから得た情報を総合処理する上で、萌芽的ではあってもある程度脳の部域化が必要だったと思われます(5)。

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図204-2 円口類と魚類の脳の比較

ここまで述べてきたことから考えると、脳の部域化は脊椎動物出現以前すなわちエディアカラ紀から始まっていたと思われますが、脊椎動物の中でも最も発達した脳を持つヒトにおいても、脳に接続する末梢神経はほとんどが橋・延髄につながるものであり、終脳・間脳・中脳につながっているのは視覚と嗅覚に関連するもののみです(6、7、図204-3)。

脊椎動物の基底生物群に近いと考えられているヤツメウナギでも同様で、嗅覚・視覚に関連した神経束が終脳・中脳からそれぞれ出ているほかは、主要な末梢神経はほとんど延髄(橋)から出ています(8、図204-4)。このことは脊索動物は触覚に頼って生きていた頃は、現在の延髄(橋)に相当する脊髄最前部の部域を使って感覚と運動の統合を行っており、その後視覚や嗅覚が発達するにつれて前方の脳部域(終脳・間脳・中脳)が発達したと考えられます。

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図204-3 脳に接続する主要な12の末梢神経(爬虫類・鳥類・哺乳類の場合)

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図204-4 ヤツメウナギの脳と接続する末梢神経

脳の部域のうちで最も後発なのが小脳で、これは円口類にはみられず、魚類に初めて登場します。小脳は条鰭類・肉鰭類・軟骨魚類すべてにみられるので、顎が形成されると同時にできたと思われます(9、図204-5)。

図204-5を見てまず驚くのはウバザメの小脳が巨大であることです。ウバザメはプランクトン食でゆっくり移動しているだけの巨大サメで平和的な動物なのですが、こんな立派な小脳を持っているとは・・・。軟骨魚類は哺乳類などよりずっと昔から生きていて、現在でも繁栄しているわけですから、もちろん昔のまま=生きた化石ではなくそれなりに進化してきたわけです。ウバザメもシャチなどに襲われることもあるので、それに対抗するために小脳を進化させたのかもしれません。

サメの脳みそでググると森喜朗がゾロゾロ出てきますが、サメの脳を馬鹿にしてはいけません。その嗅覚関係の立派さはヒトと比較すべくもありません(10)。またサメの脳はロレンチーニ器官によって感知した電気信号の処理も行っています(11)。

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図204-5 様々な魚類の脳を比較する

ナメクジウオの脳の部域化はある程度脊椎動物との比較はできるものの、まだまだ萌芽的なので、専門家でもそのつながりを研究するのは苦労しているようです(12)。ナメクジウオはカンブリア紀の弱肉強食の世界をうまくエスケープして生き残った生物の末裔なので、まだ脳の部域化が萌芽的であったエディアカラ紀の面影を残しているのでしょう。脳の部域化はカンブリア紀にイメージを形成できる眼を持つ生物が生まれたことと密接に関係しているはずです。このような眼で獲得した情報を処理するために、生物は菱脳の前方に大量の神経細胞を用意することになりました。画像情報を処理するために、いかに大量のメモリーが必要かは、デジカメやPCを扱う人なら誰でもわかります。

軟骨魚類や条鰭類とくらべて、私たちのご先祖様に近い肉鰭類は概して小脳はあまり発達させませんでした(図204-5)。これは彼らが辺境の生物(淡水・深海・夏には干上がる沼地など)であるため、動作の機敏さより環境への適応が重要な課題であったことを思わせます。彼らから生まれた両生類も小脳はあまり発達していません。

参照

1)His, W., Beschreibung eines Mikrotoms. Archiv fur Mikroskopische Anatomie vol.6, pp.229-232. (1870)

2)Michael K. Richardson and Gerhard Keuck, The revolutionary developmental biology of Wilhelm His, Sr., Biol. Rev., vol.97, pp.1131-1160. (2022)
doi: 10.1111/brv.12834
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9304566/pdf/BRV-97-1131.pdf

3)続・生物学茶話194: 円口類
http://morph.way-nifty.com/grey/2022/11/post-99b318.html

4)続・生物学茶話187: ナメクジウオ脳の部域化
http://morph.way-nifty.com/grey/2022/08/post-277eea.html

5)続・生物学茶話186: ナメクジウオの4種の眼
http://morph.way-nifty.com/grey/2022/08/post-e84af9.html

6)Wikipedia: List of nerves of the human body
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_nerves_of_the_human_body

7)ウィキペディア:脳神経
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C

8)Manuel A. Pombal and Manuel Megias
Development and functional organization of the cranial nerves in Lamperys.,
THE Anatomical Record vol.302: pp.512–539 (2019)
https://doi.org/10.1002/ar.23821

9)K.Kotrschal, M.J.Vanstaaden and R.Huber, Fish brains: evolution and environmental relationships., Reviews in Fish Biology and Fisheries vol.8, pp.373-408 (1998)
https://link.springer.com/article/10.1023/A:1008839605380

10)Go! Joppari サメの脳
https://jopparika.exblog.jp/10910039/

11)ウィキペディア:ロレンチーニ器官
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%8B%E5%99%A8%E5%AE%98

12)José Luis Ferran and Luis Puelles, Lessons from Amphioxus Bauplan about Origin of Cranial Nerves of Vertebrates that Innervates Extrinsic Eye Muscles., The Anatomical Record vol.302, pp.452-462 (2019) https://doi.org/10.1002/ar.23824
https://anatomypubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ar.23824

 

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2023年3月 3日 (金)

ミーナ:思い出のナイスショット3

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ミーナが言いたいことは90%くらいは理解できていたと思います。サラが言いたいことはいまだに70%くらいしかわからないのが残念。

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ミーナ:思い出のナイスショット2

しばらくミーナの思い出に浸ることにしようかな・・・

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2023年3月 2日 (木)

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ミーナが死んだのは昨年の3月19日。それからずっと私も、サラも、そしてこのブログも、ペットロス状態が続いています。サラは単独生活者としての猫族を代表するようなキャラですが、ミーナは異常にフレンドリーなタイプで、多分ミュータントだと思います。私が一番好きなショットを貼ります。あの世からもこのブログを応援してほしい。

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2023年2月28日 (火)

村上安則著 「脳進化絵巻」

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村上安則著 「脳進化絵巻」 共立出版 2021年刊

「脳進化絵巻」とはなんともレトロなタイトルです。しかも倉谷滋という知的モンスターが背後霊のようにくっついています。しかし私の最近の知的関心から言うと、読む以外に選択肢はありません。

著者の村上安則氏は理研の倉谷研究室出身で愛媛大学の教授になった方です。至って真面目に脳の進化について書いてある本ですが、ところどころ「ソウルライクな死にゲー」とか「厨二病的要素」とか「ザクとは違うのだよ、ザクとわあ」とか意味不明な言葉が出てきて本の品位を下げていますが、まあ生物学者とは世の中とピントがずれててダサいという精神構造が似合う人種なので、はまり感はあります。

私は気になると調べずにはいられない性格なので・・・

「ソウルライクな死にゲー」:ダークソウルというアクションゲームのことらしい。死にゲーというのは死を目的にするのではなく、途中で死にやすいゲームのことらしいです。

「厨二病的要素」:中学2年生頃の思春期特有の自意識過剰な状況を揶揄する言葉だそうです。当て字をつかうのは品がないと思います(と思われます)。

「ザクとは違うのだよ、ザクとわあ」:なんていわれても・・・。この本の読者がどれだけガンダムを知っているのかどうか大いに疑問です。

進化の本なのに、進化のタイムスケール、たとえばカンブリア紀が何年から何年までというような年代記の図表がなかなか現れてこない(109ページの肺魚のところでようやくデボン紀~三畳紀のスケールが登場する)のは、進化と銘打ってはいますが、実は著者はタイムスケールにあまり関心がないことを露骨にあわらしているような気がします。これはこの本の欠点です。

著者は 悪い記憶がよみがえる → 死にたくなる or 奇声をあげる という性癖の持ち主のようですが、「飼っているヤツメウナギがそのような言動をとるのは見たことがない」と述べています。ところでヤツメウナギは右に行くとエサがあり、左に行くと電気ショックという迷路で記憶力を試した実験はあるのでしょうか? 意外にそんな実験をやらせた研究者に恨みをいだくかもしれませんが。

竜弓類の脳について記載があるのは珍しいと思います。想像の部分が多いでしょうがじっくりと読ませていただくつもりです。菱脳から話が始まっているのも、生物学らしくて大変好感が持てます。ともあれ私の座右の書のひとつになるのは間違いありません。

 

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2023年2月25日 (土)

四方恭子氏の名演奏

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🎵

都響のソロ・コンサートマスター四方恭子さんが今年定年退職なさるそうで、誠に残念です。演奏だけでなくその飾らないざっくばらんなお人柄がアットホームな雰囲気を醸成し、都響をユニークな楽団に成長させる原動力になったと思います。都響での演奏はこれからもウェブサイトにアップされると思いますので、彼女がケルン放送交響楽団を率いていた時代の演奏をリンクしておきたいと思います。

30年以上前のケルン放送交響楽団(現 ケルンWDR交響楽団 ) や周辺では、東洋人がコンミスをやるについては愉快ではない思いを抱いていた人も居たと思いますが、彼女はおそらくそのフランクなキャラと実力で乗り切ってこられたことと思います。

ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調
https://www.youtube.com/watch?v=g3_Mvh0Fpcg&t=1304s

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調
https://www.youtube.com/watch?v=mpvpu-sN4gY

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調
https://www.youtube.com/watch?v=Uqv04x2_4d0

ショスタコーヴィチ:交響曲第6番 ロ短調
https://www.youtube.com/watch?v=HqSlmROCTCE

グスタフ・マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
https://www.youtube.com/watch?v=JGAnvTlyGIQ

 

 

 

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